貢献

 サンドロテイム王国の軍が、エレノアード帝国を包囲したことで。

 サンドロテイム王国の勝利が揺るがないものになると。

 エレノアード帝国の王族から、サンドロテイム王国と和平を結びたいと言われたため、僕。

 そしてセシフェリアさん、ヴァレンフォードさん、レイラの四人は。

 今からエレノアード帝国へ向かうべく、一緒に馬車のある場所まで向かっていた。

 どうして父上じゃなくて僕が赴くのかと言えば、これも僕が父上に任された大役のうちの一つだからだ。

 ────僕が、真にサンドロテイム王国次代国王になるための。

 僕がそう思い返していると、セシフェリアさんが口を開いて言った。


「あぁ〜!長かったけど、やっとこの戦争も終わるね〜!」


 その言葉に対し、ヴァレンフォードさんは頷いて。


「あぁ……しかし、一時とは言え自らの戦略と相見えることができたのは、至高だったと言わざるを得ない」


 続けて、ヴァレンフォードさんは心底楽しそうに。


「過去の私は、当然どのような状況になっても対策できるようにと無数のパターンを考えていた……そして、私と代替わりした現在のエレノアード帝国の戦略家はそれを律儀に守っていた」


 が、とさらに続けて。


「やはり、今の私の方が過去の私よりも勝るようだ……間違いなく、今まで相対した戦略家の中で一番の強敵だったが、過去の私は所詮過去の私────戦略への愛だけでなく、男に対する愛をも知った今の私に敵うはずもない」


 そう言ったヴァレンフォードさんは、僕の方を向くと小さく口角を上げて言った。


「だろう?アレク」

「え?は……はい」


 反応に困ったけど、少なくとも僕にそれを否定するのはできなかったため頷いて言うと。

 ヴァレンフォードさんは、正面を向いて。


「ふふっ、だが、これはまだまだ始まりに過ぎない……私という人間は、これからもっと戦略というものを、そしてアレクという男のことを深く知っていき、今よりも遥かに────」


 それから、ヴァレンフォードさんは相変わらずよくわからないことを呟き続けていた。

 ……こんな人だけど、戦略という点においては本当にずば抜けた能力を持っていて。

 現に、ヴァレンフォードさんは僕や父上の意図を言わずとも汲んで、互いの軍に死者が出ないようにエレノアード帝国のことを包囲し切ってくれた。

 だから、能力という点では本当に申し分無いんだけど────


「不思議なものだ、この間まで男というものに興味など一切無かった私が、今ではこんなにも……もっと身も心も彼と触れ合うことで、私はさらに己を知ると同時に彼のことをも知ることができるのだろう────」


 その後も、ヴァレンフォードさんはよくわからないことを呟き続ける。

 能力という点では、本当に申し分無いけど────この点だけは、今後どう向き合って行くべきか……

 僕が少し頭を悩ませていると、セシフェリアさんが僕に向けて言った。


「アレクくん、マーガレットの異常性癖のことなんて付き合ってたらキリ無いから、無視して良いよ」


 ……できればその点とも向き合いっていきたいけど、少なくとも今はセシフェリアさんの言うとおりにするしかなさそうだ。

 でも、後でしっかりと今回の戦争に関してのお礼はちゃんと伝えておこう。

 なんてことを考えていると。

 セシフェリアさんは、それにしても、と続けて。


「サンドロテイム王国の人たちは、エレノアード帝国の人たちと違って変なプライドとか無かったから、私の仕事もやりやすかったな〜」


 セシフェリアさんの今回の戦争時における仕事は、人材配置や状況に応じた情報伝達。

 それらによって、突然サンドロテイム王国の軍が防衛体制から応戦体制になっても、サンドロテイム王国の民たちが混乱しないようにしてくれたり。

 僕とレイラが二人で回った場所で困っていた人たちが居たときには、人材を派遣してくれたりして。

 とにかく、国内の安寧に大きく貢献してくれた。


「セシフェリアさん、本当にありがとうございました」


 僕がそのことに感謝を伝えると、セシフェリアさんは首を横に振って。


「私にかかれば、このぐらい簡単簡単!それよりも────」


 続けて。

 セシフェリアさんは、僕の耳元で囁くようにして甘い声色で言った。


……前した約束通り、時間空けてくれるよね?」

「っ……!……はい」


 突然その話題が飛び出したことに驚きながらも、僕がハッキリそう伝えると。


「……楽しみにしてるね」


 と言ったセシフェリアさんは、僕の耳元から顔を離した。

 すると────


「しかし、私から彼を求めるだけでなく、やはり彼の方から私を狂おしいほどに求めるという状況も捨てがたい……彼が求めるがままに、私の身に触れ堪能するという時が来れば、その時こそ私は未知の戦略であると同時に男でもあるという彼の存在によって────」

「あ〜!もう!いい加減うるさいから!マーガレットの異常性癖ずっと聞き流してたら頭おかしくなりそうだからやめて!」


 いつの間にか頬を赤く染めて、そしていつまでもよくわからないことを呟き続けているヴァレンフォードさんに、待ったをかけるようにそう言った。

 が、ヴァレンフォードさんは落ち着いた様子で。


「私はただ、彼という男について熟考しているだけだ……男について熟考することは、女という生物として自然なことだろう」

「そうだけど!マーガレットはその方向性が異常なの!」

「私は、ただ私から彼を求めるのではなく、彼に求められたらその先にはどんなものが待ち受けているのかと────」


 それから、セシフェリアさんとヴァレンフォードさんは、二人で言い争いをし始めた。

 ……今から和平の話をしに行くと言うのに、相変わらずな二人に呆れながらも、僕はどこか安心感のようなものも感じていた。


「……」


 そうだ。

 僕は、レイラに言うことを思い出したため。

 レイラの方を向いて、口を開いて言った。


「レイラ……もし僕一人だったら、サンドロテイム王国内の各地を回ってもあれだけ困り事を聞いて、解決することはできなかったと思う────だから、本当にありがとう」


 僕が、この一ヶ月間ずっと僕と一緒に居てくれたレイラにお礼を言うと。

 レイラは、明るい笑顔で口を開いて言った。


「いえ!私の方こそ、アレク様のお傍に居させていただけてとても幸せでした!」

「それなら良かったよ……これからもよろしくね、レイラ」

「っ……!はい!」


 そんなやり取りをしながら四人で一緒に馬車のある場所に向かうと、僕たちは馬車に乗って約一ヶ月ぶりにエレノアード帝国へ向かう。

 ────今度は奴隷としてじゃなく、サンドロテイム王国の王子として。

 前にエレノアード帝国に潜入した時とは、立場から状況まで何もかも違うことを改めて自覚しながら。

 僕は、そのまま馬車に乗ってエレノアード帝国へ向かい。

 ────やがて、エレノアード帝国門前に到着して馬車を降りると。


「お待ちしておりました!殿下!」


 僕たちのことを、オリヴィアさんが片膝をついて出迎えてくれた。


「本当に、ご無事で良かったです」

「私も、殿下のご無事なお姿を再度拝見できたこと、大変嬉しく思います!」

「……一ヶ月前に僕とした約束を果たしてくれて、ありがとうございます」


 オリヴィアさんが、僕の元に無事に戻ってくださる。

 という約束を守ってくださったことに感謝を伝えると、オリヴィアさんは頭を下げて力強く言った。


「殿下とのお約束を守るのは、殿下を守る騎士として当然のことです!が、殿下からの栄誉、ありがたく受け取らせていただきます!」

「オリヴィアさん……」


 それから、僕は少し間を空けてから言った。


「では、今からオリヴィアさんも、僕たちと一緒に来てくれますか?」

「はい!」


 ということで、僕とセシフェリアさん。

 ヴァレンフォードさん、レイラの四人にオリヴィアさんも加わると。

 僕たちは、いよいよエレノアード帝国に入国し。

 そのまま、和平を結ぶ場となるエレノアード帝国の王城へと向かった────

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