確認

 僕たちは、ヴァレンフォード公爵家に潜入するに当たって……

 僕たちは改めて、潜入する時間は普段護衛を付けているヴァレンフォードが一人になるタイミングだというヴァレンフォードが夜眠る前であること。

 途中まではペルデドールに書かせた招待状を用いて中に入り、屋敷前まで来たら僕が一人で屋敷に潜入し、レイラは屋敷前で待機。

 そして、もし一時間経っても僕が屋敷前に戻って来なければ、レイラが屋敷内に様子を見に来る。

 という作戦内容の確認、振り返りを行った。


「次は、ペルデドールの時のように、ヴァレンフォードの不意を突いて要求する形を作れた時の話だ」

「はい……エレノアード帝国の、サンドロテイム王国との戦争継続を停止させることを要求するのですよね?」


 レイラの言葉に頷くと、僕は口を開いて言う。


「うん、いくらヴァレンフォードでも、不意の状態で剣を突きつけられれば要求を受け入れるしかなくなる……と思うけど」


 そうならない時の可能性も、しっかりと考えておかないといけない。


「もし、万が一ヴァレンフォードが自らの命を顧みず戦争を継続すると言い出したなら、僕は────ヴァレンフォードの命を奪う」


 迷いは無い。

 ヴァレンフォードがサンドロテイム王国との戦争を継続し、またサンドロテイム王国の民を傷付けようとするなら、容赦無く命を奪う。

 でも、一つ気になることがあるとするなら。


「友好的な関係で無いにしても、同じくエレノアード帝国を牽引してきた相手の命を奪う計画は、レイラにとって少し苦しいものになるかも知れないね……もし、直接的じゃなかったとしてもそれに加担するのが嫌なら────」

「いえ!」


 首を横に振って力強く否定すると、続けて言った。


「そのことがアレク様のため、そしてサンドロテイム王国のためになるのであれば、私は喜んで同国の者の命でも奪います」

「レイラ……ありがとう」


 本当に、ここまで僕のことを、そしてサンドロテイム王国のことを想ってくれるレイラには、どれだけ感謝しても仕切れない。

 ……そうだ!


「レイラ!話は変わるんだけど、話しても良いかな!?」

「はい、もちろんです!アレク様のお話なされたいことがあると仰るのであれば、何時間でも聞き続けます!」


 何時間も話し続けることは難しいけど、僕は今思い出したことを勢いのままに口を開いて言葉にする。


「実は、昨日エレノアード祭地下闘技場トーナメント戦で優勝したことで、エレノアード帝国の奴隷とされてしまったサンドロテイム王国の民たちを、助けることができたんだ!」

「っ!そうだったのですか!?」


 驚いた様子で言うレイラに、僕は頷いて言う。


「うん、その人たちが帰れることになるのはまだ少し先みたいだけど、それでも一週間以内にはサンドロテイム王国に帰れるって話だよ」


 僕がまだレイラには伝えられていなかったことを伝えると、レイラは自らの両手を握り合わせて感涙したといった様子で言った。


「あぁ……!アレク様のエレノアード帝国への潜入が、ようやく直接的にサンドロテイム王国の民の方たちを救うことになったのですね……!アレク様!本当に、本当におめでとうございます……!!」

「ありがとう」


 まさか、ここまで喜んでくれるとは思っていなかったから、そのことは少し予想外だったけど……僕は、そんなレイラのことを見て、本当に温かい気持ちになった。

 それから、レイラはしばらくの間感涙していたけど、時間が経つにつれて落ち着いてくると、改めて口を開いて言う。


「も、申し訳ございません、アレク様、お見苦しいところをお見せしてしまいました……」

「見苦しいなんて、そんなこと……僕やサンドロテイム王国のことを自分ごとのように喜んでくれて、本当に嬉しいよ」

「アレク様……!!」


 それから、ようやく落ち着いてきていたレイラは、またも少しの間感情が抑えきれなくなっていた。

 けど、さらに少し時間を開けてから、今度こそ落ち着いた様子で言った。


「しかし、昨日ルーク様が地下闘技場トーナメント戦にご参加なされていたのは、そういう理由だったのですね……」

「うん……改めて、事前に話さず、余計に心配をかけてしまってごめんね」

「いえ!心配したのは事実ですが、もはや今はそのようなこと関係ありません!ご自身の危険も顧みず、自国の民をお救いになられる勇姿に、私は感服致します!」

「ありがとう……でも、僕はただすべきことをしただけだから、そんなに大層なことじゃないよ」

「いえ!エレノアード帝国において一度奴隷となってしまった方のことを国へお帰しになるというのは、それほど大層なことなのです!あぁ、アレク様、何と偉大なお方なのでしょうか……!」


 目を輝かせながら言うレイラ。

 相変わらずな様子だったけど……やがて。

 レイラは、雰囲気を落ち着いたものに変えて言った。


「それはそうと、昨日と言えば……アレク様、昨日はセシフェリアさんにどのようなことをなされたのですか?」

「え!?えっと……」


 ど、どのようなこと……かと言えば────


「私だけのルークくん……顔赤くしててすっごく可愛いよ、柔らかいおっぱいの感触、いっぱい感じてね」

「はぁ……これが、これが、ルークくんの、ルークくんなんだね……あぁ、ルークくん……ルークくん……!!」

「ルークくん、ここ気持ち良いでしょ?」

「ここもだよね?ほら、いっぱい声出して良いよ?」


 こういうことになってしまうけど……こんなこと、説明できるはずがない!


「な、何もされなかったよ」


 そう思い、嘘の言葉を口にするも────


「嘘です!」


 身を乗り出して嘘だと指摘してきたレイラは、続けて言った。


「セシフェリアさんは、アレク様のアレク様に触れたと仰っていました!」

「そ、それは……!」


 そうだ、セシフェリアの言質があるんだった……!

 加えて、レイラがあの状況を見ている以上、ここで隠したら余計なことまで想像させてしまうことになる可能性がある。

 なら、恥ずかしいけど、ここは正直に。


「確かに、触られた……よ」

「っ……!」


 僕が答えると、レイラは目を見開いた。

 そして、少し間を空けてから言う。


「……セシフェリアさんは、アレク様が気持ち良くなられていたと仰っていましたが、そのことは────」

「僕は、気持ち良くなんてなってない!僕が敵国の女性の手でなんて、そんなこと、絶対……」

「わかりました……でしたら、最重要なことを確認致しますが────アレク様は、たのでしょうか……?」

「っ!た、達してないんてないよ!他のことは解釈の余地があるかも知れないけど、少なくともそれだけは絶対に間違いない!」


 僕が断言すると、レイラは身を引いて、胸を撫で下ろすと安堵した様子で言った。


「そうでしたか……本当に、良かったです」


 しかし、と続けると。

 レイラはソファから立ち上がって、僕の隣に腰掛けて言った。


「アレク様のアレク様に最後に触れた女性が、穢れた欲を持ったセシフェリアさんであることなど、到底許されるはずはありません……それも、あの状況からして、アレク様はセシフェリアさんの胸なども視界に納められたのですよね?」

「っ……!」

「とてもではありませんが、私はアレク様のアレク様の最後に触れた女性、そしてアレク様が最後に記憶に留めている女性の胸がセシフェリアさんの胸であることなど、絶対に看過することはできません……ですから、アレク様」


 頬を赤く染めると、レイラは自らの胸元に手を当てて甘い声色で言った。


「セシフェリアさんのことなど忘れるほど、これから私の体を見て、ご堪能なさってください……そして願わくば、私にアレク様の承諾を頂いた上で、アレク様のアレク様に触れさせていただくという幸せをお与えいただけませんか?」

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