第6話 俺も襲われる

 話はまた俺のヨーロッパ旅行に戻るが、俺はギリシャでの数々のアクシデントにもめげずに旅行を続けた。

 計画など持っていないので、日本に帰ってきても何も問題はなかったのだが、海外に出る機会は彼にはそう簡単には訪れないことをよく理解していたためだ。


 俺は時間の許す限り、お財布の許す限りの旅行をするつもりだ。

 幸いギリシャでのアクシデントにあったおかげで余分に33万円もの資金の追加を得たので、とにかく時間の効率化を考えながらヨーロッパを回るつもりでいた。


 ギリシャの空港でLCCのチケットを購入するのだが、空港のチケットカウンターに着いた時間で一番ロスの少ないのがミラノ行きであった。


 俺は迷わずにミラノ行きの飛行機に乗ってイタリアのミラノに飛んだ。


 旅行そのものに計画を作っていたわけじゃないのだが、あまりに無計画な旅行だ。

 ミラノでやりたことがあるわけじゃなく、ここでもタダの散歩しながらミラノの景観を楽しんでいただけだ。

 そんなのは1日もあれば飽きるので次はせっかくのイタリアに来たのだからローマに行こうかとバスや鉄道を調べてみたのだが時間がかかりすぎなので飛行機を利用するつもりでLCCのチケットカウンターを探していった。


 どこでどう間違えればそうなるのかは不明なのだが、彼が次に乗ったのがフランスのパリ行きの飛行機の中だった。

 シャルルドゴール空港に着いた時にはさすがに俺は流石に自分のアホさ加減に頭を抱えたが、気を取り直してパリの街を散策するつもりで空港を出た。


 雑誌やテレビなどで聞いたことのあるモンマルトルの丘に来ていた。

 ここは本当に坂の多い街だ。

 ここでもゆっくりと散歩していると、もう今回の旅行ですっかり定番となってしまった派手なアクシデントのイベントが始まった。

 目の前で複数の車が衝突事故を起こしている。

 当然、事故車の中から人が出てくるが、どうやら怪我はないようだ。


 そして定番の主役とも言えるあのイケメンの登場だ。

 件のイケメンは俺を見つけるとすぐに助けを求めるように走ってやってきた。


 本当にイケメンは命を狙われているようだ。

 ここに来て俺は彼の置かれている状況を初めて理解した。


 ここでも敵認定のイケメンではあったが、俺の好奇心と孤児院での教えに従って彼を無条件で助けることにした。

 院長先生からいつも言われていたのは、困っている人に会えばできる限りの手助けはしようというものだ。

 院長先生は口癖となっている「情けは人のためならず」という言葉を孤児院にいる全員に言い聞かせていた。

 当然わかりやすく意味の解説もしてくれていたので、俺のいた孤児院の出身者は全員が「人のためにならないので情けをかけない」というような間違えは犯さない。


 とにかく困っている人を見かけたら損得勘定を抜きにして助けようという習慣がついているのだ。

 当然この孤児院の出身である俺も同じだ。

 それもよりによって命を狙われているとなると放ってはおけない。

 すぐに彼の手を掴んでモンマルトルの丘を離れた。


 彼と一緒にモンマルトルの丘を離れようとして走り出した時に後ろから銃声が聞こえてきた。

 オイオイ、拳銃まで持ち出すとは、マフィアにでも狙われているのかと心配になったのだが、一度助けると関わった以上放り出せるわけにも行かず、逃げることに専念した。


 俺は不謹慎にも内心ちょっぴり喜んでいる部分もあった。

 以前、孤児院のみんなで見たスパイ映画の一場面を思い出して、自分が主人公にでもなった気になっていたのであった。


 その映画の主人公は機転を利かせ、見事に不利な状況から敵を巻いて危地を脱出していたのだ。


 さすがにマフィアでもテロ集団じゃないので一度に多くの関係ない人を巻き込むわけじゃない。

 そこで機転を利かせ、近くの観光客の中に紛れてモンマルトルの丘を離れた。途中日本人の団体観光客の集団が見えたのでしばらくその集団の中に紛れて暴漢たちをやり過ごしたりして、どうにか俺が泊まる安宿まで逃げ切ることができた。


 その日はふたりして怯えながら寝ることもできずに安宿で時間を過ごした。

 ふたりして寝れなかったために時間が余ったことを利用して、イケメンが初めて自分の正体を俺に明かした。

 俺も自分の置かれている状況を包み隠さずにエニスに話した。

 バスでの移動中にも感じていたことだが、ふたりは会った時から感じるものがあったので、すぐに打ち解けて色々と今度はバスの中で話したような馬鹿話じゃなく、今の危機的な状況の打開策を真剣に話した。

 安宿の電話を使えたので、エニスは連れ達とも連絡が取れ、シャルルドゴール空港までくれば安全が確保できる見通しとなった。


 翌朝になって俺たちは安宿を出て空港に向かった。

 安宿のある裏の路地は誰も人が無く安全に通り過ぎることができたが、大通りをしばらく歩いていると、例の襲撃者の一味に見つかった。


 悪党連中は俺たちを見つけると躊躇なく拳銃をぶっぱなした。

 今度は明らかに俺も襲撃するように俺にまで銃口を向け弾を放った。


 既に敵である襲撃者にとって俺はエニスの護衛かそれに類するものとの認識であるのだろうか。


 今まで数々の襲撃を俺によって妨害されていたのだから、彼らプロの目から俺は多分その筋の人間に見えたのであろう。


 後で大使館の人から聞いた話では、実際に今回襲撃に当たっている諜報組織はKCISであることから、俺が自衛隊の諜報員と勘違いしていたようである。


 なので、先に護衛である俺を倒そうと俺に向け拳銃をしきりに撃ってくる。

 これには素人の俺にとってはたまらない。

 とにかく闇雲に逃げ回った。


 どこをどう逃げていたのかわからなかったが、とにかく助けを求め大通りを逃げていた。


 逃げている俺の目にふと急に日の丸が目に入ってきた。


「大使館だ。

 日本国大使館だ」


 俺は大声で叫ぶとエニスの手を取って大使館の方に走り込んでいた。


 俺の手には自分のパスポートを目の前に掲げ、大声でそれも日本語で『たすけて~~』と叫びながら大使館に向かっていった。


 警備に当たっていた地元フランスの警察官は直人たちを止めようとしていたが、俺たちに気がついた日本国大使館で3等書記官の大村智さんが俺らを快く向かい入れてくれた。


 俺らを襲ってきた連中は俺らが大使館に逃げ込んでしまったのを確認したところで逃げていったが、大使館前で警備に当たっていたフランス警察の警察官に一人は取り押さえられた。

 プロの諜報員としたらかなり間抜けな失態だが、相当に焦っていたのであろう。

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