将来像
エレノアード帝国王城へ向かう馬車の途中。
セレスティーネさんが、僕に話しかけてきた。
「そういえば、アレク様……いつしか、アレク様がお助けになられた少年のことをお覚えですか?」
「僕が助けた、少年……あぁ、あの処刑台前でのことですか?」
「その通りです」
僕の言葉に対して、頷いて言うセレスティーネさん。
処刑台前で、というのは。
奴隷の少年を処刑しようとしていた現女王と、それに反対するセレスティーネさんが言い争っており。
そこに、僕が割って入った時のことだ。
……あの時は、まさかあの王女が信じられないほど劇的に変化して。
その変化のおかげもあって、数ヶ月後にサンドロテイム王国とエレノアード帝国の戦争が終結することになるとは、全く思ってもいなかったな。
過去を思い返してそんなことを思いながらも、僕は口を開いて言う。
「もちろん覚えてますけど、あの少年がどうかしたんですか?」
純粋に、今抱いた疑問を投げかけると。
セレスティーネさんは、その問いに答えるように言う。
「アレク様は、彼の少年に絵の具と筆を渡すようにと私に仰り、私はアレク様が仰られた通りに彼の少年に絵の具と筆をお渡ししました」
そして、と続けて。
「私がアレク様とお別れした後、彼の少年を保護しているセレスティーネ公爵家の保護施設に立ち寄った時、もしまたアレク様に会うことがあればこちらを渡すよう伝えられましたので、今こちらを渡させて頂こうと思います」
そう言ったセレスティーネさんは、懐から一枚の紙を取り出すと。
僕に、それを差し出した。
僕は、一体その紙に何があるのかわからなかったけど、そのまま受け取り。
紙を裏返すと────
「っ……!」
そこには、金髪で紳士服を着た男性と思しき人物が。
こちらに背を向けて、前方に剣を構えている絵が描かれていた。
「これは、もしかして……」
「はい、きっと、アレク様にお助けいただいた時のものでしょう」
「……すごく、綺麗な絵ですね」
「そうですね」
僕とセレスティーネさんの二人で、少しの間その絵を見つめる。
……これが、あの少年から見えていた、僕。
「私も、あの時はアレク様の背に居ましたのでわかりますが……この絵のアレク様からは、私があの時アレク様の背に感じたものと同じものを感じられます────優しさや力強さ、そして……今であれば言葉にできますが、アレク様の、王子様としての気高さも」
……僕が、この絵に描かれている僕のように、優しさや力強さを持っているかはわからない。
この絵に描かれている僕のように、王子としての気高さを持っているかもわからない。
けど────将来、次代を支える今の子供達に、こんな大きな背中を見せられる王になりたいな。
「……」
この絵を見て強くそう思うと、僕はその絵を大切に懐に閉まって言った。
「この絵は、サンドロテイム王国の王城で大切に保管させて頂きます」
「まぁ、それはよろしいですね」
「はい……あと、いつ頃になるかはわかりませんけど、色々と落ち着いたら、またあの少年に会ってこの絵のお礼を伝えに行こうと思います」
僕がそう言うと、セレスティーネさんは小さく口角を上げて。
「そうですか……ふふっ、アレク様に会いたがっているご様子でしたので、きっとお喜びになられると思いますよ」
「だと嬉しいですね」
そんなことを話しながら。
僕とセレスティーネさんは、そのまま馬車に乗ってエレノアード帝国の王城に向かった。
……エレノアード帝国の奴隷制度が無くなることで、あの少年は。
────ううん、あの少年だけじゃない。
他にもたくさんの人たちが、自らの才能や夢を摘まれることなく生きていくことができるようになる。
そして、僕は……そんな人たちの夢が叶う国を作っていきたい。
と考えていると────やがて、馬車はエレノアード帝国の王城に到着し。
僕とセレスティーネさんは、そのままみんなの待っている王城の会議室に向かった。
そして、会議室の中に入ると。
「あ!アレクくん、おかえり〜!」
セシフェリアさんがそう言って僕のことを出迎えてくれてから、続けて僕の隣に居るセレスティーネさんの方を見て。
「セレスティーネのこと連れてきたんだね!」
「はい」
僕が、頷いて返事をすると。
僕の隣に居るセレスティーネさんは、何故かこの部屋から居なくなっているスカーレット以外の、この部屋に居るみんなのことを見渡す。
「……アレク様のことをお求めになられている女性が数多くいらっしゃることは存じておりましたが────」
最後に、ヴァレンフォードさんの方を向いて言った。
「よもやマーガレット様までとは、少々驚きました」
その言葉を受けて、ヴァレンフォードさんは口を開いて言う。
「私自身も、この私が男に愛を抱いているという事象に驚きを抱いていたが……今は、そのことを受け入れる他無いほど、彼のことを愛してしまっている」
「男性に興味のある素振りなど全く見せなかったマーガレット様に、ここまで仰らせるとは……流石はアレク様ですね」
「い、いえ、僕は別に……」
笑顔で言うセレスティーネさんの言葉に困り軽く受け流すと、今度はヴァレンフォードさんがセレスティーネさんに向けて言った。
「しかし、私に言わせればシャルロットが男に好意を寄せているというのも、かなり奇異的に見える」
「確かにそうかもしれませんが────私はどのような男性よりも素敵なアレク様と出会ってしまいましたので、もうアレク様に出会うより以前の私には戻れません」
「ふふっ、同感だ……どうやら、本気で彼に恋焦がれているようだな────無論、それは私も同じだが」
それから、初対面となるセレスティーネさんとオリヴィアさんが互いに自己紹介をしたり。
元々仲が良かったというセレスティーネさんとレイラが、久しぶりの再会に話を弾ませていたりすると────
「っ!アレク、帰ってたんだ!」
何故かこの部屋に居なくなっていたスカーレットが、会議室の中に入ってきてそう言うと。
続けて、口を開いて言った。
「王城のホールの方で、戦争終結と和平を祝うパーティーの準備ができたから、早速今からみんなで行かない?」
戦争終結と、和平を祝うパーティー……!
スカーレットがここに居なかったのは、そのパーティーを開くためだったのか……!
スカーレットがここに居なかった理由が腑に落ちながらも、僕はそんなスカーレットの言葉に対して。
「行こう」
断る理由なんてどこにも無いため、すぐに頷くと。
他のみんなも異存は無いのか────
「パーティーとか久しぶり〜!」
「そうだな」
「アレク様と一緒にパーティー……!とても楽しみです!」
「殿下と共にパーティーか……ふふっ、いつ以来だろうな」
「楽しいパーティーになりそうね」
「はい、とっても」
各々、パーティーについて楽しそうに話し始めた。
それから、みんなで楽しくパーティーについて話しながら、スカーレットについていく形でパーティー会場となる王城のホールに赴くと。
僕たちは、日が暮れるまでの間。
美味しい料理を食べたり、音楽を楽しんだり、ダンスをしたりして。
みんなで戦争終結と和平を祝いながら、たくさん楽しんで過ごした。
そして、和平をしたのであれば、当然現サンドロテイム王国の国王である父上と、エレノアード帝国の女王が会わないわけにはいかないため。
僕たちは、夕暮れから夜にかけて、みんなでサンドロテイム王国へと向かった。
────セシフェリアさんとの約束の時は、もう、すぐそこまで迫っていた。
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