光景
僕は、僕がエレノアード帝国でした最後の約束を果たすべく。
スカーレットから聞いた、僕が迎えに行くべきある人物が居るらしい場所へと赴いてきた。
その場所は、このエレノアード帝国の街を見渡すことのできる高い場所であり。
そこには、長く綺麗なピンク色の髪をした女性の後ろ姿がある。
「セレスティーネさん」
「っ……!!」
僕が、そのピンク色の髪をした女性────セレスティーネさんのことを呼ぶと。
セレスティーネさんは、僕の方を振り返った。
そして、僕はセレスティーネさんと向かい合うと、口を開いて言う。
「お久しぶりです、セレスティーネさん……約束通り、サンドロテイム王国とエレノアード帝国の戦争を終わらせて、セレスティーネさんに会いに来ました」
「ルーク、様……ルーク様!!」
今にも涙を流してしまいそうな表情で僕の名前を呼ぶと。
セレスティーネさんは、僕の方に駆け寄ってきてそのまま僕のことを抱きしめてきて言った。
「本当に、長い間お疲れ様でした……私はルーク様が成し遂げられたことを、とても尊敬致します!そして、約束した通り、こうしてまた私にルーク様のことを抱きしめさせてくださり、ありがとうございます!」
「セレスティーネさんも、約束通りこのエレノアード帝国の中で、奴隷制度を廃止できるように最後まで頑張ってくださってありがとうございました……おかげで、この長く続いたサンドロテイム王国とエレノアード帝国の戦争を、終わらせることができました」
僕がそう言うと、セレスティーネさんは首を横に振って。
「それも全ては、ルーク様が王女様のことを────」
いえ、と続けて。
「女王様のことを、変えてくださったおかげです」
女王とスカーレットの計画は、セレスティーネさんにも共有されていたのか。
サンドロテイム王国とエレノアード帝国が和平をしたということは、王女は今女王になっていると気付いたため言い直したようだ。
でも、僕はそのセレスティーネさんの言葉に対して口を開いて言う。
「女王が変わったことは事実ですけど、それはあくまでも僕が変えたわけではなくて女王が自分で変わっただけです……だから、お礼を言われるようなことはありません」
「あなたという方は、いつも……しかし────」
セレスティーネさんは、顔を上げると。
僕と顔を向かい合わせて、優しい表情で言った。
「私は、そんなあなたのことを愛しています」
「っ……!」
僕が、突然愛していると言われて思わず声を上げてしまうと。
セレスティーネさんは、小さく笑って言った。
「ふふっ、ようやく、このお言葉をあなたにお伝えすることができましたね……ルークさ────」
何かを言いかけたセレスティーネさんは、一度言葉を止めて。
再度、口を開いて言った。
「ルーク様と再会できたことに嬉しさを抱き、思わず聞きそびれてしまっていましたが……ルーク様のご本名を、お聞かせ頂いてもよろしいでしょうか?」
前は、別に伝えても良かったけど。
セレスティーネさんが「仮にも今戦争中の国の公爵である私に、ルーク様の本当のお名前をお教えいただきたいなどと願うつもりはありませんが」と、礼儀として気遣ってくれたため。
こちらから名乗っても良いと伝えるのは無粋だと思って、本当の名前をセレスティーネさんに伝えることは無かった。
だけど、あの時と違って、今は────もう、名前を隠す必要は何一つ無い。
そのため、僕は口を開いてハッキリと言った。
「僕の名前は、アレク・サンドロテイムと言います」
「っ……!アレク・サンドロテイム様……ということは、ルーク様は、いえ、アレク様は、サンドロテイム王国の王子様、ということですか?」
「はい」
僕がそう言うと、セレスティーネさんは少し間を空けてから。
腑が落ちたように、頷いて言った。
「なるほど……私が初めてアレク様のことを見た時に感じた異質さや、その力強い瞳は、そういう理由もあったのですね」
続けて、セレスティーネさんは僕と目を合わせて。
「通常であれば、王子様だったと聞かされればもっと驚いてしまいそうなところですが────アレク様であれば、自然と納得できてしまいますね」
「まだまだ未熟者ですけど、そう仰っていただけると嬉しいです」
僕がそう言うと。
セレスティーネさんは、僕に優しく微笑みかけてくれてから、先ほど言いかけたことの続きですが。
と、枕詞に置いて。
頬を赤く染めると、僕の目を真っ直ぐと見て言った。
「アレク様……私は、アレク様のことを心より愛しています……今すぐにでも、身も心も、深く結ばれたいと願ってしまうほどに────そんな私の愛を、アレク様は、受け取ってくださいますか……?」
この問いかけに関しては、もはや迷うことなんて一つもない。
「はい、セレスティーネさん……僕は、セレスティーネさんの愛に応えます」
そう言うと────僕は、セレスティーネさんのことを優しく抱きしめ返した。
「アレク様……本当に、本当に、ありがとうございます……!私が目の前の現実に心が折れそうになった時、幾度となく私を助けてくださったあなたのことを、これからは私がお助けさせていただきます……!」
感謝の言葉と共に、セレスティーネさんはさらに僕のことを抱きしめる力を強める。
そんなセレスティーネさんに向けて、僕は今思っていることをそのまま口にする。
「きっと、今すぐに奴隷制度というものが当たり前で過ごしてきたエレノアード帝国の民の人たちの意識が一斉に変わることは、無いと思います……でも、僕は、セレスティーネさんのおかげで、このエレノアード帝国も、いずれ誰もが幸せになれる国になると信じることができるんです」
……ううん、そうじゃない。
「信じることができるというよりも、僕はそう確信しています……僕がそんな確信を持てるのは────セレスティーネさんが、貴族や平民、奴隷の人たちが一致団結しているところを見せてくださったからです」
「っ……!」
「初めてあの光景を見た時、僕は本当に感動しました……このエレノアード帝国でも、あんなことが可能なんだと……だから僕は、これから先、サンドロテイム王国とエレノアード帝国は手を取り合って、それぞれの自国だけじゃなくて、互いが互いの国を幸せにできるようになると確信しているんです」
なので、と続けて。
僕はセレスティーネさんのことを抱きしめる力を強めて、セレスティーネさんの目を見て言った。
「その確信を現実にするために……これからまた、一緒に前を向いて、みんなが楽しく暮らせる国を作っていくために、歩いて行きましょう」
「っ……!はい、アレク様……!」
それから、僕とセレスティーネさんはしばらくの間互いのことを抱きしめ合うと────セレスティーネさんが、僕が来る前に一人で眺めていたという。
奴隷という存在が居なくなった、明るい日に照らされているエレノアード帝国を二人で見渡し始める。
と、セレスティーネさんが口を開いて言う。
「これが、私がアレク様にお見せしたかった、エレノアード帝国のあるべき姿の光景です……最も、まだまだ奴隷という方々が居たという面影が見えますので、これよりそれらのものを全て無くし、本当にあるべき姿というものをアレク様にお見せしたいと思っています……そして、その頃のエレノアード帝国は────きっと、今とは比にならないほどとても明るく、美しい国になっているはずです」
「そうですね……そうなった時は、またこの場所に来て、その新しくなったエレノアード帝国の光景を二人で見渡しましょう」
僕がそう伝えると、セレスティーネさんは嬉しそうに目を見開いて笑顔で言った。
「はい……!その時を、今から心待ちにしております!」
それからも少しの間、二人で今のエレノアード帝国の光景を見渡して過ごすと。
僕は、セレスティーネさんのことを連れて、みんなの待っているエレノアード帝国の王城に向かうことにした。
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