味方

「え……?」


 セシフェリアとヴァレンフォード。

 その二人のことを、サンドロテイム王国に迎え入れる……?

 それも、僕と一緒に居るため。

 そして、この長い間続いた二国間の戦争を終わらせるためということは────


「それは、もしかして……お二人がサンドロテイム王国の味方になってくださる、ということですか?」


 僕がそう聞くと、セシフェリアは頷いて。


「うん」

「っ!?」


 僕が、簡潔だがとても大きな意味を持つ返事をしたセシフェリアに驚いていると。

 セシフェリアは続けて言った。


「そもそも、私はルークくんと一緒に居たいから、もうエレノアード帝国には居られないっていうのは大前提なんだけど……ここ数日間、ルークくんが大好きなこのサンドロテイム王国で過ごして、私も、まだちょっとだけどこの国のことがわかったから────ルークくんと一緒に守っていきたいなって思ったんだよね」

「セシフェリアさん……!」


 セシフェリアがサンドロテイム王国のことをそんな風に言ってくれたことが嬉しくて、僕は思わず声を上げた。

 次に、ヴァレンフォードが口を開いて言う。


「私もクレアと似たようなものだが、私の場合はもう一つ理由がある」

「もう一つ……?」

「あぁ……今は指揮系統が麻痺しているだろうが、いずれ私の代わりの戦略家がエレノアード帝国の戦略家の席に着くことになるだろう……それは、その者が私の戦略を引き継ぐということ────つまり、これは私自身との勝負」


 力強く言ったヴァレンフォードは、続けて早口で。


「自らで追い詰め劣勢となってしまっている国の戦略家として、私自身と戦略をぶつけ合う……これほどに甘美な響きがあるか?戦略という点において、私自身というのは間違いなくかつてないほどの強敵────」

「あ〜!うるさい!ちょっと黙って!」


 言葉に勢いがつき始めたヴァレンフォードのことをセシフェリアが止めると、ヴァレンフォードは冷静になった様子で「すまない」と短く謝罪していた。

 そして、セシフェリアは一度ため息を吐いてから、僕に向けて言う。


「それで……どうかな?ルークくん……今まで色々としちゃったけど、私たちのことを、サンドロテイム王国に迎え入れてくれる?」


 二人が色々と説明してくれていたから、僕がその問いに答えるまで少し間が空いちゃったけど……

 僕の答えは、もう決まっている。

 心の中で揺るぎなくそう言うと、僕はその答えを言葉にした。


「────もちろんです、セシフェリアさん、ヴァレンフォード……これから、よろしくお願いします」


 思うところが完全に無い訳じゃ無いけど、今となっては断る理由も無く。

 むしろ、この二人がサンドロテイム王国の味方になってくれるというのなら、これ以上無いほど心強いため僕がそう言うと。


「っ……!ルークくん!!」


 セシフェリアは、僕のことを力強く抱きしめてきた。

 けど、セシフェリアさんは、その直後に言う。


「あ、間違えた……もうルークくんじゃなくて────くん……改めて、今日からまたよろしくね」

「はい……セシフェリアさん」


 そんな会話を聞いていたオリヴィアさんは、完全に納得はしていない様子だった……けど。

 それが僕の判断であること、そして今のセシフェリアさんやヴァレンフォードさんのことを見て少しは信頼に足ると判断したのか、何かを口出ししてくるようなことは無く。

 むしろ「この件は、私から陛下にお話を通しておきます」と言ってくださった。

 これで、もちろん明日にでも父上の承認は頂かないといけないけど、セシフェリアさんとヴァレンフォードさんがサンドロテイム王国の味方となってくれて────僕たちは、四人で一緒に夕食の場である王城内の食堂に向かった。

 そして、食堂の扉を開けると。


「っ!アレク様!お待ちしておりま────っ!?」


 一人席に着いていたレイラが、僕の姿を見てそう言いかけた……けど。

 その僕の隣に居るセシフェリアさんとヴァレンフォードさんのことを見て、驚きの声を上げると続けて席から立ち上がって言った。


「セシフェリアさんと、ヴァレンフォードさん!?もしや、アレク様のことをエレノアード帝国に連れ戻しに来たのですか!?」

「……」


 さっき起きた出来事について何も知らないレイラに事情を説明するのはとても難しかったけど、僕は少し時間をかけてどうにか今の状況を説明した。

 すると、レイラは混乱した様子でありながらも小さく頷いて言う。


「つまり、もうセシフェリアさんとヴァレンフォードさんは私たちの敵ではなく、むしろ味方になってくださった……ということですか?」

「うん、そういうことだよ」


 僕がそのレイラの理解に対して頷くと、セシフェリアさんがレイラに近づいて言った。


「そうそう!だから、今度こそは本当に同じ国を思う仲間として一緒に頑張ろうね?ステレイラちゃん!」


 その言葉に少しの間沈黙したレイラだったが、やがて口を開いて言った。


「セシフェリアさんたちが味方に加わってくださったということなら、とても有り難いです……が、一つだけこの場でハッキリさせていただきたいことがあります」

「何〜?」

「────アレク様の夜伽のお相手は私が致しますので、セシフェリアさんたちは、そういった意味ではアレク様に何もしないでください」

「っ!?」


 突然レイラから出た言葉に驚きながらも、僕はすぐに口を開く。


「レ、レイラ、いきなり何を────」


 僕が言いかけた時。


「それは約束してあげられないかな〜」

「なっ……!」


 セシフェリアさんの、火に油を注ぐような発言に対して、レイラは声を上げる。

 すると、続けてヴァレンフォードさんがレイラに向けてさらに火に油を注ぐようなことを言った。


「ステレイラ、悪いが私もそれは保証できない」

「ヴァレンフォードさんもですか……!」

「あぁ、私もアレク・サンドロテイムという、私にとって未知の男の体には興味があるからな」

「っ!だからと言って、アレク様とそのようなことをするのは許しません!」

「でも、アレクくんのことを思うんだったら、そういうのは私に任せるべきだと思うよ?私が、この世界で一番アレクくんのアレクくんのことよくわかってるからね!」

「そのようなことはありません!アレク様のお体のことを、この世界で誰よりも理解しているのはセシフェリアさんではなく私です!」

「いや、彼という人間の知性や行動力、剣技も含めた全てを誰よりも愛することができるのは、この私を持って他に居ない……つまり、もし彼と初夜を遂げるものが居るのだとしたらそれは私────」


 その後も、三人はしばらくの間訳のわからないことを言い争っていた。

 が、いつまで経ってもその言い争いは終わりそうになく……

 このままでは料理が冷めてしまいそうだったため、僕がひとまず先に料理を食べようと伝えて、五人で一緒に料理を食べた。

 そして、食事中も軽く言い争いはありながらも、どうにか無事に食後を終えることができ────食後。

 一足先に、食堂から廊下に出た僕の元に。


「アレクくん」


 セシフェリアがやって来て、話しかけてきた。


「なんですか?」


 僕が振り返ってそう聞くと、セシフェリアは僕との距離を縮めて言った。


「私と前にした約束、忘れてないよね?」

「……え?約束なら、もう────」

「言っておくけど、今私が言ってる約束っていうのは、私がルークくんのことを追いかけるっていう約束のことじゃないよ」


 え……?

 僕がその言葉に困惑していると。

 セシフェリアは、頬を赤く染めながらも、僕の方に手を差し出して楽しそうな声色で言った。


「前した約束通り、今から二人だけで一緒に……入ろ?」

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