第8話 直人さんはどちらがお好き

 声が上ずりながら受験で培った英語力を駆使してアリアさんに話しかけた。


「こんにちわ、私は直人といいます」


「こんにちは、直人様。

 私は今までエニス王子の奴隷をしていたアリアといいます。

 直人様にはこれまでのお働きに我々一同とても感謝しております。

 また、スレイマン王国の国王からも感謝していると言付けを預かっております。

 つきましては、直人様にお礼を出したく少し質問をさせてください」


 美人のアリアさんが俺に英語で話しかけてくる。

 イレーヌさんよりは訛りはなさそうなのだが、何やら焦っているようか早口で俺には完全には理解できていない。

 俺は入試対策でよくやる主砲の応用で理解できる部分を繋げて全体を想像しながら会話を続けた。


 今の俺の頭の中には~~~

 アリアさんというのか。

 美人だな。

 で彼女が何を言ってきたのかよくわからないが、なんだかお礼を言われているようだ。

 なんでもエニスの母国の国王からもお礼を言われているようで何かくれるらしいことまではわかった。

 何を聞きたいのだろう。


「アリアさん。

 なんなりとお聞きください」


「国とエニス王子からお礼を出したいと考えております。

 直人様には『砂漠の英雄』という称号を国から出されます。

 それに伴い1代限りですがスレイマン王国の貴族に列せられます。

 報奨として、エニス王子から幾許かの財産が下賜されます。

 その財産の件ですが、有能な女性なれど、王弟殿下のお手つきのあった女性と全くの経験のない女性のどちらか希望がありますか」



 ここでまた俺の頭の中では~~~

 え?

 早口でよくわからなかったが、いいものだが誰かのお古と新品のどちらがいいかを聞いてきたのか。

 骨董品なのかな……正直何をくれるのかよくわからないので、もらえるものならなんでもいいぞ。


 アリアさんは決して俺を急かしていたわけじゃないのだが、あせっていたのか俺には急かされているように聞こえ、俺は焦って答えてしまった。

 本人はどちらでもいいと言うつもりが


「BOTH」


「両方ですか、それもそうですね。

 でも直人様も男の人なのですね」


 何やら俺の答えを聞いたアリアさんは怪しく微笑んで何やら言ってきた。

 俺はれっきとした男だとは思ったが、これに関しては何も言わずにいたら、アリアさんはまた聞いてきた。


「人数はどれくらいを希望しておりますか。

 5人…10人…20人?…もしかして100人?」


 どんどんアリアさんは数を上げてきた。

 数の上がり方が半端ないので俺は焦って


「10,10」

 と答えてしまった。


 するとアリアさんは

「分かりました10人ずつですね。

 十分に常識の範囲ですのでご希望に添えるかと思います。

 私はすぐに本国に連絡しませんといけませんから一旦失礼しますね。

 もうしばらくここでお待ちください」


 ここまで話していたアリアさんが怪しげなほほ笑みを浮かべながら部屋から出ていった。


 また一人になった俺は、一体何だったのだろうと先ほどの会話を思い出していたのが正直何を言っていたのか理解はほとんど出来ていない。

 でも、アリアさんには通じたようなのでこれで良いかと思い直しもうしばらく待つことにしている。

 どうせここでできることなど何もないのだから。


~~~~~

 一方、アリアの方はすぐに先ほどの部屋に戻り結果を報告した。

 エニスは先ほど入手した直人の答えを待って、国王に電話で連絡を取り、ここで決めた内容を伝え国王の了承をもらった。


 国王はほぼ想定通りなのでエニスの提案をそのまま了承し、叙爵の恩賞として国からは新人奴隷10名と1千万ドルの下賜金を出すことをその場で決めた。


 エニスはさらに国王陛下にアリアとイレーヌの直人への譲渡についても了承を求めたら、陛下は二つ返事で了承した。

 この提案には国王陛下もことのほか喜んでいたようで、電話口にアリアとイレーヌを呼び陛下自ら今まで王子への献身への感謝と譲渡される直人への変わらぬ献身をお願いされ、直人を支えエニス王子をこれからも支えて欲しいと声をかけられた。

 これを聞いた二人はその場で感極まり泣き出したが、国王陛下に変わらぬ献身と王子への絶対の協力を約束したのだ。


 ふたりが落ち着いた頃にボルネオ王国行きの飛行機の準備が整ったと空港職員が伝えに来た。


~~~~~


 エニス王子たちはボルネオの大使館員と一緒に最初に案内された部屋に戻り、俺にこれから一緒に飛行機に搭乗することを伝え、一緒に来てもらえるようにお願いされた。

 俺にしたら、ここに残っても身に危険が迫っていることを説明されたあとなので選択肢もなく成り行きに任せることにした。


 すると今度は、エニス王子の傍にいたアリアさんとイレーヌさんが俺のそばに来て、『これからはこの身を持って直人様のお世話をさせていただきます』とふたりして深々と挨拶された。

 この時の挨拶がカーテシーというものだと俺は後になって知ったのだが、この時にも最敬礼に近い挨拶だとなんとなくわかったので、とにかく驚いていたのだ。


 このあと俺は美人二人に挟まれるように搭乗機まで連れて行かれ、機上の人となった。


 その後は搭乗機が安定飛行に入ってからが先ほどのシーンになっていくのである。

 二人は書面にて正式に俺に譲渡されていたわけじゃないのだが、国王陛下直々にお声をかけられていたので、既に俺の奴隷と判断していたようだ。

 俺がまだ女性を知らなそうだったので、機上での筆おろしは避けたようではあるがふたりして精一杯のおもてなしを飛行機の中でしてくれた。


 飛行機の中は多数の個室が有り、エニス王子もまた個室に入っている。

 彼にも奴隷頭のサリーが付いていたのだが、そう言った色っぽいことはなかったようだ。

 エニス王子は正直それどころじゃないらしい。


 俺の『砂漠の英雄』への推薦状を書き上げ、財産譲渡の書類を作り、何より俺に譲渡する奴隷についての相談を無線にて本国の彼の屋敷と取り合っていた。


 乗っている飛行機はスレイマン王国の友好国であり、エニス王子と仲の良いボルネオ王国の皇太子殿下のいるボルネオ王国の王室専用機であるが、給油の関係でエニス王子の国であるスレイマン王国に寄ることになっている。


 スレイマン王国に着くまでに必要な書類を完成させ奴隷頭のサリーに持たせなければならない。


 エニス王子はまだ本国には身の危険が迫るために飛行機から出ることができないと俺は聞かされていた。

 今回フランスから避難するのにも自国の飛行機を利用しなかったのも同じ理由だ。

 

 エニス王子は最初ヨーロッパに遊学を兼ねての避難を考えていたのだが襲撃のこともあってボルネオ王国にしばらく身を寄せることになっている。

 そんなこともありボルネオ王国は無条件で今回の避難の手助けを行っているのだ。

 しかし、本当に小説のような世界があると俺はこの時初めて知ることができた。

 世界には俺の知らないことばかりだとしみじみ感じて、院長千瀬の言う『世界を見てこい』というのはこのことだったのかと考えていた。


 ボルネオ王国専用機の機長は、エニスが他国の王子ではあるが、先に挙げた理由もありエニス王子をコクピットに出入りさせ、喜んで無線を開放してくれている。


 とにかくエニス王子はとても忙しい。 

 無線で本国の屋敷にいる奴隷たちに連絡を取り、財産譲渡の準備をさせ、譲渡する奴隷の選定もある。

 決めなければいけないことは多く、また、当分の避難先であるボルネオ王国での件もある。

 以前より色々と良くしてくれているボルネオ王国の皇太子にも連絡を入れ、ボルネオ王国内の大使館員にも指示を出す。


 俺がこの世の春を謳歌しているのとは真逆の時間を過ごしていた。


 機上で5時間強かかってスレイマン王国の首都にある飛行場についた。

 先にも言ったとおり、彼らはこの飛行機の中からは出ることができない。

 エニス王子なんかは母国でもあるのに身の危険が迫るという理由で出られない。

 当然エニス王子の仲間と敵に認定されている以上俺も同様の扱いである。


 飛行機の燃料の補給と諸々の事情からこの飛行場にておよそ3時間ばかり待機することになっている。


 この貴重な3時間の間に、まず一番大事なスレイマン国王陛下からの勅書を頂いた。

 俺への叙爵と下賜品の目録を侍従より俺は機内で頂いた。

 次にエニス王子からの報奨品の目録を頂いた。


 式典らしいことはこれで済んだが、俺はこのあとアリアさんとイレーヌさんに連れられ機内のラウンジに当たるところでかなりの枚数の書類にサインをさせられていた。


 正直、盲判もいいところなのだが、俺には失うものは自身の命くらいであることと生来何も考えない性格もあって説明を受けてはいたのだが、よく理解できずにいるにも関わらず促されるままサインしていった。


 この作業だけで3時間という時間はあっという間に過ぎていく。


 飛行機の外では燃料の他、いろいろな資材も積み込まれていた。


 もう出発かという時間になって、女性ばかり、それも20代前半と思しき女性が20人も乗り込んできた。


 この国というよりエニス王子には一体何人もの美女を抱えているのかと直人は正直男として羨んだが、前ほど彼を呪ってはいない。


 なにせこの飛行機に乗り込んでからは絶世の美女であるアリアさんとイレーヌさんが俺から離れることなく面倒を見てくれているので、俺から離れることなく面倒を見てくれているので、俺は少しおおらかな気持ちで乗り込んでくる美女たちを眺めることができた。



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