第3話 エニス王子を取り巻く状況


 先程来、再三にわたり襲われているイケメンの名前はエニス、フルネームは少々長くなるがエニス・メフメト・バシャといい、中東のちょうど中間に位置する中堅の王国であるスレイマン王国の王子だ。

 昨年成人の儀を済ませ王位継承権は4位というれっきとした王族だ。

 歳は現在20歳になったばかり。

 王族で王位継承権を持つ男児であることから勝ち組と思われるかもしれないが現実はそうなに甘くはない。

 エニスは今の境遇に満足などしていない。

 王様になれそうにないからかって、そんな甘いことじゃない。

 今朝も命を狙われたばかりだ。


 正直ひと時も身の休まる時もない。

 少しの油断がすぐにこの世とサヨナラの世界に生きている。


 国の治安は政治を司る者の責任だから、ある意味そういう境遇は治安を維持できていない王族の責任だし、その王族に連なる王子もある意味自業自得だという人もいるが、確かにそういう部分もあるだろう。

 しかし、今の彼の境遇は自国だけの問題じゃない。

 はっきり言って世界の大国の思惑に翻弄されている小国の悩みそのものだ。


 それではスレイマン王国がどういう国かということを知ると理解できるだろう。

 スレイマン王国は、ここ中東では比較的豊かな王国だ。

 人口や国土の広さは中東でも比較的上位になるが目立って大国とは言えない。

 特徴といえばなんと言っても地下資源の豊かな国であり、主に石油資源が豊富な国だ。

 そのために西の大国コロンビア合衆国や北の大国ペトロ共和国の圧力を常に受けている。


 そもそもここ中東は多くの国が、この2国の陣営のどちらかに属しており、スレイマン王国はそれら陣営の中間に位置している。

 そのためにどちらの陣営に属しても敵側の陣営からの脅威を一手に受ける地政学上のリスクを抱えている。


 今中東の各国はこのどちらかの陣営に属しているが、どちらとも属さない国もいくつかある。

 スレイマン王国はそのどちらの陣営にも属していない国の一つだ。

 この中立とも言えるどちらの陣営にも属さないこれらの国のうちでスレイマン王国は、国力が飛び抜けており、中立グループのリーダー的存在と他の陣営からは目されている。

 その結果が両陣営からの圧力に現れている。

 常に非常に強力な政治的圧力をかけられており、なかなか中東が安定しない原因でもある。


 彼の父である現在の国王は非常に優れた方だ。

 国王は何より自国民の安寧と中東全域の平和を常に願い、微妙な政治バランスを一度もしくじることもなく取り続け、現状の見た目の平和を実現している。


 間違いなく彼の父は英主だ。


 しかし、英主の子供が皆英邁とは限らない。

 むしろ逆のケースが多いのが歴史を紐解くまでもなくそらかしこで見受けられる。


 ここスレイマン王国でも同様であった。


 王位継承権第1位の王子は欧米の豊かなライフスタイルに憧れるためか既にコロンビア合衆国の代弁者と成り果てているし、第2位の王子もまた兄への対抗の為にペトロ共和国の言いなりだ。

 そうなれば王室内はどうなるかは説明する必要もないくらい単純に両陣営の代理戦争のようになるかというと、そうではない。

 現実はもっと複雑だ。

 その原因が、今では非常にやっかいな存在となっている王位継承権第3位の王子の存在だ


 これは彼の存在というより国際政治状況の縮図とも言えることだが、最近とみに力をつけてきた東アジアの大国大明共和国が中東に独自の勢力を築こうとしているためだ。

 本来ならばこの大明共和国はペトロ共和国陣営に属するはずなのだが、最近独自陣営の構築に力を入れてきて、ここ中東にも目をつけてきた。


 既に中東の多くの国は両陣営に属して切り崩すのも簡単でない状況であることから、この大国大明共和国は残りの中立しているグループにターゲットを絞ってきた。

 正直、兄弟の中では一番頭の出来がという三男に近づき完全に傀儡化とすることに成功している。


 英主である国王はこの状況を完全に理解していたが各国の思惑を防ぐには力不足であった。

 そんな国王が唯一できることは未だに皇太子を決めないことだけだ。

 国王自身は、正直国王の弟に可愛がられていた4男のエニスに期待しているのだが、今の状況で彼を皇太子にはできない。

 しかも国王の良き協力者であり、国内最大の力を持っていた彼の弟は昨年他界した。

 原因は不明である。

 一説には、各勢力のいずれかが邪魔な彼を排除したとも言われているが証拠も犯人もわからない以上国王には何もできない。


 そんな不幸が重なる中での唯一の希望がエニス王子である。

 そのエニス王子の成人の儀が昨年弟の死の前に間に合ったことだ。

 彼は王弟によく教育されていて、十分にその能力を伸ばすのに成功して、今の彼でもすでに十分に英邁と言えるにふさわしいだけの実力を持っていることであった。


 今の国王にできる唯一のことは王弟の財産の相続を無事エニスに引き継がせることだ。

 なぜなら、王弟には子供もなく、正妻と呼べる女性もいなかったためか、彼の生前最後の希望が、彼の可愛がっていたエニス王子に財産を相続させることだった。


 国王の後押しもあり昨年に無事にエニス王子に財産の相続に関しては手続きを終えることができた。


 王弟の存命中は国内最大の資産家で、彼の私的財産はかなりのものがあった。


 本来子供もない貴族の財産は国に没収となるが、遺言もあり彼の公的管理の部分は国に返還されたのだが私的財産についてはエニスに相続された。


 この相続された財産だけでもものすごい。

 この相続でエニス王子は経済的には兄の三人の皇族の財産を合わせたものと同じくらいの財産を持つことになった。

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