第5話 エニス王子襲撃の真相

 説明が前後しているがもう少し状況の説明にお付き合い頂きたい。


 エニス王子が何故奴隷を連れてヨーロッパに出ているかということと、そのヨーロッパで今も命を狙われているかということについてだが、先にも少し触れたがエニス王子の経済力に原因がある。

 彼の財産は今では王子の中ではずば抜けているのだ。

 当然エニス王子以外の王子は面白くはない。

 総合的な力を問えば、エニス王子はまだ成人したばかりで、政治力は他の王子に比べて著しく乏しい。

 この政治力の無さ

 尤も小さき頃より王弟の薫陶を受けて育ったエニスには、ことの善し悪しを図るだけの分別を持っているのでそう簡単に取り込まれることはなかっただろうが、そうなると早くから消されていた恐れもあった。

 全ては結果論ではあるが王弟の遺産を受け継いだからこそ急に注目を浴びる存在になり各勢力から狙われている。


 国内にいた時から再三にわたり暗殺未遂が起こっており、王弟も謎の死を遂げていたことからしばらく国を離れたほうが良いと父である国王からの提案があった。


 早くからエニス王子の世話役として付いていた奴隷のアリアとイレーヌもその提案に賛成で、一緒に密かに国外に脱出するように出国したのはつい最近のことである。


 しかし、各国の諜報関係者の諜報能力は優秀で、出国した次の日にはその事実を掴んでいた。


 ここからが各勢力で対応が異なっているようである。

 コロンビア合衆国もペトロ共和国もエニス王子を暗殺するのではなく、自陣営に取り込むか、政治的に無力化させる方向で工作を始めていた。


 国外でかなり強引とも言える襲撃事件を起こしているのは一つの勢力だけである。

 この中東地域で出遅れていた大明共和国の諜報関係者と彼らの走狗とも言える王位継承権第3位のウルマ王子だけだ。


 国王としても最初の襲撃事件の後にその事実を掴んで、すぐに動いた。


 王宮に国内に残る王子全員を集め言い放った。

「エニスが襲撃にあった。

 よもやこの中にエニスを襲うという不届きものはいないと思う。

 もし仮にそのような事実があればすぐにそいつをすぐにでも成敗致す。

 証拠などなくとも私が事実と認識した時点で判断を下すからそのつもりでいろ。

 ま~そのような奴はおらんとは思うがな。

 そこでだ。

 私からお前たちに命じる。

 お前たちはこの襲撃事件の真相を探れ。

 直ぐにだ。

 結果を待っている」


 ここまで聞いた王子たちは、少なくともこの事実を早く調べて報告すれば他の王子に対してアドバンテージを得られると考えてすぐに調査に当たるようであったが、案の定一人だけは青い顔をしていた。


 三男のウマル王子だけは事の重要性をこの時に初めて理解したのだ。

 彼は大明共和国の走狗となって既にかなりの時間が過ぎており、彼の周りにはほとんど大明共和国のエージェントで占められていた。

 そのエージェントの一人から既に最初の襲撃の失敗の報告を受けていたのだ。


 ほかの王子は既に調査に動き出している。

 彼らの背後の勢力は既に事実を掴んですらある危険性が心配されていた。


 他の王子からこの事実を国王に報告されればウルマ王子は身の破滅である。

 当然ウルマ王子の後見役になっている大明共和国もただでは済まない。


 ウルマ王子の屋敷で彼らとの打ち合わせが持たれ、ウルマ王子からある程度事実をコントロールした内容ですぐに報告することにした。


 実際にヨーロッパで工作にあたっているのは大明共和国のエージェントではなく、今では完全に傀儡としている高麗民国のエージェントであったため、すべてをこの高麗民国の諜報機関であるKCIS(K;高麗、C;中央、I;情報、S;セクション)の亡き王弟の油田工区をめぐる経済戦争のための暴発ということで話を済ませることにした。


 翌日ウルマ王子は国王に面会を求め用意した書面を手渡し報告を始めた。


「国王陛下、エニス襲撃に関して未確認ではありますが情報をつかみました。

 現在エニスを襲撃しているのは高麗民国の諜報機関であるKCISのエージェントではないかということです」


「KCISだと。

 なぜここで高麗明国がエニスを襲う必要があるのだ」


「エニスが相続した故王弟殿下の遺産である工区の契約に関することで、日本の石油会社である海賊興産が仮契約をしているものを、破棄させようとした一部の暴発だと大明共和国の方から情報を頂きました。

 かの高麗民国はかつてから何かと日本国ともめており、この工区でも競争で高麗民国の会社が海賊興産に敗れていると聞き及んでおります。

 証拠までは掴むことはできませんでしたが、ほぼ間違いはないかと思います。

 私の方から大明共和国を通して高麗民国に警告を出しておりますが、陛下の方でも大使を呼んで話されたほうが良いかと」


「ウム、そうだな。

 ウルマよ、よくやった。

 この件はわしが預かるので、今後は一切関わることはするな。

 良いな。

 ならばもう下がって良いぞ」


 ウルマは最後の国王の言葉を聞いて青くなりながらも国王の前から自宅に戻っていった。

 最後の言葉で、国王はこの件の黒幕をウルマであると確信しているようであるが、彼自身が今回報告で計画を止めたに等しい言葉を聞いて、この件での処分は保留とされたことを悪い頭でも理解は出来た。


 国王の方でも一応高麗民国に対して警告を出す意味で高麗民国の大使を王宮に呼んだ。


 当然、高麗民国の大使はこのような事実は聞かされていないし、どこの国でも大使が諜報活動の実態を認めるわけはないことも誰もが理解はしているが、警告にはなるので行われたに等しい。


 高麗民国の駐スレイマン大使は大使館に戻るとすぐに本国に対してクレームとも悲鳴ともつかない外交電を出して事の早期沈静化を図るように要請した。


 今回の襲撃事件でエニスを除くと一番の被害者はこの高麗民国の大統領府かもしれない。

 朝早くから大明共和国の外交部から直接大統領あてに工作活動の中止を要請されるし、駐スレイマン大使からはほとんど悲鳴のような要請が入ってきたが、ここ大統領府に詰める誰もがこの工作活動に事実を知らされていない。

 それもその筈で、そもそもこの工作の要請は大明共和国の中央統一戦線工作部から直接KCISに対して出されているので今回の場合大統領府の誰もがその事実を知らされていない。

 それでも大統領は事実の調査と同時にこの工作の中止の命令を出した。


 しかし時既に遅く、最後の派手な計画が実行されている最中であった。

 一度秘密工作の計画が動き出せば、本国と実行部隊とは連絡が付かない。

 中止の余地のある計画ならばその手段も残されているだろうが今回はそのようなものがないから、この計画の結果が出るまでは誰も止められないのだ。

 そのために後に高麗民国が窮地に陥るのだが、これもそれも大国の政治ゲームに翻弄される小国の定めなのか。

 そう最後となる襲撃がパリでなされることになる。

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