玉座の間
馬車が王城前に到着すると、僕とレイラは目の前にあるサンドロテイム王国の王城に視線を送る。
僕は、二ヶ月ぶりに自らの家であるサンドロテイム王国の王城に戻って来たことで、心が安らぐような感覚になっていると……
レイラが、目を輝かせて明るい声色で言った。
「ここが、アレク様の本来お住まいになられている、サンドロテイム王国の王城なのですね……!アレク様に相応しく、とても立派な建物だと思います!」
「あ……ありがとう、レイラ」
僕に相応しいかはわからないけど、僕も立派な建物だとは思っているため、そう返事をする。
そして、僕たちは早速王城内に入ると、父上の居る玉座の間へ向かって廊下を歩き始めた。
「……」
廊下にはレッドカーペットが敷かれていたり、等間隔に柱が置かれていたり。
大きな窓からは、外の光が差し込んできたりしている。
……この廊下も、久しぶりだな。
なんて思いながら足を進めていると────僕たちは、あっという間に玉座の間の前に到着した。
すると、玉座の間の前に立っている兵士二人が、僕の方を向いて驚いたように声を上げる。
「ア、アレク様!?」
「お、お戻りになられたのですか!?」
僕がエレノアード帝国に奴隷として潜入していることは、混乱を避けるためにも民たちには知らされていない。
けど、兵士たちにはそのことを知らせておかないと、緊急時に民とは違う意味で混乱に陥ってしまうかもしれないため。
兵士たちには、他言厳禁を前提として、僕がエレノアード帝国に潜入していることを知らされている。
だから、その僕がこうして姿を現したことに、この兵士二人は驚いているんだろう。
「うん……今から父上に会いたいから、玉座の間の扉を開けてもらっても良いかな?」
「も、もちろんです!」
そう言うと、二人はそれぞれ両開き扉の左右に陣取った。
僕とレイラが足を進めたら、いつでも開けることができる構えだ。
「レイラ、心の準備とかは大丈夫?」
今から一国の王に会うという状況であるため、もしかしたらレイラがとても緊張しているかもしれない。
と思い、そう声をかけた僕、だったけど────
「お気遣いありがとうございます……ですが、大丈夫です」
どうやらそんな心配は必要無かったようで、レイラは僕の方を温かい目で見ると、迷いなく頷いてそう返事をしてきた。
そんなレイラのことを見て思わず小さく口角を上げて、僕は言う。
「じゃあ、行こうか」
「はい、アレク様」
そう言葉を交わしてから、僕たちが足を進めると同時。
兵士たちが二回両開き扉をノックしてから、その扉を開くと……
僕とレイラは、二人で玉座の間の中に入った。
そして、そのまま真っ直ぐ歩くと────
「っ……!アレク……!」
僕の顔を見た玉座に座っている父上が、驚いたように声を上げる。
やがて、僕とレイラは玉座に座っている父上の前までやって来たため、同時に膝をつくと。
僕は、口を開いて力強く言った。
「サンドロテイム王国王子、アレク・サンドロテイム……敵国エレノアード帝国への潜入任務を終え、ただいま帰還致しました!」
「面を上げよ……アレク、よくぞ戻った」
父上にそう促された僕はゆっくり顔を上げて。
「お久しぶりです、父上!伝言なども受け取らせていただきましたが、時間を掛けてしまったせいで父上に心配をかけてしまい、申し訳ございませんでした」
「何を言うか、単独であのエレノアード帝国に、それも奴隷として潜入するなど、その行動だけでも蛮勇として後世に語り継がれるもの……それをお前は、見事に任務を達成し戻って来たのだ、讃えられることはあっても謝罪することなどあるものか」
「……光栄です」
僕が深々とそう声を発すると、父上は続けて言った。
「本当に、お前とまたこうして話すことができて、本当に嬉しく思っている……よくぞ、あのエレノアード帝国から生きて戻った」
改めて力強く仰ってくださった父上の言葉を、僕は一度頭を下げて受け取ると。
次に、父上は僕の隣に居る、まだ頭を下げたままのレイラに視線を送って言った。
「時に、アレクよ……その隣に居る女性は?」
当然、父上がそう聞いてくることはわかっていたため。
僕は、すぐにレイラの方に手を向けて言う。
「彼女は、ステレイラと言います……生まれはエレノアード帝国ですが、エレノアード帝国内で、教会の上に立つ者として長い間サンドロテイム王国との戦争反対を掲げ続け、今回の僕の任務にも大きく協力してくれて、彼女が居なければ今回の任務を遂げて無事に帰国することは絶対にできませんでした」
「……エレノアード帝国の人間、か」
「っ……」
眉を顰めて小さくそう呟いた父上に対して、僕はさらに口を開いて言う。
「父上!確かに彼女はエレノアード帝国の人間ですが、今お伝えした通り────」
「ステレイラよ」
父上がレイラに話しかけたため、僕はすぐに口を閉じる。
レイラを弁明したい気持ちはあるけど、父上の言葉を遮るわけにはいかないからだ。
「はい」
「面を上げよ」
落ち着いた声色で返事をしたレイラに対してそう言うと、レイラはゆっくりと顔を上げる。
すると、父上はレイラに対して、言葉に重みを込めて言った。
「お前は、アレクのことをどう思っている」
その問いに対して、レイラはすぐに口を開いて言った。
「────これ以上無いほどに、お慕いしております……そして願わくば、これからもアレク様のお傍で、アレク様のことをお支えさせていただきたいと思っています」
「……」
真っ直ぐな瞳。
揺らがない声で言ったレイラの言葉を聞いた父上は、眉を顰めるのをやめて重々しい雰囲気もやめると。
普段通りの様子で言った。
「そうか……なら、これからもずっと、アレクのことを近くで支えて欲しい」
「っ……!はい……!」
「ありがとうございます、父上!」
僕が、レイラのことを認めてくれた父上に感謝を伝えると、父上は僕の方を向いて言った。
「あんなにも真っ直ぐな瞳で我が息子を想ってくれている女性が居るのなら、それを蔑ろになどできぬからな」
「父上……」
「……そうだ、お前が帰国したのなら、前線で指揮を取っているオリヴィアにも早馬を送らねばな」
「え……?オ、オリヴィアさんに、ですか?」
「あぁ、お前のことをずっと心配しておったからな……お前が戻ったと聞いたら、きっと大いに喜ぶだろう」
オリヴィアさん……とても優しい人だけど、異様に僕のことを甘やかしたがるから、二ヶ月経った今、その欲がどのぐらい溜まっているか。
前もらった伝言のこともあって、何となく予想はつくけど……
あまり考えたく無いから、今は考えないようにしよう。
と心の中で決めると、父上が続けて口を開いて言った。
「積もる話もあるとは思うが、長く危険な任務からの帰還だ……そういった話は少し時間を空けてからにして、今は下がってゆっくりと体を休めると良い」
「わかりました……!では、失礼します、父上!」
「失礼致します、国王様」
二人で改めて頭を下げてそう言うと、僕とレイラは二人で玉座の間から出た。
「……」
父上に認めていただいたことによって……
レイラは、これで正式にサンドロテイム王国での生活を認められることになったから……本当に、これからもずっと一緒に居られる。
レイラとの、サンドロテイム王国での生活……
どんな生活になるのかは、まだわからないけど……
僕は、その新しい日常を、今からとても楽しみに思っていた。
────そして……この時の僕は、またセシフェリアやヴァレンフォードと、このサンドロテイム王国で再会することになるとは……全く予想だにもしていなかった。
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