第18話 ボルネオ王国も動き出す

 商業施設の入っているビルと、ホテルと住居が入っている複合施設のようだ。

 商業施設の方は既にオープンしているようで正月だというのにかなり賑わっている。

 隣の住居権ホテルのビルの方はおおかた完成はしているようではあったのだが、まだ内装関係の仕事でもしているのだろう、グランドオープンは2月とのことだった。


 俺とタリアさんは完成している商業ビルの最上階にあるこじゃれた店に入り、軽めの食事を取っていた。

 ビル自体はかなり混んではいたが、ここまで高級店になると流石に待たずに入れた。


 世の中のセレブは本当に時間を金で買うのだということが身を持って理解できた。


 案内されたのがこれも運良く窓際で、天気もよく、本当に見晴らしが良かった。

 それに一緒にいるタリアさんはすこぶる美人だ。

 なんだかデートでもしている気分で、ちょっぴり恥ずかしく有り、落ち着かない。


「直人様、遠くに見える綺麗な山の名前はわかりますか」


「あ~~、空気が澄んでいるのでここからでも富士山が見えるのか。

 あの山は富士山という山で日本最高峰の山だ。

 それにあの山はユネスコの世界遺産にもなっている山だよ。

 俺の育った施設からは近かったので毎日のように見ていたけど、東京からは今日のように空気が澄んでいないと見えないと聞いているよ。

 運が良かったね。

 昨年は特に年末にかけて本当に色々とあったが、今年はいいことがたくさんあるような気がしてきたよ」


「そうですね。

 でも私は、昨年も人生で最高のことがありました。

 素敵な方がご主人様になって頂き、その……私を優しく女性にして頂けましたから」

 タリアさんは本当に恥ずかしそうに顔を赤らめながら、最後の方はほとんど消えそうな声で言ってくれた。

 そういう話だと、俺はエニス王子にあってから信じられないくらいの幸運に恵まれているな。

 俺の出来る限りのことで、エニス王子を始めみんなのために頑張ろうと、俺は富士山に向かって一年の抱負を決意して、願った。


 もうしばらくここで景色を眺めながらゆっくりとお茶をして、タクシーでホテルまで戻った。


 ホテルでは最後の組であるようで、みんなは既に戻っていた。

 のんびりしていたのは俺たちだけで、みんなはなにかしら仕事を持って色々と動き回っていたようだ。

 ホテルに戻っても作業スペースに当てている部屋でパソコンに向かって仕事をしている人もいる。

 タリアさんもすぐに自身のパソコンを立ち上げて何やら始めていた。


 それを見ていた俺は俺もなにかしなければとキョロキョロしているとかおりさんがお茶を入れて持ってきてくれた。


「直人様はゆっくりとしていてください。

 私たちは春からの日本での直人様の生活について検討をしていたので、もうしばらく仕事をしている者もいますが、気にしないでください。

 どちらにしても明日ボルネオに戻りましたら直人様も忙しくなりますから、今だけはゆっくりとしていてくださいね」


 かおりさんにそう言われ、軽くキスをされた俺は若さのためだろうか、かおりさんとその場でイチャイチャし始めた。


「仕事をしている者もいますので、こちらにいらしてください」と言われ、かおりさんにベッドルームに連れて行かれた。

 女性とムフフフ1対1で相手してもらうのは久しぶりな感じがする。

 あ…飛行機の中でアイさんにしてもらったからまだそんなには日にちを開けていなかったが、もしかするとかおりさんとは初めてかも知れない。


 非常に楽しみだ。


  ……………

   ……………

    ……………


 ふ~~~~、ごちそうさまでした。


 じっくりと2時間を使って楽しませてもらいました。

 搾り取られるわけじゃなく、かといって、あたりかまわず吐き出したわけでもない。

 じっくりと蜜壷を息子がそれこそワインの鑑定でもするように味わっていた。


 本当に天国に居ると錯覚を起こすような時間が持てた。


 俺は自分の周りが今まで経験していた人生とは全くの別物に変化したのをしみじみと感じる瞬間だ。


 その後は、ホテル内の予約を入れてあるレストランの個室でみんな揃っての食事を取った。


 俺は、生活が完全にセレブへと変化しているのはわかっているのだが、許される範囲で奴隷として仕えてくれる女性たちとは一緒に食事を取るようにしている。


 ボルネオ王国ではエニス王子やハリー皇太子と一緒に食事を取ることが多く、流石に奴隷の全員を同席させるのは憚られるのだが、それでも食事を彼らと一緒に取ることができない昼食の時などは女性奴隷たち全員と食事を取るようにしていた。


 当然今回の日本でも、遠慮すべき人たちがいないので、日本まで一緒に付いて来てくれた5名とは可能な限り一緒に食事を取っていた。


 日本最後の夕食なので、ちょっと豪勢にみんなで慰労も兼ねて食事会を開いた。

 高級ホテルなので、国家機密クラスの機密でなければ小声ならば話していても問題ない。

 食事をとりながら、今までのことや今日分かれて活動していた内容などについて雑談程度に話を聞いていた。

 このような会話でも、どこでも出来る範囲は簡単に超えているので、いちいち気を遣う。

 そういう意味では外交官や企業経営者などが高級ホテルに滞在するには実のあることだと俺は実地で学んでいった。


 翌日は羽田で昼食をとり、そのまま自家用機でボルネオに帰っていった。

 東京からボルネオまでは航空会社の便を使うとどうしても途中で経由地を挟むために8時間以上かかるが、専用の自家用機では直接向かえるので5時間弱で着くことができる。


 これも世のセレブの愛用する自家用機の効用かと俺は理解していった。

 会社を作るときにかおりさんたちからしきりに勧められた自家用機の購入には初めは反対していた。

 とにかく質素に生きてきた俺にとって贅沢は敵だという認識が取れない。

 しかし、セレブの生活を余儀なくされた今から考えると、セレブの贅沢にはすべてが全てとは言わないが、やむを得ない理由があることもあるのだと理解していった。


 ボルネオに戻った俺はかおりさんと一緒にすぐに皇太子府のハリー殿下に面会を求めた。

 すぐに許可が下りて殿下の執務室に通された。


「やっと帰ってきたな、直人」


「まずは、内政干渉とも取れかねないことをしておりましたことお詫び申し上げなす」


「オイオイ、堅苦しいことは無しだ。

 正直今回の件は、私の方が救われたと思っている。

 まずは、直人が日本で掴んできた情報を教えてくれないか」


「その前にちょっと待ってくれ」

 殿下の執務室の扉がノックされていた。


「これで役者が揃ったな」


「直人、おかえり。

 まだ大変なことになりそうだな」


「エニス王子、ただ今帰りました。

 ちょうどこれから殿下に報告をするところだったので、ご一緒願えますか」


「そのつもりだ。

 ハリーもそのつもりで私のことを呼んだのだろう」


「あ~、そのつもりだ。

 その上で、改めてお二人に協力をお願いしたい」


「あ~、協力するのは一向に構わないよ。

 今まで我々の方がハリーに助けられてばかりいたからな。

 それよりも、まずは情報だろ。

 直人、頼めるか」


 俺は日本での話を簡単に行って、かおりさんに詳細の情報をまとめて報告してもらった。

 まだ英語での会話で細かなニュアンスを説明するには俺の受験英語では力不足で歯が立たない。


 すべての報告が済んだところで、全員からはしばしの沈黙しか出ない。

 しばらくしてから徐ろに殿下が漏らすように話し始めた。

「そうか………、今の話を聞く限り、限りなく黒だな。

 そうなると、このあとの行動が問題になる。

 どうするかだな」


「あいにく日本ではあと数日は動けません。

 官庁の仕事初めまでは追加では何もできることはありません」


「とにかくだ。

 今できることは、敵に悟られることなく、計画の進行を留めることだな」


「実際に、計画ではどんな感じなのですか」


「割と先方は急いでいる感じかな。

 とにかく資金面だけでも先行させたかったようだ」


「なんかそれって、詐欺の手法そのもののような気がするのですが」


「正しくその通りだな。

 しかし奴らも考えているようでな。

 なにせ本物の日本の大使も関わっているしな。

 どうしたものかな。

 大使を無視するわけにもいかないし。

 すぐに外交問題になりそうだしな」


「とにかく、日本の官庁が動かないと始まりませんから、仮病でも使ってでも関係者には会わないようにした方がいいでしょう」


「直人、いつまで我慢すればいいかな」


「仕事始めの日には通常官庁関係はその日には仕事にならないと聞いていますから。

 そうですね、できれば7~8日までは会わない方がいいでしょう。

 私の方は頻繁に里中さんに連絡入れて、様子を伺いますから、毎日状況を確認した方がいいかもしれませんね」


「では、明日から夕食後にでも時間を取るとしよう。

 それでいいかな」


「そうですね。

 それなら今までの生活となんにも変化は見られませんから敵にも悟られないかと。

 後ひとつの問題は、ここ皇太子府に詰めている職員を疑いたくはないのですが、日本国大使館の汚染も疑われているのですので、ここもありえないとは言えないでしょう。

 関係者の数はしばらくは絞った方がいいかもしれませんね」


「そうなると食堂で話すわけにはいかないか。

 尤も食事の時に話す内容じゃないけどな」


「今夜の食事の時から、夕食後に我々、特に直人様の日本での土産話をするということで西館に殿下をご招待させて頂きます。

 殿下お一人では難しいかもしれませんができる限りお一人で西館のラウンジに来ていただけないでしょうか」


「なに、そんなことは別にかまわないよ。

 同じ敷地内だ。

 何ら問題はない。

 では、今日からそういう方向でいこう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る