第3話 【私の文章】
「1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11…」
正面のミラーを見ながら、EMERALD MOONのメンバー達が真剣な表情でリハーサルを繰り返している。
CD音源に乗せて10人で、もう20回以上も同一の振り付けを通している。
それは、真剣試合を何度も行う武士の心境に似ていた。
しかし、薔薇の棘を全身に刺しながら生きてきた、苦しい下積み時代を経て、誰もが羨望と憧れの眼差しで見つめる深紅の大輪を咲かせながら、宝石のような眩(まばゆ)いばかりに煌めく存在に成った彼らにとって、天職のダンサーとして輝きを放てることが最大の喜びで有れど、どんな時も苦痛に感じることは全く有る筈もなかった。
「ちょっと、すみません!!
1回休憩お願いします。」
28回目の振り付けの通しが終わった後に、健斗は、リーダーの黄月 海琉(きづき かいる)に駆け寄った。
「どうした!?」
汗の雫を滴らせながら色白で背の高い青年が、優しい眼差しで不思議そうに訊ねる。
「あの…
ここの振りなんですけど、手を上ではなく横に伸ばしてから上げた方がカッコ良いと思うんですけれど、黄月さんはどう思いますか?」
「そうだなあ…。
健斗がそう言うんだったら、その振りでやってみるか!!」
優しく頷く黄月に、
「はい!!
有難うございます。
お願いします!!」
と、笑顔でガッツポーズした。
「皆(みんな)!!
さっき、健斗から提案が有ったんだけれど、ここの振りを横に伸ばしてから、上げてくれないか?」
「はい!!
分かりました。」
28回も練習したモノを修正するというのに、誰も全く嫌な表情を浮かべることなく、リハーサルを再開した。
まだ、2ヵ月も未来の話に成るが、
新曲『NIGHT VIEW~深夜の陽光~』のリリースに向けて、振り付けを完成させた後に、CD音源を流しながら、全員で1曲を通すという手法だ。
再び、軽快な曲調のイントロが響くと、10人は真剣な顔付きに戻り、修正した箇所のダンスも涼しい表情でこなしていく。
その8時間後に漸く全員が、納得のいく振り付けが完成したのだった。
壁の時計は12の場所を示しており、辺りは既に高層に聳える電飾が光り、暗黒の風景に包まれていた。
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