戦争終結

「なっ……!お、お前!来るなと言っただろう!!」


 王女の姿を見て、エレノアード帝国の国王が大きな声でそう言うも。

 王女は気にした様子もなく。

 会議室の入り口からそのまま会議室の中へ入ってきて、僕の座っている椅子の隣に立つ。

 そんな王女の様子を見て、国王はさらに怒った様子で言う。


「大体、何が和平を受けるだ!和平をするかどうかを決めることができるのは、国王だけだ!王女のお前には、そんなことを決定する権限は無い!!」


 その言葉を受けた王女は、頷いて言う。


「はい、もちろん理解しています……しかし、だからこそ────その決定権は私にあるのです」

「なっ!!な、何を言っておる!!」


 国王が、王女の言葉を理解できないと声を荒げると。

 王女が、口を開いて言った。


「入って来なさい」


 王女がそう言うと、複数人の武装した兵士たちが王女の後ろに続くようにこの会議室の中に入ってきた。

 そして、王女は国王たちの居る方に手を差し向けて言う。


「あの者たちを、和平交渉の場で武力を用い、あろうことか相手国の王族に危害を加えようとした罪で、牢に捕えなさい」

「はっ!」

「な、何っ!?」


 王女と共にやって来た複数人の兵士たちが返事をすると、兵士たちは国王たちのへと近づいていく。

 それと同時に、セシフェリアさんたちは虚ろな目をやめて国王の首元に剣を添えるのをやめると。

 その兵士たちに、国王のことを明け渡すように国王の近くから離れた。

 そして、兵士たちが国王とそれぞれの王族を囲むように動くと。

 そのうちの一人が、口を開いて言う。


「王女様の命により、皆様の身柄を拘束させていただきます」


 今の言葉を合図として、複数人の兵士たちが国王たちの身柄を拘束しようと距離を縮める。

 が、国王は兵士たちのことを振り払うようにして言う。


「や、やめんか!お前たち!誰に無礼を働いておるか、わかっておるのか!!」


 そんな国王の言葉を。

 そして、普段鍛錬を積んでいないことが見るだけでわかる非力な抵抗をも無視して。

 兵士たちは、国王たちの身柄を拘束して、国王を席から立たせた。

 すると、国王は王女の方を力んだ目で睨みつける。


「ぐっ!お前……!!」

「お父様……これから私は、お父様に変わりこの国の王となり、このエレノアード帝国を最初から作り直します────今までとは違う、新しい形へと」

「はっ、過去に己の抱く野望を打ち砕かれたお前一人で、一体何ができると言うのだ!!」

「確かに、私一人では、また何もできないかもしれません」


 が、と続けて。

 王女は、力強く言った。


「このエレノアード帝国に住まう貴族や平民、全ての民の力を束ねれば────今度こそ、私が真に望む、この国に住まう民たちが幸せになれる国を作ることができると信じています」

「できるものか!お前などに、そんなことは────」

「できる」

「っ!?」


 国王の言葉を遮り、椅子から立ち上がって王女の隣に立つと僕はハッキリとそう言った。

 その言葉に対して驚いた表情を見せた国王に対し、僕は続けて言う。


「前までの王女なら、そんなことはできなかったかもしれない」


 少なくとも、僕が初めて出会った時の王女は、王族として本当に酷い言動をしていた……だけど。

 今なら、あの言動が、王女の中にある本当の望みの裏返しだとわかる。

 そして────


「でも……今の王女なら」


 僕は隣に立つ王女の強い意志の宿っている瞳を見て。

 今僕が抱いている考えを確信へと帰ると、口を開いて言った。


「────今の王女なら、絶対にそんな国を作ることができる……そして、僕も、その新しい国作りに協力していきたい」

「っ……!」


 その僕の言葉を聞いた王女は、一度目を見開いてから小さく口角を上げると。

 次に王女は、凛々しい顔つきで、国王を含めたエレノアード帝国の王女以外の王族を拘束している兵士たちに向けて言った。


「その者たちを、牢に連れて行きなさい!」

「はっ!」


 王女がそう言うと、兵士たちは国王たちのことを会議室の外へ連れ出していく。


「ぐっ!離せっ!離さんかっ!!」


 国王は、会議室を出るまでの間。

 兵士たちに対して、ずっと離せと訴え続けていたけど。

 兵士たちがそれをやめることはなく。

 やがて、国王たちがこの会議室の外へ連れ出されると、会議室の両開き扉が閉まり。

 国王の声は、全く聞こえなくなった。

 すると、王女が申し訳なさそうに口を開いて言った。


「私の父が、最後の最後まで見苦しいところを見せたわね」

「気にしなくていい……それよりも、やっぱり────あなたも、本当はこの国を変えたいと思ってたのか」


 僕がそう言うと、王女は小さく頷いて。


「えぇ……私以外の王族は皆、自己利益のことだけを考えていて、戦争や奴隷制度を採用することに賛成だったから、どうすることもできなかったのよ」

「……」

「そこで、私は私自身の限界を見て、見切りをつけて、いつしか嫌っていたはずのこの国の王族たちと同じように考えが醜く染まってしまっていたの────けれど」


 続けて。

 王女は僕の目を真っ直ぐ見えると、明るい表情で言った。


「あなたが、私に真の王族とはどうあるべきかを改めてぶつけてくれて、もう一度そのことについて考える機会ができて、私に『変えるきっかけを作る』と伝言をくれて、実際にこのエレノアード帝国の内情を大きく変えるためのきっかけを今こうして作ってくれた────」


 そう言った王女は、僕のことを抱きしめてくると。

 さらに続けて、僕の耳元で優しい声色で言った。


「何もかも、あなたのおかげよ……本当に、ありがとう」


 そう感謝を伝えてくれた王女の温もりを感じながらも。

 僕は、その王女の言葉に対して思ったことをそのまま口にして伝える。


「僕のおかげじゃない……そもそも、あなたの中にこの国を変えたいという気持ちが残っていなかったら、僕が何を言ったところであなたに僕の言葉は届かなかっただろうし、僕があんな伝言を送ることもなかった────だから、全ては、あなたがこのエレノアード帝国でその気持ちを守り続けてきたおかげです」

「……ふふっ、あなたはすごく優しいのね」


 小さく笑って言うと、王女は僕のことを抱きしめるのをやめて。

 僕に、手を差し伸べてきて言った。


「改めて、エレノアード帝国の新として、サンドロテイム王国と……あなたの国と、和平を結ばせて欲しいわ────この手を、取ってくれるかしら?」


 僕は、その言葉に思わず口角を上げながらも。

 その手を取って、握手を交わしながら言った。


「もちろんだ……エレノアード帝国女王、改めて、これからよろしくお願いします」

「えぇ……よろしく、サンドロテイム王国王子、アレク・サンドロテイム」


 ────こうして、長きに渡って続いた、サンドロテイム王国とエレノアード帝国の戦争は集結した。

 サンドロテイム王国と、エレノアード帝国の和平という形で。

 でも、これで終わりじゃない。

 むしろ、僕たちにとって、これは始まりに過ぎない。

 これから自らの国を担っていく者として、僕たちはこれからもどうすれば民たちに豊かな生活を送ってもらえるのかということを考え続けていかないといけない。

 そして、時にはとても困難な問題が降ってくることもあるだろう。

 だけど……きっと大丈夫だ。

 僕には、今目の前に居る女王や、セシフェリアさん、ヴァレンフォードさん、オリヴィアさん、レイラ、そして父上やサンドロテイム王国の民たちが居てくれるから。


 みんなが楽しく、幸せになれる国を、みんなと一緒に作っていこう。

 それが僕の────アレク・サンドロテイムの、次代の王としての務めだ。

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