戦慄
む、胸を、堪能……!
じゃあ、この感触は、やっぱりヴァレンフォードの胸の感触なのか……!
最悪────
「……」
と思いそうになったけど……違う。
この状況は最悪なんかじゃない。
むしろ、僕にとってチャンスだ!
胸を触らせるためとはいえ、今は僕の右手の拘束が解かれていて、右手を自由に動かすことができる。
つまり、抵抗の幅が広がるということだ。
それなら、突き飛ばすことだって……!
僕の取るべき行動に思い至ると、僕は思い切って目を開き、早速胸から手を離────
「ふふっ、抵抗する機会が見えたと分かれば、体を拘束されているという状況は変わらないというのにしっかりと抵抗の姿勢を見せるのは流石だな、その精神力の強さに益々惹かれてしまいそうだ」
が、と付け加えると。
ヴァレンフォードは、僕がヴァレンフォードの胸から離しかけていた右手、その右手首を掴み動かないようにしてきた。
「このっ……!」
ここは純粋な力勝負だと踏んだ僕は、力強くヴァレンフォードの手から自らの右手を引き抜こうとする。
……けど。
一向に、自分の手を引き抜けそうにない。
「ど、どうしてっ……!?」
純粋な筋力だけで言えば、僕の方が勝っているはず。
その確信があった僕は、その確信と現実の違いに驚いていると、ヴァレンフォードが落ち着いた声色で言った。
「君に吸わせた睡眠薬には、眠らせる効果と共に、短時間の間だけだが筋弛緩の効果も含まれている」
「っ……!筋弛緩……!?」
「あぁ、指先を動かしたり関節を曲げたり、最低限のことはできるだろうが……少なくとも、今の君では私に力で勝つことはできない」
そういうことだったのか……最低限動かせたせいで気づけなかったけど、意識してみると全然体に力が入っていない。
というか、体に力を入れることができない。
こんな状態では、ヴァレンフォードに力で勝つなんていうことは確かにできない。
「しかし、今も言った通り、指先を動かしたりすることはできる……そして、私が君の右手首を私の胸から離れられないように固定している────これはつまり、今君が自らの意思を持ってできることは、私の胸に触れ堪能することだけということだ」
「誰がそんなこ────っ!!」
胸という単語が出てきたことで、僕は今初めて、視界にヴァレンフォードの胸が映っていることを認識した。
目を開いてはいたけど、右手に集中していたせいで全然気づけなかった……!!
すぐに目を閉じないと────と、頭ではわかっているのに。
下着を脱いだことで露わとなった、セシフェリアやレイラよりも一回り大きな胸。
大きいのにちゃんと形は整っていて、張りもあって、先端には小さなピンク色のものが突起している。
見てはいけないと思っているのに、無意識のうちに目を奪われてしまう。
僕がそう感じていると、ヴァレンフォードは左腕を自らの両胸の下に添え、頬を赤く染めながら言った。
「君にそんなに見られると、やはり恥ずかしいな……どうだろう、私の胸は、君の初夜の相手として務まるものだろうか?」
務まらない。
と、言うべきだ。
ここで務まるなんて言ってしまったら、本当に自分の首を自分で締めることになる。
だからここは、務まらないと言うべき……なのに。
あまりにも本心と違う言葉。
それも、ヴァレンフォードが今に限ってとても頬を赤く染めて普段とは別人のようになっているため、喉から出そうとするも否定の言葉が出てこない。
でも、肯定するわけにもいかないとわかっているため僕がヴァレンフォードの胸に思わず見惚れながら沈黙を貫いていると────
「ん?……そうか、君の目に適ったことを、私は嬉しく思う」
「っ!?ぼ、僕はまだ何も答えてない!」
「確かに、君の口からは何も聞いていなかったが……一番確実に、そして嘘を吐くことを知らない君の君が答えを教えてくれた」
「僕の、僕────っ!」
しまった!
咄嗟に下を向くと────下着越しに見える僕の僕は、起き上がってしまっていた。
ずっと意識的に抑えていたつもりだったけど、さっきヴァレンフォードの胸に無意識のうちに目を奪われてしまったから、きっとその時に……!
「ち、違う!僕は────」
「しかし、ルーク……視線だけではやはり切ないものを感じてしまうだろう?目だけでなく、今度はしっかり手でも堪能してくれ」
そう言うと、ヴァレンフォードは僕の右手に自らの右手を重ねて────
「んっ」
「っ!?」
僕に、ヴァレンフォードの胸を一度揉ませてきた。
大きくて柔らかいけど、しっかりと沈み込み、沈み込んだ後には弾力のようなもの。
そして、今まで感じたことがないほど、手のひらに収まりきらないという感触を感じた。
続けて、ヴァレンフォードは頬を赤く染めると、僕の目を見ながら言う。
「ルーク、伝わらないか?私が今、君を求めていることを……私は君に触れたくて堪らない、私は君に触れて欲しくて堪らない、私は君を感じたくて堪らない、私は君に感じて欲しくて堪らないんだ」
「そ、それは……伝わって来るけど、それを受け入れるかどうかは僕の────」
「そうか……私のこの想いが、少しでも君に伝わっているのだな……こんな感覚は初めてで、どうすれば収まるのかわからないが、とにかく今私が求めていることだけはよくわかる────そして、それは君の体が求めていることでもあるのだろう」
ヴァレンフォードは僕の右手を自らの胸から離し、僕の右手を拘束し直す。
そして、下着越しに起き上がっているのが良く見える僕の僕が収められている下着に手を掛け。
再度僕の目を見て、今度は妖艶な表情で甘くもあり力強くもある声で言った。
「交わろう、ルーク……君の全てを、私はこの体で感じたい」
「っ……!ま、待────」
「安心してくれ、君に苦しい思いをさせるつもりは無い……誰よりも君のことを愛することのできる私が、誰よりも愛に満ちた初夜を君に贈ることをここに約束する、このマーガレット・ヴァレンフォードの名においてだ────私以外に、本当の意味で君という人間のこと全てを愛せる女は居ない、そのことを君にも身をもって教えよう」
元々、捕まったら拷問されるなり命を落とすなりの覚悟はして来ているつもりだったけど、こういう意味で危険が訪れることになるなんて……!
でも、僕が拘束されていてレイラが眠らされている以上、もはや……打つ手立ては無い。
そのまま、ヴァレンフォードが僕の下着を下ろそうとした────その時。
「うわっ!何これ!?」
「っ!?」
「……」
突然、廊下の方から、今の状況から考えれば場違いとも言えるほど明るい声が聞こえてきた。
でも、その声はただの声ではなく、僕にとって……
そして、ヴァレンフォードにとっても聞き覚えがある声だろう。
その声にヴァレンフォードが手を止め、この寝室内に沈黙が訪れると、人に見つかることを警戒していない足音と共にこの寝室に近づいて来るその人物の声が聞こえてくる。
「もう、マーガレット!いつもの部屋に居ないと思ったら、寝室なんかに居たの?ていうか、なんでドア斬れて────は?」
言いかけた声の人物────セシフェリアがこの寝室の中に足を踏み入れ、僕たちの方を見ると同時。
足を止めると、先ほどまでの明るい雰囲気から一転して目を虚ろにすると、冷たい声色で困惑の声を放った。
────セシフェリアとヴァレンフォード、間違ってもこの状況では絶対に出会ってはいけない二人が出会ってしまったことに、僕は戦慄を覚えていた。
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