和平交渉
────馬車に乗って、エレノアード帝国の王城前に到着すると。
「うわ〜!この王城久しぶり〜!」
その王城を見たセシフェリアさんが、大きな声でそう言った。
「そうだな……この地に敵国の人間としてやって来ることになるとは思ってもいなかったが、今であればこれで良かったのだと確信を持って言える」
「だね〜!」
二人がそう話していると、オリヴィアさんが僕に向けて言った。
「殿下、当然何かあれば私がお守り致しますが、和平という名目を囮として道中の王城内に伏兵が居る可能性もありますので、どうかお気をつけください」
「そうですね……万が一にも油断してしまわないよう気をつけます」
「はい」
「もしそのような事態になれば、私がアレク様のことを身を呈してお守りします!」
「ありがとう、レイラ」
僕を大切に思ってくれているのが伝わってくるレイラの言葉に感謝を伝えると。
レイラは嬉しそうに微笑んだ。
その直後に、僕たちの会話を聞いていたらしいヴァレンフォードさんが口を開いて言う。
「確かに伏兵が居る可能性は否定しきれないが、そこまで警戒する必要は無い……私は、この王城の構造と伏兵を潜ませる位置を全て把握しているからな」
「っ……!」
「ていうか、王城の警備考えたのもマーガレットだもんね〜!まぁ、和平の手紙に対してエレノアード帝国の王族たちが待ってるっていう会議室までの案内は要らないって返したこととか、他にもいきなり居なくなったり状況を無茶苦茶にしたこととかからも、私とマーガレットがエレノアード帝国を裏切ったことは勘付かれてるだろうから、その警備体制を変えてる可能性はあるけど────」
「私にすら予想することができない奇襲を仕掛けられると言うのなら、むしろ仕掛けてほしいものだ」
「その調子なら大丈夫そうだね〜」
相変わらず頼もしい二人のやり取りを聞き終えた後。
僕は、目の前にあるエレノアード帝国の王城と向かい合うと、口を開いて言った。
「では、行きましょう」
僕がそう言って王城内に足を踏み入れると、他の四人もそれに続くように王城に足を踏み入れていく。
……自国であるサンドロテイム王国以外の国の王城に入るというのは、少し違和感があったけど。
その違和感があるからこそ、僕は同時に周囲を警戒しながら進むことができた。
そして、特に伏兵に襲撃されるようなこともなく。
僕たちは、ヴァレンフォードさんの案内で。
いよいよ、エレノアード帝国の王族たちが待っているというエレノアード帝国王城会議室前に到着した。
すると、その両開き扉の前に立っている二人の兵士のうちの一人が、僕に話しかけてくる。
「……サンドロテイム王国王子、アレク・サンドロテイム様ですか?」
「はい……頂いた手紙に従って、この場に赴かせていただきました」
僕がそう返事をすると、二人の兵士のうちのもう一人が口を開いて。
「中で、王族の皆々様がお待ちです……どうぞ、お入りください」
そう言うと、二人の兵は目の前にある会議室の扉をゆっくりと開けた。
「……」
────この中に、この戦争を生み出した発端である人物たちが居る。
そう思うと、僕は思わず身構えてしまいそうだったけど……
今日は、あくまでも和平をしに来たため、僕はどうにか気持ちを落ち着けて。
四人と一緒に、その中に入る────と……そこには。
大きな円形のテーブルを挟むように二つの椅子が置いてあり、一人の男性だけが椅子に座り。
それ以外の人物は。その男性の後ろに立っていた。
「サンドロテイム王国の王子、アレク殿……で、間違い無かったか?」
椅子に座っている男性が、僕に向けてそう確認を取ってくる。
「あぁ、間違いない」
「そうか、私はこのエレノアード帝国の国王だ……よくぞ、こちらまで参られた」
エレノアード帝国の国王と名乗った男性ががそう言った直後。
会議室の中から。
加えて、外からも無数に足音が聞こえてくると。
閉じた扉が開かれて武装した兵士たちが、続々とこの会議室の中に入ってきた。
すると、あっという間に僕たちのことを取り囲んだ。
「……今回は和平を結ぶための場ということだったが、これはどういうことだ?」
僕がそう問うと。
エレノアード帝国の国王は、口角を上げて言った。
「やはり、サンドロテイム王国は青いな……和平という話に釣られ、たったこれだけの人数でこの王城まで乗り込んでくるとは」
「質問の答えが返ってきていない」
「ん?あぁ……和平というのは単なる餌に過ぎんということだ!こうして、憎きサンドロテイム王国の王子であるお前と、裏切り者どもをまとめて始末するためのな!」
「和平を受け入れないなら、サンドロテイム王国はエレノアード帝国に侵攻することになる……そうなれば、今度こそエレノアード帝国の民にも多大な被害が出るかもしれない」
「そんなものは、貴様を始末する前に、貴様の命を盾にして軍を引かせれば良いだけだ……それに、民に被害が出ようと関係などない、我ら王族が居る場所こそがエレノアード帝国なのだ!!そして、エレノアード帝国に敗北など許されん!!」
「……」
────これが、このエレノアード帝国の国王。
そして、国王の後ろに控えているおそらくは王族と思われる人物たちも、国王を咎めるどころかむしろ一緒になってこの状況を面白がっているように見える。
……通りで、こんな最悪な国ができるはずだ。
今更ながら。
僕の中でそのことが腑に落ちていると、僕は口を開いて言った。
「ここには、あなたのこともよく知っているセシフェリアさんやヴァレンフォードさんが居るんだ……だから、あなたがこんな行動を取ってくる可能性は、とうの昔に想定ができてた────その上で、どうして僕がたったこれだけの人数でこの地に赴いて来たと思う」
「なっ……!で、でたらめを────」
「それは、彼女たちとなら、どんな国難、災難、状況だったとしても必ず乗り越えられると信じてるからだ」
僕が力強く言うと。
エレノアード帝国の国王は、怒ったように言った。
「もう良い!お前たち!その者たちを始末しろ!!」
そのエレノアード帝国の国王の言葉を合図として。
エレノアード帝国の兵士たちが、僕たちに攻撃を加えようとした────直後。
「なっ……!?」
僕たちの周りに居た数十人のエレノアード帝国の兵士たちは、セシフェリアさんとヴァレンフォードさん。
そして、オリヴィアさんとレイラによって、瞬時に意識を奪われた。
すると、国王が大きく口を開いて言う。
「バ……バカな!あれだけの数を、一瞬で……だと!?」
酷く動揺した様子の国王に対し、セシフェリアさんたちが口を開いて言った。
「はぁ、私とヴァレンフォードに頼りっきりなのは大分前からわかってたけど、本当頭が足りないって大変だね〜」
「予測はしていたが、考え得る限り最悪の手段を取ったな」
「殿下にこのような仕打ちをするなど……決して許されることではない」
「アレク様を傷付けようとしたあなた方には、神の慈悲すら向けられないでしょう」
「なん、だと……!!」
四人を見渡して怒りの声を上げたエレノアード帝国の国王は、最後に僕の方を向いて言う。
「調子に乗るなよ、青二才の小僧が!!お前など、今すぐにでも始末してや────」
エレノアード帝国の国王がそう言いかけた時。
四人は、常人には目に追えない程の速度で国王の首元に剣を添え。
全員が、目を虚ろにして言った。
「死にたいなら早くそう言ってよ、そうすればすぐ楽にしてあげたのに」
「我が生まれの国の国王ということに免じ、特別に私が直接その生を終わりにしてやろう」
「殿下にあのような仕打ちをしただけでなく、愚弄するなど……貴様には、死のみが相応しい」
「アレク様のため、あなたはこの場にて死になさい」
その光景に、エレノアード帝国の国王は思わず言葉を失っている様子だった。
だけど、僕はそんなエレノアード帝国の国王に向けて言う。
「和平を受けてください……そうすれば、この戦争も終わって全てが解決します」
「ぐっ……だ、誰が、和平など、受け入れ────」
と、エレノアード帝国の国王が言いかけた時。
「受けるわ」
会議室の入り口からそんな声が聞こえて来たため、その方向を振り向くと────
「もう、終わりにしましょう」
そこに居たのは、このエレノアード帝国の王女だった。
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