第2話 ギリシャでのできごと


 それはLCCを乗り継いで初めてのヨーロッパはギリシャに着いたところから始まった。

 俺は早速、着いたばかりのアテネの街を一日かけてただ散歩するがごとく歩き回った。

 出来る限りこのチャンスを生かして色々と回っていきたいと考えていたので、スパルタくらいは見ておきたく、明日行くことにしていた。


 翌日、俺は宿を出て近くのカフェでおしゃれを気取って朝食を食べた。

 この世界的な観光地では彼の受験英語でも十分に不自由なく通じた。

 一部日本語まで通じたのには正直驚いた。


 ここは外国なので十分に余裕も持って行動しろと再三に渡り院長先生から言われていたので、1時間以上余裕が有るがバス停に向かった。


 バス停近くのオープンカフェに座りゆっくりとしていたら、急に辺りが騒がしくなり、絶世の美女がこちらに向かって走ってきているのが見えた。

 俺はただ漠然と美女に見とれていたら、その美女のすぐ後ろから彼女を追いかけてくるアジア人と思われる人が見えたのだが、あまりに物騒な光景だった。

 俺の見とれていた美女がそのアジア人に刃物で襲われそうになっているのが目に飛び込んできたのだ。


 俺は焦って手にしていた使い捨てカメラをそのアジア人に向かって投げつけた。

 俺の投げたカメラは角がちょうどアジア人の顔に当たり、驚いたのかアジア人は持っていた刃物を落としていたのが見えた。


 しめた、これであの美女も逃げるのに時間が稼げただろう。

 襲撃者は慌てておとした刃物を拾ってまた彼女に襲いかかろうとしたが、警察なども集まってきたので、そのアジア人は慌てて逃げていったようであった。


 やれやれ、いくら治安が日本よりも劣るとはいえ、初めての海外で、目の前での出血事件だけは勘弁してほしかった。

 件の美女は俺とあまり年の変わらない青年?を連れてカメラをぶつけ助けた俺にお礼を言ってきたのだが、警察やらやじうまやらが集まってきていたのでそそくさとその場から逃げるように離れていった。


 くそ~~~。

 あの美人はイケメン連れでやんの、そのイケメンに対して俺珍しく憎悪?の感情を抱いてしまった。イケメンはモゲロと。


 俺は後から来た警察に身分を確認されたのだが、パスポートを見せると、一言二言聞かれただけですぐに解放された。

 俺は日本のパスポートのすごさに感動を覚えた。


 ちょっとした?アクシデントがあったがバスは予定通り出発できたのはありがたかった。


 俺はバスに揺られて4時間かけてスパルタについた。

 着いたその場から、まずは宿探しを行い、ここでも散歩をした。

 夜になると観光客相手の屋台で簡単に食事を済ませ確保した安宿に入った。


 今日も色々と会ったせいでかなり疲れていたので安宿でもぐっすりと眠れたのはアテネの時と同じだ。


 翌日もスパルタの歴史ある街並みを楽しみながらの散歩だ。


 アテネに帰るバスは夕方になる前の時間だ。

 俺はここもアテネと同様に安そうなオープンカフェを見つけサンドイッチとコーヒーといった非常にコストを抑えた昼食をゆっくりと摂っていた。


 時間は既に2時を回っており、あたりには昼食をとる客はほとんどいなくなっていた。

 たまに散策に疲れた観光客が早めのコーヒーブレイクを入れに来るのが数組あるくらいだった。


 落ち着くな~

 昨日はひと騒ぎがこうしてゆっくりとくつろいでいた時にあったものだが、ってこれってフラグじゃないよな。

 俺は急に辺りを見渡した。

 俺の動作があまりに不審なようで周りから注意を引いてしまったようだが、そこは日本人、笑ってごまかそうと笑顔を振りまいていた時に通りを挟んだ向こう側で大きな音がした。


 キーキキー、ガッシャ~~~ン

 ドカ~~~~ン


 何だなんだ、やっぱりフラグじゃん。


 しかし交通事故とはね~~。


 わらわらと付近の人たちが事故現場のほうに向かっていった。

 俺は流石に野次馬に交じるつもりはなく、今いる場所から動かずに残りのコーヒーを飲んでいた。

 ただ視線だけは事故現場の方に向いている。


 事故現場にはどんどん野次馬が集まっていくのが見えた。

 しかし、よく見ていると野次馬の群衆と明らかに違う動きのある男の人が見えた。

 そうその男の人はこちらに向かって逃げてきているようであった。

 俺はその男の人を知っている。

 昨日助けた絶世の美人と一緒にいたイケメンである。

 俺がもげろと呪ったのが悪かったのか、事故にでも巻き込まれたようで逃げているようであった。


 逃げている????

 いや、あの人は後ろから追いかけてきているバイクにおそわれていようであった。


 俺はすぐさま逃げている男の方に向かい、彼の手を取ってすぐ横にある段差の奥に逃げ込んだ。


 急に目標が段差の奥に隠れるように逃げたので、彼を追っていたバイクが方向転換にミスり派手に転倒したのが分かった。


 俺と青年は騒ぎになる前にここから逃げ出し、アテネ行きのバスターミナルに向かった。


 バス停にはちょうど俺が乗ろうとしていたバスの1本前のバスがすぐに出るとのことだったので保護?したイケメンを放り込んでおしまいとしようとしたら、そのイケメンは逃げるのが必死で同行者と分かれてしまったとかで、最悪なのがその同行者に荷物をすべて預けているのでここには持ち合わせがないと涙目で訴えてきた。

 アテネに行けばすぐにでも現金を用意できるとかで俺に貸して欲しそうにしていたのだ。

 しょうがないので俺はもう一枚のバスチケットを購入してさらに俺のチケットの変更もその場で済ませてこのイケメンと一緒にアテネに戻ることにした。


 帰りは3時間ちょっとでアテネのバス停に着くことができた。

 バスの乗車中に件のイケメンとくだらない話をして盛り上がりあっという間にアテネに着いてしまった。

 俺は、イケメンは嫌いなのだが、このイケメンだけは気があって本当に話が楽しかった。

 唯一の失敗はこのイケメンの名前すら聞いていなかった事くらいか。


 どうせ外国で知り合った人など、ひと時の友情で終わりさ、これからの長い人生にはもう交じり合うことなどない、まさに一期一会の世界だと無理やり自分を納得させた。

 言い訳じゃないがこのイケメンは自分の素性を明かすのを極端に恐れているようでもあり、せっかくの楽しい時間を気まずくするのも躊躇われたためでもあった。


 バスがアテネのバス停の所定の場所に到着すると、すこぶる美人がこのイケメンを待っていた。

 明らかに前にあった超美人とも違う今度は東欧系の美女だ。

 このイケメンとは気が合うと思っていた俺であったが、美女を見たとたんに彼に裏切られたと感じ、すぐに敵であると認識を改めた……もげろ。


 イケメンはこの美女と一言二言話すと、なんとその美女が俺のところまでやってきてお礼を言っているようであった。

 英語を話しているようではあるのだが、なんだかロシア語訛りがあるようで俺の受験英語のスキルではコミュニケーションをとるのも難しいレベルだ。

 この事実を知っただけでも旅行に出た価値はあったと思う。

 本当は鉛がどうとかではなく、俺のヒヤリングの問題だけの話なのだが、言い訳できる箇所があったので、無理やり自分を納得させていただけなのだが……情けない、大学に入ったらもう少し英語を勉強しようと心に誓う。


 適当になんだかよくわからないのだが愛想笑いを浮かべながらお礼と思しき言葉を聞いていたら一通の封筒を俺に手渡してきた。

 もしやラブレターか……そんなわけあるはずもなく俺がイケメンに立て替えていたバス代だと言っているようだ。

 素直に受け取り最後の挨拶を交わして俺はイケメンたちとは別れた。


 一期一会だな、もう会うこともないだろうと思いながら封筒の中身を確認したら

  ………

   ………

 なんと驚くことに$100紙幣が三十枚も入っていた。

 しかし、何故ヨーロッパでドル紙幣?

 俺は素直な疑問を持ったがそれよりもその3000ドルがどれくらいの価値があるかというと、本日のレート換算で約33万円相当である。

 明らかに多過ぎる金額に貧乏人の直人は少々ビビっていた。

 もしやまたフラグか………

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