奴隷として敵国に潜入していると、敵国のヤンデレ美少女たちが僕を巡って内乱を起こそうとしている件

アレクの部屋

◆◇◆

　セシフェリアとヴァレンフォードは、サンドロテイム王国に潜入すると決めた後で、すぐにサンドロテイム王国に潜入するための手筈を進めた。

　セシフェリアは今後のために、エレノアード帝国内に居る各有力貴族に会いに行き。

　ヴァレンフォードは、エレノアード帝国の兵士を、サンドロテイム王国の複数あるうちの一つの門前に集まるよう指示を出して、サンドロテイム王国の意識をそこに集中させた。

　仮にそれが陽動だと見抜かれたとしても、それだけの数の兵士が門前に集まっているのに無視することはできないという、数と地を活かした戦略であるため、見抜かれても問題は無い。

　最も、そこに戦略的な意図は無く、ただ自分たちがサンドロテイム王国に潜入するために目を引いてもらうという意図しか無かったが、エレノアード帝国の兵士たちはそんなことを露にも知らない。

　そして、その他にも二人で細かい細工を行なっていき────数時間後。

「潜入完了、だね」

「あぁ、やはり、私とクレアが居れば、私たち二人が潜入するだけであれば造作も無かったな」

　────二人は、サンドロテイム王国への入国を完了していた。

「ここまで来たら、あとは私たちの正体がバレるのが先か、どこかに居るルークくんを見つけるのが先か……ううん、ルークくんっていうのが偽名の可能性が高いから、まずはそこから調べないとね」

「そうだな……今までに無いほど難題で、今までに無い戦略を求められることは間違い無いが────彼と愛を分かち合うためなら、その試練をも乗り越えて見せよう」

　相変わらずなヴァレンフォードに呆れながらも、セシフェリアは脳裏にルークのことを過らせながら呟いた。

「絶対に追いつくから……待っててね、ルークくん────」

◆◇◆

　────今僕たちが居るのは、サンドロテイム王国の王城。

　王城というだけあって、当然中はとても広く、何も知らないレイラが手探りで生活していくのはかなり大変になると思われるため……

　僕は、一番最初に王城内を案内していた。

　……そして。

「────それで、ここが最後……目の前にあるのが僕の部屋で、向かいにあるのがレイラの部屋になる場所だよ」

　ようやく、王城内を案内し終えると、レイラが頷いて言った。

「アレク様自らが、私のために案内をしてくださりありがとうございました！とてもわかりやすかったです！」

「レイラの頭に入ったなら、それが何よりだよ」

　明るい表情で言うレイラにそう返すと、レイラはしかし、と続けて。

　僕の部屋とレイラの部屋になる向かいの部屋の扉を一度交互に見てから、僕に視線を戻して言った。

「私は部屋を与えていただかなくとも、アレク様と同室でも構いま────いえ、むしろ、同室である方が良いと進言致します！」

「……え？ぼ、僕とレイラが、同室！？」

　僕が聞き返すと、レイラは力強く頷き、目を輝かせながら徐々に言葉に勢いを乗せて言った。

「はい！アレク様と同室であれば、アレク様のことを私が朝起こさせていただいたり、アレク様のお着替えを手伝わせていただいたり、アレク様に給仕をさせていただいたり────」

「ま、待って、レイラ！」

　このまま何も言わなければ、どこまでも加速していきそうなレイラの発言を一度制止すると。

　僕は、続けて口を開いて言った。

「同室……というのも良いのかもしれないけど、そういうことをするのは、もう少しレイラがサンドロテイム王国での生活に慣れてからの方が良いんじゃないかな？」

「慣れてから、ですか……」

　それから、レイラは少し考える素振りを取ってから、改めて僕と向かい合って言った。

「本来であれば、すぐにでも同室となりアレク様の普段の生活をお支えさせていただきたいところですが……アレク様がそう仰られるのでしたら、しばらくは様子見という形を取らせていただこうかと思います」

「うん、そうしよう」

　……ここ数日、レイラと宿の二人用の部屋で生活していたとはいえ。

　あの時は、直後にサンドロテイム王国に帰国するということが常に頭に入っていたから、あまりレイラと同室という部分を意識しなくて済んだ。

　けど、普段の生活からレイラと二人で生活するとなれば、話は変わってくる。

　レイラはとても綺麗な女の子だから、二人でずっと同室というのは、今までの人生の中で深く女性と接してきたわけじゃ無い僕に取ってはかなり────

「アレク様……？どうかなされましたか？」

「っ……！な、なんでもないよ」

　レイラのことを見ながらそんなことを考えていると、レイラが不思議そうに首を傾げて聞いてきたため、僕は慌てて返事をする。

　すると、レイラは「そうですか」と相槌を打ってから、僕の部屋の方を向いて言った。

「アレク様、同室で生活をさせていただく件に関しては保留とさせていただこうと思いますが……一度、アレク様のお部屋をこの目で見させていただいてもよろしいでしょうか？」

「あぁ、うん、それはもちろんいいよ」

　同室で一緒に生活をするというのはともかく。

　部屋にレイラを招くぐらいであれば、何も問題は無いため僕は迷いなく頷くと、早速僕の部屋の扉を開けてレイラのことを室内に招いた。

　すると、レイラは目を見開いて、僕の部屋を見渡しながら呟いた。

「ここが、アレク様のお部屋なのですね……」

　僕の部屋にあるものは、基本的に白と金で統一されていて、勉強するための机と椅子。

　二つのカーテンが左右にに付いている大きな窓に、二つの向かい合っているソファを挟んで置いてあるローテーブル。

　そして、一人用にしてはとても大きく、ふかふかなベッド。

　僕は、エレノアード帝国に潜入するために、奴隷らしさを感じる千切れた布の服に着替えた時以来のこの光景にも懐かしさを抱いていると、レイラが感動した様子で言った。

「この場所で、アレク様は育ち、生きてこられたのですね……！あぁ、アレク様……！私は、アレク様と共にこのような素晴らしき場所に来ることができ、とても幸せです！それはもう、この幸せな気持ちが、今すぐアレク様にも伝わっていただきたいと願ってしまうほどに……」

　そう言うと────レイラは、僕のことを抱きしめてきて、続けて言った。

「アレク様……私は、アレク様に傍に居て欲しいと仰っていただき、今後も傍に居ることができるようになり、こうして共にアレク様のお部屋まで来ることができて────もう、限界です……この気持ちを自らの中だけに留めておくことなど、できません」

　さらに続けて顔を上げると、僕と顔を向かい合わせて、頬を赤く染めながら言った。

「以前もお伝えしたとおり、いきなり身を交えて欲しいとは言いません……ですがどうか、この気持ちを、私の手で直接アレク様に触れることでお伝えさせていただく機会を……今からいただくことはできないでしょうか？……私のこの気持ちで、アレク様のことも、幸せな気持ちで満たして差し上げたいのです」

「……」

　それがどういう意味なのか、というのは問うまでも無い。

　今ここで考えるべきなのは、僕がレイラにそういうことをして欲しいのかどうかだ。

　……今までは、ずっと潜入任務中で、そんなことをしている場合じゃ無いからと断ってきた。

　そして、今だって、まだサンドロテイム王国とエレノアード帝国との戦争が終わったわけじゃ無いから、そんなことをしている場合じゃ無いのは変わらないのかもしれない。

　だけど────レイラが僕に幸せを感じて欲しいと言ってくれている気持ちを断ることは、もう……できない。

　そう思った僕は、少し恥ずかしさを抱きながらも、頷いて言った。

「レイラが、そう言ってくれるなら……お願い、しても良いかな」

「っ！はい……！！」

　僕がそう返事をすると、とても嬉しそうな声で返事をしてくれたレイラと一緒に、二人で僕の部屋のベッドに向かった。