第16話 大事の予感
翌日、皇国ホテルで無事に大村さんとの合流がかなった。
ロビーで話せる内容じゃないので大村さんと一緒にロイヤルスイートまで案内してきた。
いらぬ誤解をさせないようにかおりさん以外の女性にはとりあえずロイヤルスイートの別室で待機してもらった。
本当は自由にしていていいよとはいったのだが、昨日も自由な時間を頂いているとかで別室での待機となった。
かおりさんにはお茶を入れてもらい、今まで掴んでいる情報と俺が懸念している内容を話して、同じ外務省勤務の大村さんのお知恵を借りた。
俺からの話で、大村さんの第一声が『ありえない』ということだ。
院長先生がおっしゃっていたこととほとんど同じで、こういった技術支援とか援助とか言ったことについては、必ず本庁からの担当者が現地での窓口となり、決して現地大使館員が専用で窓口業務に当たることはないとのことだ。
ましてや大使自ら窓口のようなことはしないし、王国であっても担当政庁に行くのであって、皇太子府に赴き皇太子殿下との会合は考えにくいということだ。
仮に皇太子府が主導であっても実際に業務を受け持つ部署があり、実務関連はそこに行くという話であるし、産業支援などで業者を同行させる場合は産業省が主管となるので必ず産業省の担当者も同行するし、入札などしていなければ1社だけの同行はありえないというのだ。
俺らの話を聞いただけでは判断するのは危険だがそれでも真っ黒しか見えてこないというので、大村さんは大学の先輩で外交戦略局の調査部にいる里中先輩に話してみると言ってくれた。
ただ全容が予測した通りならばかなり大事になってしまい、扱いに注意が必要だとか、この件はできる限り情報を秘匿して欲しいとも言われた。
しかし、俺としても今まで心配で勝手に動いていた部分もあり、とりあえずエニス王子と連絡を取りボルネオ王国の皇太子殿下だけに相談をしてみると大村さんには言っていた。
俺はすぐにかおりさん頼み、ボルネオ王国にいるエニス殿下と連絡を取り、一連の説明をして王子の判断を待つことにした。
その間大村さんは彼の先輩の里中さんに電話で話をつけていた。
なんとその里中さんは大村さんと同様に俺がこれから通う東都大学出身で先輩になるという事実もさることながら、先日のパリで起きた日本人を巻き込んでのテロ事件の調査を行っており、三が日にも関わらず、今も外務省の自身の職場で仕事をしているというのだ。
休みなく働くことにも動じない俺でも、正月返上しての仕事では外務省は本当にブラックな職場なのかと思った。
里中さんが正月返上で調査している事件は俺が被害にあったパリでの事件であることをすぐに理解した俺は大村さんの話している電話に向かって拝みだした。
すみませんね、ご迷惑をおかけしているのに、新たな問題を持ち込んでしまって。
その里中さんが、これからここに来るとまで言い出した。
俺たちはそのままこの部屋で里中さんの到着を待った。
外務省の本庁舎からここ皇国ホテルまでは歩いてでも行ける距離なので少しの間だけしかないのだが、そのわずかの時間を縫ってか俺の携帯にハリー殿下から電話が入った。
俺はすぐに勝手に調べて回ったことを詫びて、はっきりとはしないが今ハリー殿下が進めている計画がかなり怪しいことは伝えた。
その上で、内政干渉とも取れるのだがと断ってから計画の骨子を聞いてみた。
するとハリー殿下は俺の携帯に計画のサマリー部分だけでも添付データとしてメールすると言って電話を切った。
電話が切られてからほとんど待たずにメールが送られてきた。
メールには約束通り添付ファイルがあったので、携帯からかおりさんの持ってきているパソコンにデータを移してもらっていると、今度はロビーに里中さんが到着したとの連絡が入った。
直人はそのまま作業をかおりさんに頼んで、大村さんと一緒に、ロビーに向かい、里中さんを出迎えた。
「先輩、里中先輩」
ロビーに着くとすぐに大村さんは里中さんを見つけ声をかけた。
「大村か、で、そちらの方は」
「あ、本郷直人君です」
「本郷直人です。
パリでは大村さんに命を助けられてことが有り、その時に困ったことがあれば連絡をくれとおっしゃってもらい、今回もお知恵を借りるために協力を仰いだ次第です。
ここでの立ち話も、内容がちょっとアレなので、こちらに来てもらえますか。
場所は確保してあります」と言って里中さんを連れてロイヤルスイートまで戻ってきた。
「ほ~~、これはまたすごいところに連れてこられたな」
「こんな場所で済みません。
これには色々と訳がありますので、後ほどご説明もさせていただきますが、まずはこれを見てください」
直人たちが部屋に戻ってくるまでにハリー殿下から送ってもらった英文で書かれたサマリーがかおりさんのノートPC上にアップされており、すぐに閲覧できる状態になっていた。
「なんだ、これは。
ちょっとこれは………
新手の詐欺か」
「はい、多分そうなる寸前だったようです」
「コイツの出処は」
「あの~、これから話すことは十分に扱いに注意してください。
絶対にマスコミ等に流れないようにしてくださるよう、約束していただけますか」
「俺も外交官の端くれだ。
今更秘密のひとつふたつ増えたところで代わりようがないよ。
直人くんだったっけ、君がそこまで言うのなら俺の外交官人生をかけて約束しよう」
「里中様、ありがとうございます。
これの出処は、ボルネオ王国の皇太子殿下から先ほどメールで送ってもらいました」
「え!
聞いてないぞ。
いつの話だ」
「大村さんが里中さんに電話をしている時にボルネオ王国にいるエニス王子に今まで掴んだ経緯を話して判断を仰いだのですが、その後私のスマフォに直接殿下から電話があり、私から要求をしました。
殿下は快く応じていただきすぐにメールでくださったのがこれです。
なので、私も見るのは皆さんと一緒で初めてなのです
で、どんなことが書かれていましたか」
「ぶっちゃけ、日本から技術支援と交換に資金援助の申し出だな。
それもとんでもない数字が書かれているぞ。
『M資金』どころの騒ぎじゃないな。
だがな、直人くん、正直に答えてくれ。
君とエニス王子、それにボルネオの皇太子殿下との関係を教えて欲しい。
それと、自分の不勉強を恥じるのだが、そのエニス王子という人物もどういった方かも教えて欲しい」
俺は、ギリシャ旅行から、パリでの襲撃事件までのことをかいつまんで説明して、かおりさんに俺が頂いた書類から、叙爵に関するものだけを持ってきてもらい、かおりさんに説明をしてもらった。
説明を聞いた里中さんは、その場で大きく溜息を吐いて一言漏らした。
「もっと早くこの話を聞きたかったよ。
この1ヶ月ばかりの俺の残業は今の説明で全てが終わった。
大村も酷いな。
帰国した時に俺はお前に聞いたぞ。
パリの襲撃について。
ほとんど使える情報をくれなかったじゃないか」
「先輩、私だって外交官の端くれです。
他国、この場合スレイマン王国とボルネオ王国の2国が関わっておりましたし、その2国に関することは話せませんでしたね。
しかし、被害にあった日本人についてはあの時にきちんと先輩に説明しましたよ。
でも先輩は捕まった工作員の話ばかりで聞いてもらえませんでしたね」
「あ、そうだな、そうだった。
すまんことをしたな。
しかし、まだあいつら口を割らんのだよ。
お隣のどちらかじゃないかとは睨んでいるのだがな」
この話を横から聞いていたかおりさんが里中さんを気の毒に思ったのか、今回の件で貸しを作っておきたかったのかわからないのだが、里中さんに対して、提案を申し出た。
「里中様、パリでの事件をお調べのご様子。
この件はスレイマン王国にとっても重大事で、すぐに調査が入り、一応の結論が出されております。
先ほど秘密の保持をお約束いただいたので、私どもが本国から頂いた報告書をお見せしましょうか」
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