レイラの幸せ

「え!?ダ、ダメだよ、レイラ」

「ど、どうしてダメなのですか!?」

「どうしてって……」


 レイラが僕の僕に触れたらいけない理由が、どうしてか。

 そんなの、数えればキリがないけど……

 やっぱり、一番は。


「は……恥ずかしいからだよ」

「っ……!」

「……セシフェリアの時は、両手が拘束されていて足も思うように動かせなくて、ほとんど強制的だったんだ」


 だから。


「それを強制じゃなく、意図的に許して、レイラみたいな綺麗な女の子が僕の僕を見て、触れると思ったら……恥ずかしいよ」

「っ……!」


 赤裸々に答えると、レイラは小さく声を上げてから言った。


「き、綺麗!?私は、アレク様から見て、綺麗な容姿をしているのですか!?」

「もちろんだよ、前も言わなかったかな?」

「いえ……以前は、私の胸を綺麗と仰ってくださりはしましたが、容姿までは……!」


 そういえば、そうだった……というか。

 レイラのことを僕が綺麗だと思っていることなんて、僕にとっては当たり前のことだから今まで伝えれてなかったけど……

 ここは、レイラのためにもちゃんと伝えておいてあげないといけないところだ。


「レイラは僕にとって、体だけじゃなくて、顔とかも含めた容姿も、心も、全てが綺麗だよ……たまに暴走しちゃう時もあるみたいだけど、それも僕のことを想ってだから、そういうところも含めて、僕はレイラのことが綺麗で、魅力的だと思う」

「あぁ……!あぁ、あぁ……!アレク様、アレク様が、私のことを、容姿だけでなく、心まで綺麗だと……!それに、私の未熟な部分までをも受け入れてくださるのですね……!」


 頬を赤く染めながら、自らの両手を合わせて言うレイラは、続けて首を横に振ると隣に座る僕に身を寄せてきて言った。


「しかし、いけません、アレク様……そのようなことを仰られては、余計に達することができずもどかしいお気持ちになっているであろうアレク様のアレク様を、私の身を持って癒して差し上げたいと思ってしまいます!!」

「え!?」


 息遣いを荒くし出したレイラから一歩身を引くと、僕は首を横に振って言う。


「ほ、本当にもう大丈夫だから!……その気持ちだけで、僕は十分嬉しいよ、ありがとう」


 慌てて言いながらも、最後にはしっかりとレイラの気持ちにお礼を伝えた。

 すると、レイラは少し目を見開いて、落ち着いたように身を引いて言った。


「そうですか……わかりました」


 そのレイラの様子を見て、僕も身を引くのをやめて元の位置に身を戻す。

 納得してくれて良かっ────


「でしたら、アレク様の真の崇高さを知らない、穢れた欲を持った女性の体がアレク様の最後の視界に納められた女性という、絶対にあってはならない状況を終わらせるためにも、今度は私の体を視界にお納めいただきたく思います!」

「っ……!」


 そ、そうだ!

 まだそのことが残っていた……!

 だけど、このことも上手く説得すれば……!


「待っ────」


 待って、と言いかけた僕だったけど……

 そのときには、レイラは聖女服を脱いでおり、気が付けば上半身は下着姿となっていた。

 綺麗にできたくびれが露わになっている。

 僕は、これ以上見ていたらいけないと感じ、咄嗟に目を瞑ろうとした────けど。

 背中に手を回したレイラが、頬を赤く染めながら、落ち着いた声色でありながらも嬉しそうな表情で言った。


「アレク様は、初めてお会いしたとき、醜い欲望を持った男性たちから私の純潔を、そして命を救ってくださいました……そんなアレク様のお力となるためだけに、私は生きてきたのです────その私にとって、アレク様に綺麗だと仰っていただけることがどれほどの幸せかなど、言うまでもありません」

「レイラ……」

「ですからどうか、目など閉じず、私を見て欲しいのです」

「……」


 ついさっきまでは目を閉じようとしていたのに、そんなことを言われたら────目なんて、閉じられるはずもない。

 僕は、目を開けたままレイラのことを見ていると、レイラは嬉しそうにゆっくりと下着を脱いだ。

 すると────張りがあるけど大きく。

 色白で、先端には小さなピンク色の突起がある、レイラの胸が露わとなった。

 本当に、何度見ても慣れない衝撃に、とても顔を熱くしていると……

 レイラが、そんな僕のことを見て言った。


「私などの体で、アレク様がそれほど動じられる必要はありませんが……それでも、嬉しいです」


 そう言うと────


「っ!?」


 レイラは、僕の顔を自らの胸に埋めるようにして抱きしめてきた。


「いかがですか?アレク様、私の胸は」

「え?え、えっと……す、すごく柔らかくて、大きくて、あと……」


 僕がこの感触に頭の大半を持っていかれて言葉を詰まらせていると、レイラが小さく笑ってから言った。


「普段は凛々しいアレク様ですが、こういったことには慣れていないせいもあり、失礼ながらご反応がとても愛らしいと感じてしまいます……お父君が見られたら、驚かれてしまうかもしれませんね」

「っ……!レ、レイラ、父上には、こんな僕のことは────」

「もちろん、お父君にお会いすることがあっても、お伝えはしません……今のアレク様は、私だけのアレク様ですから」


 そう言うと、レイラは僕のことを抱きしめる力を強めた。

 ……とても恥ずかしかったけど、それと同時にレイラからとても温かい気持ちが流れ込んで来たように感じた。

 その温かさによって……

 僕は、普段はどうにか堪えている不安を、思わず吐露してしまう。


「……また、父上とお会いできるかな」

「はい……必ず、お会いすることができます」

「そうだ、奴隷とされてしまっていたサンドロテイム王国の民たちが帰る前に、僕がエレノアード帝国に潜入したことで得た情報をまとめた紙を渡しておこうかな……いや、でも、万が一それがエレノアード帝国の人間に見つかった場合、その民の人が……どうしよう」

「……っ!そういうことでしたら、私に良い案があります!」

「え……?」


 困惑の声を上げながら顔を上げると、レイラは続けて言った。


「今はヴァレンフォードさんの件があるので余計となるかもしれないことは言いませんが、もしこれが上手く行けば、が叶うかもしれません!」

「え!?ち、父上と!?」

「はい!」


 一体、どんな方法なんだろう……

 僕には全く見当も付かなかったけど、確かに今はヴァレンフォードの件に集中したほうが良────


「っ……!」


 と考えていると、顔を上げたことによって視界の端にレイラの胸が映った僕は、小さく声を上げた。

 そんな僕のことを見たレイラは、小さく口角を上げて甘い声色で言う。


「アレク様、そんなに恥ずかしがらず、どうぞ好きにお触れください」

「そ、そんなことできないよ」

「ですが、以前はとても────」

「あの時は媚薬が入ってたからで、今はできないよ!というか、もうレイラの体はとても頭の中に残ったから、早く服を着て!」

「そう仰らず、あと少しだけ────」


 それから。

 どうにかレイラのことを説得することができると、服を着たレイラと一緒に紅茶を飲みながら話をして過ごした。

 とても大変なエレノアード帝国での生活だけど。

 ────レイラと二人で一緒に居る時だけは、とても心が温まった。

 そして、時は過ぎ……いよいよ。

 翌日、ヴァレンフォード公爵家の屋敷に潜入する日がやって来た。

 ……マーガレット・ヴァレンフォード。

 僕にとってまだまだ未知の相手だけど、サンドロテイム王国のためにも、絶対に抑えてみせる!!

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