第2話 【T子さんの文章】
「うん…気持ちがいいな、ホント。」
ベッドにうつ伏せた健斗が、満足げに呟く。
上半身裸の彼の背中に、華奢な色白の手のひらが、丁寧なマッサージを施していく。
「ありがとう」
「凄く凝ってるね」
「まあね、いつも全力だからね」
「うん」
「理彩、マッサージの腕が上がったな。
トレーナーの劉(リウ)さんよりも気持ちがいいよ」
理彩は手を止め、
「それは愛があるからね」
サラリと言って、微笑みを浮かべた。
健斗が体を起こし、理彩の腕に手を伸ばす。
「ちょっと休憩」
「ダメよ」
そう言いながらも、拒む事はせず、健斗のキスを受け入れる。
目を閉じると、ムスクのパフュームと柔らかな唇の感触、体温が伝わってきた。
「止まらなくなりそう」
「…マッサージに戻るよ。
早く横になって」
理彩の言葉に素直に従う健斗。
地方のダンススクールで、一目置かれ上京した少年。
それでも、なかなか陽の目を見る事なく、30歳を迎える辺りで、ようやく世間に認められた。
今やカリスマ的存在の人気ダンスグループのメンバーの彼。
下積み時代に、理彩がバイトするカフェに常連客として来ていた健斗と知り合った。
どんなに売れても、傲る事なく、いつでも人一倍レッスンを欠かさず、関係者やファンへの感謝も忘れない謙虚な健斗。
理彩は、そんな彼を人間として尊敬し、ひとりの男性として愛していた。
勿論、ふたりの交際を公にすれば、理彩は多くの女性ファンの妬み、攻撃の対象になってしまう。
だから秘密裏に付き合う事が暗黙の了解でもあった。
健斗の為に、マッサージの勉強をして資格も取得した。
栄養士の資格も取得した。
どんな些細な事でも、彼の力になれるのなら、理彩は『日陰の存在』でも構わなかった。
「理彩、いつもありがとう!!」
健斗のその言葉に、胸がジンと熱くなる。
答える代わりに、彼の背中に抱きついた。
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