第7話 陞爵の相談
俺らはそのまま大村さんに連れられて彼のオフィスに向かった。
ふたりして応接のソファーで一連の経緯を聞かれた。
俺が出来る限り丁寧に知る限りの事情を説明したら、大村さんは非常に驚いてそのまま部屋の電話を使って彼の上司である大使に連絡を取っているようであった。
とにかくこのあとも大変だった。
何度も同じ説明を違う人にしたりして、とにかく疲れた。
2時間後俺らは解放された。
大村さんのご尽力で大使から公用車を出してもらい、大使館の公用車でシャルルドゴール空港に連れて行ってもらった。
俺たちを乗せた公用車はシャルルドゴール空港の外交官などが使用する一般には使われることのないゲートから空港に入っていった。
車寄せには俺の知っているスーツを着た東南アジア系美人と男の人が数人待機していた。
男の人たちはボルネオ王国の駐フランス大使館職員で俺らを出迎えに来てくれた人たちであった。
公用車でここまで俺たちを送ってきてくれた大村さんは、そのボルネオ王国の大使館職員と一言二言話したあとすぐに俺らを彼に引き渡し日本大使館に戻っていった。
大村さんが別れ際に俺に自分の名刺を渡し、何かあれば連絡をくれと言ってきてくれた。
本当にかっこよく見えた俺は、単純にもは密かにこの時に大学を卒業したら外務省もいいかなと将来の夢を持った。
尤もこのあと俺の人生は、この一連の出会いから平凡とは程遠い生活を強いられることになるのだが、俺はこの時にはまだそのことを知らない。
俺たちは車寄せまで迎えに来ていたボルネオ王国の大使館職員に連れられて空港内にある特別室に通された。
比較的落ち着いた調度品に囲まれた部屋だがかなりこだわった作りの部屋だ。
ただの学生が入れる部屋じゃない。
俺は学校の校長室はおろか職員室でも落ち着かないのに、この部屋はなおさらダメだと思っていた。
早くエニスをあの美女たちにでも引渡し、旅行の続きをしたいと先程から考えているのだが、肝心のエニスがこの部屋にはいない。
この部屋に俺たちが通されたすぐ後にエニスを迎えにきた別の美女に連れられてこの部屋から出ていった。
美女……美女……もういい、やっぱりあいつは敵だ、俺は心の中で強く強く思った。
あいつは絶対にもげなければならない。
あいつは全人類の敵だ。
少なくとも地球上に生きている全男性の敵であると俺はこの時ことさら強く認定していたのだ。
~~~~~
で、その敵に認定されているエニスはというと、特別室に近い別室に迎えに来たサリー、それにヨーロッパに付いてきてくれていたアリアとイレーヌを集め何やら難しい顔をしながら話し合っている。
「直人殿は間違いなく彼らに目を付けられましたね。
このまま別れますと、彼は確実に彼らに殺されますよ」
「直人にはそれこそ何度も助けられたし、俺の初めて出来た親友だ。
このまま危険性があるのに放置はできない。
彼を連れて行きたい」
「それは問題ないかと。
既にボルネオの職員には確認が済んでおります。
飛行機には知ってのとおり十分に余裕がありますが、問題は直人殿のご予定かと」
「それは、全く問題ないよ。
いずれ埋め合わせでヨーロッパ旅行にでも招待すれば彼も納得するだろう。
だって、彼には予定を立てて行動する習慣がないようなのだから。
昨日の宿で彼から直に聞いたから間違いない」
「では、このまま飛行機に乗せます。
その後はどのように考えておりますか」
「どのように?
どういうことだ」
「彼へのお礼などの件です」
「それは十分に報いたい。
自国民だったら、勲章やら叙爵もあり得ることを平然とやってもらったしね」
「でしたら、叙爵されてはどうですか」
「既に国王とも相談しておりますが、エニス王子の強力な味方になって頂けたらと考えております」
「どういうことだ」
このあと、奴隷頭のサリーから驚くような提案があった。
現状でのエニスのスレイマン王国内での問題の発端は彼が他の王子たちより格段に多くの財産を持っていることだ。
このまま叔父である王弟から引き継いだ財産を維持するには問題が多すぎる。
最良の方法は彼の持つ財産をほかに分与して、もう少しほかの王弟との差を小さくすることだ。
しかし、他の王子に分与する選択肢はない。
国へ返還も今の状態では非常にまずい。
一番良い選択肢はエニス王子に近い信頼できる第三者に分与して見かけ上彼の力を小さく見せることだ。
彼の味方への分与なら、実質上何ら彼の力は損なわないという考えに基づいている。
ここでの問題が、エニス王子は王弟を除くと国内にはほとんど味方がいない。
強いてあげるのならば国王だけである。
しかし、先に挙げた条件で国王も分与先には適当でない。
ならば国外に求めることにすればというと、その場合には大義がないと国内世論の反発を受ける恐れがある。
しかし今回の場合には、直人なら叙爵と同時にエニスからお礼で財産の分与が可能だというのだ。
この案は、既に国王にも打診しており、エニスの判断に任せると返事を頂いているというのだ。
既に国王からは「砂漠の英雄」という称号の授与の許可が出ている。
この称号はスレイマン王国独自の称号で、ヨーロッパで一般的に言われているナイトの称号に近い一代限りの貴族の称号である。
ここまでお膳立てされていればエニスは全く迷うことなく自身が持っている油田工区の二つをお礼として出すことを了承した。
「油田だけ渡しても、素人にはかえって迷惑ではないでしょうか」
「私もそれは考えたのだが、その話を聞いた時に名案が思いついたのだ。
悪いが、アリア、それにイレーヌ。
彼のところに行ってくれないか」
「「それは名案ですね」」
「分かりました。
喜んで行かせていただきます」
「私も、喜んで。
他の王子のもとには行きたくはありませんでしたし、王宮に戻るのも正直魅力がありませんしね。
彼なら、申し分ありません」
「この旅が終わるまでにはお前たちの行き先を決めなければと思っていたのだが、考える余裕もなかったこともあるが、正直今の国内には勧めることのできるところがなかったのも正直なところだ。
直人のところに行ってくれれば、これからも直人とは太い絆もできるだろうし、何より工区の管理に問題は出ないだろう」
「しかし、二つの工区となると私たち二人だけでは……」
「直人に希望を聞いてくれないか。
私のところから人を出そう」
「それは名案ですね。
どれくらいまでを考えておりますか」
「さすがに叔父のところにいた全員を連れて行かれるとまずいが、叔父の財産だった場所だ。
半数までは出しても構わないと考えている。
しかし、奴隷を持つ習慣のない人にいきなり半数はかえって迷惑になると思うし、難しいな」
「分かりました、その辺も聞いてみます。
国王からもお礼を出したがっておられましたようですしね。
これから聞いてきます」と言って、アリアは部屋を出て直人がいる特別室に向かった。
~~~~~
本当に退屈していた俺は、時折空港職員が持ってくるコーヒーを飲んで時間を潰していた。
こういった場合、普通の人はスマートフォンをいじって簡単に時間を潰せるものだが、孤児である俺にはスマフォを持つ贅沢すら許されていない。
思い出して欲しい。
最初にアリアを助けた時に暴漢に投げたのが使い捨てカメラだったということを。
俺彼がスマフォを持っていたのならばそのカメラは持っていなかっただろう。
最も使い捨てという手軽さがあって彼は迷わずに暴漢に向かってカメラを投げることができたのだが、人生何が幸いするかわからない典型な事例であろう。
暇を持て余していた俺のいる部屋にアリアが入ってきた。
俺にすれば例えエニスの彼女とはいえ美人と話すことの喜びは何者にも変えられない。
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