脱衣所

「お、お風呂、ですか!?」

「うん!ほら、エレノアード祭地下闘技場トーナメント戦で、アレクくんが助けたサンドロテイム王国の人たちを私に帰国させてってお願いしてきた時、私にとってのメリットを与える意味で一緒にお風呂入ろうって言ってくれたよね?」

「っ……!」


 あれから色々とありすぎて、すっかりと忘れていたけど。

 確かに、僕はサンドロテイム王国の民たちのために、なりふり構っている場合じゃないと思って────


「それなら、一緒にお風呂に入りましょう!」


 と迷いなく言った。

 僕がそのことを思い出していると、セシフェリアさんが口を開いて言う。


「今だったらどうしてアレクくんがあそこまでサンドロテイム王国の奴隷に拘ったのかよくわかるし、今となっては私もサンドロテイム王国の人間になったわけだからあの約束は反故……にしてあげても良かったけど、やっぱり約束は約束だからね〜!」

「……わかりました」

「やった〜!」


 セシフェリアさんの言っていることに何一つ間違いは無いため僕がそう答えると、セシフェリアさんは嬉しそうな声を上げた。

 ……それに。

 前までだったら、セシフェリアさんと一緒に入るなんて冗談じゃないと思っていた。

 そして、今でも当然恥ずかしさのようなものはあるけど……前ほど嫌かと言われれば────


「じゃあ、アレクくん!行こっか!」

「は、はい」


 とてもセシフェリアさんのように張り切ることはできないけど。

 それでも、確実に前とは違う心境の変化を感じながら、僕はセシフェリアさんと一緒に王城のお風呂場に向かった。

 そして、脱衣所にやって来ると、セシフェリアさんが僕に向けて言う。


「アレクくんはジッとしててね!私がアレクくんの服脱ぎ脱ぎしてあげるから!」

「え!?い、いえ、別にセシフェリアさんに脱がせてもらわなくても────」

「ダ〜メ!一方的に別れを告げて、私にあんなに寂しい思いさせたんだから、このぐらいはさせて!」

「うっ……」


 とても耳が痛い。

 ……そう言われてしまえば、今の僕に反論の余地なんてあるはずもなく。

 セシフェリアさんに言われた通り、体の動きを止めると。


「言う通りにできて偉いね〜!じゃあ脱ぎ脱ぎさせてあげるね〜!」


 セシフェリアさんは、とても楽しそうに僕の服を脱がせ始めた。


「はぁ、アレクくんの服こうして脱ぎ脱ぎさせてあげるのも、久しぶりな感じがするね〜」

「……そうですね」

「……どうしてあんなに引き締まった体してるのかなってちょっと不思議だったけど、それは王子様としてサンドロテイム王国を守るためだったんだね」

「はい」


 僕がそう答えると、セシフェリアさんは僕の上着を完全に脱がし終えた。

 そして、露わになった僕の上半身を見ながら言う。


「前からアレクくんの体は大好きだったけど、それがわかったらもっと好きになっちゃった」


 どこか優しい声色で言ったセシフェリアさん。


「セシフェリアさん……」


 そんなセシフェリアさんに、僕が温かさのようなものを感じていると────


「じゃあアレクくん!次は下も脱ぎ脱ぎしようね!」

「っ……!」


 その温かさを台無しにするようなことを言ったセシフェリアさんは、そのまま僕が下に履いているズボンに手を掛ける。

 だが、今の僕に抵抗の余地は無く。

 セシフェリアさんは、そのまま僕のズボンを下ろして脱がせると。

 僕の下着だけとなった姿を見て言った。


「アレクくんのアレクくんが、今まで見た時と違ってまだ大きくなってない!」

「そ、それは……!……というか!流石に下着は自分で脱いでタオルを巻きますから、失礼します!」

「え〜!」


 残念そうに声を上げるセシフェリアさんの元を離れると、僕は下着を脱いで腰にタオルを巻いた。

 そして、すぐにセシフェリアさんの元に戻ってくる。


「本当にタオル巻いちゃってる〜!私が巻いてあげたかったのに〜!」

「諦めてください……あと、僕は先にお風呂場に入って待ってるので、セシフェリアさんは後から入ってきてくださいね」


 そう言ってお風呂場に入ろうとした僕────だったけど。


「え?何言ってるの?」


 何故かセシフェリアさんは疑問の声を上げたため僕が振り返ると、セシフェリアは僕の手を自らの服のボタンに触れさせて言った。


「今度は、アレクくんが私のことを脱がせる番だよ?」

「え!?」


 ぼ、僕が、セシフェリアさんのことを脱がせる!?


「ど、どうして、僕がそんなことを────」

「私ね?すごく悲しかったの……私はこんなにアレクくんのことを大事に想ってるのに、アレクくんにはそれが全然伝わってなくて」

「っ……!……わかりました」


 それを持ち出されると、もはや僕にはどうすることもできない。

 恥ずかしさはありながらも、僕はゆっくりとセシフェリアさんの服のボタンを外していく。


「うん、良い子だね、アレクくん」


 口角を上げて嬉しそうに言うセシフェリアさんのことを、そのまま脱がせて行くと。

 やがて……セシフェリアさんは、上の下着姿を露わにした。


「……」


 僕がその姿を見て心臓の鼓動を早めていると、セシフェリアさんが口を開いて言った。


「上はここまでで良いから、今度は下を脱がせてくれるかな?」

「は……はい」


 ゆっくりと、慎重な手つきで、僕はセシフェリアさんの履いているスカートに触れる。

 そして、それを下ろすと────セシフェリアさんは、白の下着姿を露わにした。

 ……相変わらず、色白な肌で胸もとても大きくて。

 くびれもしっかりとできており、脚も長くて本当に綺麗な姿だ。


「どうかな?アレクくん、私の下着姿」


 ……前までは、セシフェリアさんが敵国の女性だったということもあって、意地を張り通していたけど。

 今はもう、そんな意地を張る必要もない。

 そう思った僕は、セシフェリアさんに向けて、少し恥ずかしいと思いながらも口を開いて素直に言った。


「綺麗……だと、思います」

「っ……!」


 すると。

 セシフェリアさんは、小さく目を見開いて。

 頬を赤く染めると、微笑んで言った。


「ありがとう、アレクくん……素直になってくれて嬉しいよ」


 続けて、セシフェリアさんは、自らの体を見ながら。


「本当はもっと脱がせて欲しいところだけど、にも残しておかないとだよね……だから、さっき言ってた通り、アレクくんは先にお風呂場で待っててもらえるかな?」

「わ、わかりました!」


 セシフェリアさんの言葉の意味はわからなかったが、ひとまず僕が先にお風呂場で待っていても良いということらしいため、僕は言われた通りに先にお風呂場の中に入ってセシフェリアさんのことを待っておくことにした。

 そして、それから数分後。


「お待たせ〜!」


 タオルを手に持って、そのタオルによって体の局部を隠しているセシフェリアさんが、お風呂場に姿を見せた。

 そして、そのまま僕の方に近づいてくると、セシフェリアさんは口を開いて言う。


「じゃあ、早速今から体洗おっか!」

「はい、わかりました……じゃあ、僕はあっちで────」


 僕はあっちで体を洗います、と言いかけた時。


「え?さっきに続いて、何言ってるの?もしかして、前一緒にお風呂入るって約束した時に言った別のことを覚えてないなんて言わないよね?」

「……え?」


 別のこと……?

 覚えが無いため僕が困惑していると、セシフェリアさんが言った。


……私が洗いっこしても良い?って聞いたら、ルークくんそれでも良いって言ってくれてたよね?」

「っ!?ぼ、僕がそんなこと言ったわけ────」


 その瞬間、僕は今セシフェリアさんが言っていた時のことを思い出す────


「……体の洗いっことかも、して良い?」

「奴隷の人たちを帰してくれるなら、どうとでもしてください!」

「っ!そっちの方は約束するよ!じゃあお風呂の件、よろしくね!ルークくん!」

「はい!」


 言って……いる!!

 ……え?じゃあ、もしかして……

 僕は今から、セシフェリアさんと体を洗い合うっていうことか!?

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