お願い
◆◇◆
王城内のとある廊下。
オリヴィアさんが、今にもヴァレンフォードのことを斬ろうとしていたため、僕がオリヴィアさんを制止するように声を上げると。
「っ!殿下……!?」
オリヴィアさんは、驚いた様子で僕の方に振り向いた。
そして、続けて口を開いて言う。
「お離れください!殿下!この者は────っ!?」
元々驚いていた様子のオリヴィアさんだったけど……
僕の隣に居るセシフェリアのことを見て、さらに驚いたように目を見開いた。
「殿下……そちらの女性は?」
オリヴィアさんが驚くのも無理はないため、僕はオリヴィアさんにセシフェリアのことを紹介する。
「この人はセシフェリアさんと言って、そこに居るヴァレンフォードと一緒にこの王城に来た人です」
「セシフェリア……っ!その名は、確か殿下がエレノアード帝国に潜入中、奴隷としての殿下を潜入した人物の名……でしたか?」
「そうです……そして、少し話を聞いたみたところ、少なくともサンドロテイム王国に敵意があってここまで来たわけじゃないみたいなので、オリヴィアさんも一度剣を納めてください」
僕がそう言うと、オリヴィアさんは少しヴァレンフォードのことを見つめて。
「マーガレット・ヴァレンフォード……私の方が剣の腕が立つとわかってなお、逃げることはせず私と剣を斬り結ぶことをやめなかったのは、これが狙いだったのか?」
そのオリヴィアさんの問いに対して、ヴァレンフォードは頷いて答える。
「あぁ、クレアが彼に敵対する意思が無いと伝え、彼をここまで連れてくれば、こうなることはわかっていた……だから私は途中で彼を探し出すという元の計画をクレアに託し、途中でそれまでの間時間を稼ぐと共に、強者であるお前をクレアの方に意識を向けさせないようにするという計画に切り替えて、お前と剣を結び続けた」
「……自分が剣を斬り結んでいる時でさえそんな戦略を考えていたとは、あのエレノアード帝国の戦略家というだけあって、生粋の戦略好きらしい」
その言葉を受けたヴァレンフォードは、表情に小さく笑みを浮かべて言う。
「ふふっ、その通りだ……私は戦略というものを愛している────そしてあとは、単純に強者との戦いが楽しかった……それだけだ」
「……」
ヴァレンフォードの言葉を聞き届けると、オリヴィアさんは剣を鞘に納めた。
続けて、ヴァレンフォードも自らの手にしていた剣を、鞘に納めると。
そんな光景を見たセシフェリアが、ヴァレンフォードに向けて言った。
「マーガレットがあんなに押されてるなんて意外だったけど、この女がそんなに強かったの?」
「あぁ……このオリヴィアという者はサンドロテイム王国の騎士団を率いる騎士団長で、その剣の腕は私の耳にも聞き及んでいたほどだった────そして何より、この者は彼の剣の師という話だ」
「え!?ルークくんの!?」
驚いた顔をしながら、僕の方を向いたセシフェリア。
そんなセシフェリアに対して、僕は頷いて言う。
「はい、オリヴィアさんは、幼少の頃から今に至るまで僕に剣を教えてくださっている、僕の剣の師匠です」
「本当にそうなんだ〜!確かに、それならルークくんがマーガレットよりも剣の腕が立つっていう話にも説明が付くね〜!」
そう言ったセシフェリアは、オリヴィアさんに近づくと、目を輝かせて聞いた。
「ねぇねぇ、幼少の頃からってことは、子供の頃のルークくんと一緒にお風呂入ったりしたこともあるの?」
「なっ……!?」
お、お風呂!?
突然突拍子も無いことを聞き始めたセシフェリアの言葉に驚いた僕は、すぐに口を開いて言う。
「セ、セシフェリアさん、何を聞いて────」
「当然だ、殿下のお体を洗って差し上げたこともある」
「オ、オリヴィアさん!?」
堂々と。
誇りを語るかのように言ったオリヴィアさんに、僕は驚きな声を上げながらも、続けてオリヴィアさんに向けて。
「そんなこと答えなくても────」
と言いかけたけど、そんな声は次のセシフェリアの楽しそうな声に掻き消された。
「え〜!そうなんだ〜!聞きたいことがあるんだけど、今はあんなに逞しくて立派なルークくんのルークく────」
「だから、何を聞こうとしてるんですか!!」
今度こそ、僕がセシフェリアの言葉を遮って力強く言うと。
セシフェリアは、不思議そうに首を傾げて言った。
「何って、子供の頃のルークくんの体についてだよ!今のルークくんの体のことはよく知ってるけど、昔のルークくんの体については、私は知らないからね!」
「そ、そんなこと知らなくて良いですから!」
「知らなくて良いわけないよ!私は、ルークくんのどんなことでも知りたいんだから!あぁ、昔のルークくんの体は、どんな感じだったんだろ〜!今は筋肉とかも程よくついてカッコいい男の子の体してるけど────」
それからも、セシフェリアは何を想像しているのか知らないが、頬を赤く染めながらよくわからないことを呟き続けていた。
そんなセシフェリアの様子を見たオリヴィアさんが、口を開いて言う。
「殿下、ヴァレンフォードについては今までエレノアード帝国と前線で戦いその戦略をこの身で味わってきたことや、今実際に剣を交え戦略に嵌ってしまったことからも、殿下の仰られた通り要注意人物であることは間違いないと確信致しましたが────このような軽薄な人物が、本当に要注意人物に当たるのでしょうか……?」
「……確かに、一見するとそうは見えないかもしれません」
実際、僕もセシフェリアと会ったばかりの頃は────このセシフェリアは、公爵の人間としてそこまで優秀じゃないのかもしれないな。
なんて思ったこともあった。
「ですけど……間違いなく、今のエレノアード帝国を形作ることに大きく貢献したうちの一人です────その優秀さと敵としての厄介さは、僕が身をもって経験してきました」
一度や二度じゃなく、エレノアード帝国に滞在している二ヶ月の間で、本当に何度そんな経験をしてきたかわからない。
その経験によって、僕の今の言葉には重みのようなものが生まれると、オリヴィアさんは少し間を空けてから言った。
「そうですか……殿下のお言葉を疑うようなことを言ってしまい、申し訳ございませんでした」
「い、いえ、普段のこの人のことしか見ていなかったら、そう疑いたくなるのも当然だと思うので、気にしないでください」
僕たちがそんなことを話していると、セシフェリアはそうだ、と続けて。
「子供の頃のルークくんのことについてはまた今度聞くとして、今は重要な本題があるんだった……だからルークくん、ちょっと聞いてくれるかな?」
落ち着いた表情で言ったセシフェリア。
子供の頃の僕について聞くということに関しては、何がなんでも阻止するとして────
「はい、なんですか?」
真剣な話であるなら、それを聞かない理由は無いため僕が聞き返すと。
セシフェリアは、僕の目を見て口を開く。
「今まで色々とあったけど……さっきも言った通り、私はやっぱり、これからもずっとルークくんと一緒に居たいの……でも、今のままだと、きっとそれは叶わない」
だからね、と続けて。
自らの胸元に手を当てると、迷いのない瞳で言った。
「ルークくん、お願いがあるの────今この瞬間から、私とマーガレットのことを、正式にサンドロテイム王国に迎え入れてくれないかな?私がずっと、ルークくんと一緒に居るために、そして……この長い間続いた、エレノアード帝国とサンドロテイム王国の戦争を終わらせるために」
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