元通り
「はぁ、やっとルークくんのことこうして抱きしめてあげられるね……大好きだよルークくん、もう離さないからね」
少しの間セシフェリアに抱きしめられた後も、相変わらずセシフェリアという人間のことがわからず。
かと言って両手や左足が拘束されていて動くこともできないため、僕がただセシフェリアに抱きしめられ続けていると……
離れた場所からその光景を見ていた王女が口を開いて言った。
「まさか、あのセシフェリアがそこまでその奴隷に執着していたなんて、驚きね」
その言葉を聞いたセシフェリアは、一度僕のことを抱きしめるのをやめると、王女の方を向いて言う。
「それはもう、今の私はルークくんしか目に無いからね」
「……」
「で?王女様、今からどうするの?もしまだルークくんのことをどうこうしようとするつもりなんだったら、今日の夜話すことになってた例の件から私は降りることになるけど」
例の件……?
おそらくは僕が知らないであろう話が出てきて少し困惑したけど、王女は口を開いて言う。
「私を脅しているつもりなのかしら」
「もう、前にも似たようなやり取りしたけど、脅しじゃないよ?今の私にとってはルークくんが一番で、それ以外は二の次……王女様が、その私にとって一番のルークくんに何かしようとするって言うなら、二の次なことは全部削ぐのが合理的でしょ?」
落ち着いた声色で放たれたセシフェリアの言葉に、王女は少し沈黙すると……
やがて、小さく頷いて言った。
「……わかったわ、その奴隷には何もしない」
「ありがと〜!じゃあ、私たちもう行くけど、良いよね?」
「えぇ」
セシフェリアは、僕の外されていた紳士服のボタンを全て閉じ直すと、左足を拘束していた鎖を剣で斬った。
そして、自らと僕にフード付きの服を着せてフードを被せてくると、僕のことを抱え上げる。
「……え?」
そのまま部屋の外に向けて歩き出したセシフェリアに対し、僕はある疑問を抱いた。
「セ、セシフェリアさん?」
「何?ルークくん」
そのためセシフェリアのことを呼びかけると、セシフェリアは僕のことをとても愛らしい表情で見て聞き返してくる。
が、僕はその表情のことは気にせずに、今抱いている疑問を投げかけることにした。
「僕の両手の拘束は解いてくれないんですか……?」
「うん、それはまだだよ」
まだ、という言葉の意味はわからなかったけど、そういうことなら……
僕は、今の疑問以上にさらに疑問に抱いていることを聞く。
「それなら、どうしてセシフェリアはさんは僕のことを抱え上げてるんですか?しかも、この抱え方は────」
「あぁ、ルークくんにお姫様抱っこしてあげてる理由?」
「……はい」
その言い方には抵抗があって思わず小さく声を上げてしまったけど、セシフェリアはそんな僕の様子を気にせずに言った。
「理由は簡単だよ?単純に、可愛いルークくんのことをこうしてお姫様抱っこしてあげたかったっていうのと……」
続けて、セシフェリアは小さく口角を上げて重たい声色で言った。
「これで、ルークくんはもう私から逃げられないでしょ?」
「っ……!」
その表情と声によって、体全身に悪寒のようなものが走った。
……セシフェリアの言う通り。
両手が塞がれていて足も持ち上げられている以上、今の僕は身動きを取ることができないため、どうすることもできない。
そんな僕のことを見下ろして、セシフェリアはとても楽しそうな声色で言った。
「こうしてると、ルークくんが本当に私の手の中に居る感じがして、普段以上に可愛く見えるね……今後も定期的にお姫様抱っこしてあげよっかな〜!ううん、ルークくんは男の子だから、お姫様抱っこじゃなくて王子様抱っこかな?」
そんな呼び方はどうでもいい!
というか、定期的になんて冗談じゃない!
と思っていると、僕はふと後ろから視線が注がれていることに気がついたため振り返った。
その視線は、王女からのもので────
「……王子様……王子、王族……考えすぎかしら、でも……」
王女は、顎に手を当てて僕たちには聞こえないほど小さな声で何かを呟いていたけど、その視線はしっかりと僕に向けられていた。
その視線には、まるで僕のことを観察するようなものを感じたけど、セシフェリアがあっという間に部屋を出たためその視線は切れた。
……なんだったんだろう。
王女が何を考えていたのかはわからないけど、僕がそのままセシフェリアと一緒に外に出ると────
「引き渡しの時間まで後ちょっとしかねえぞ!」
「聖女様のため!!」
「今こそ、奴隷制度撤廃に兆しを!!」
「俺の五千万!!」
「公爵様はあちらを探しておられる!!」
「あの方を探せ!!」
街の中から、そんな声が無数に聞こえてきた。
こ、これは、もしかして……
「ルークくんを捕まえようとする街の人たちと、ステレイラちゃんの指揮下で動く教会の人たち、あとはセレスティーネと同じ思想を共有する人たちの声だね……みんなルークくんを探してる」
「……」
「────だけど」
僕を探している人たちの横を僕たちが横切っても、その人たちは僕が居ることに気づかない。
理由は単純で、セシフェリアが僕と自らにフードを被せたからだ。
僕の意思としては、今すぐにでもこのフードを外して、教会の人に見つけてもらってレイラのところに連れて行って欲しいところ……だけど。
何度も言うように、両手が拘束されているためそんなことはできず────やがて。
「到着、だね」
セシフェリアは、堂々と街の中を歩いて、引き渡しの時間に僕のことを奴隷商の居る奴隷市場に連れてきた。
すると、奴隷商の男が口を開いて言う。
「いやはや、流石公爵様!これほど街中が掻き乱されたというのに、しっかりと自らの奴隷を連れて来られるとは!」
「まぁ、ルークくんは私のルークくんだからね、それは当然だよ……じゃあ、ルークくんは引き続き私の奴隷ってことで良いんだよね?」
「えぇ、もちろんです!」
奴隷商というなの通り、商人らしく声に抑揚をつけて返事をする男。
セシフェリアは「そう」と短く返事をしてから「それと」と付け加えると、目を虚にして冷たい声色で言った。
「今度、もしまたルークくんのことをこんな催し事の商品にしたりしたら、この奴隷市場潰すからね」
「ひっ……!はっ、はいぃ……!」
そのセシフェリアの迫力には商人としての喋り方を維持することはできなかったのか、男は声色に恐怖を滲ませた。
そして、セシフェリアは僕のことを抱えたまま奴隷商を出ると、口を開いて明るい声色で言う。
「これで、奴隷所有権争奪戦は終了して、元通り!ルークくんは私のルークくんになったから、万事解決────なんてわけにはいかないよね」
突然声色を暗く変化させると、セシフェリアは僕のことを虚な目で見据えながら言った。
「今日ルークくんは、紛れもなく自分の意思で私から逃げた……ようは、私以外の女のものになろうとした────だから、どうしてそんなことをしたのか、そしてもう二度とそんなことが起きないように、徹底的に教え込んであげないといけないよね」
「……」
────もし、セシフェリアから逃げるという選択をした上でセシフェリアに捕まってしまったら、今度こそ何をされるかわからない。
その捕まってしまった場合が現実となってしまうも、今の僕にはどうすることもできないため、僕はセシフェリアが足を進めるのを受け入れることしかできなかった。
そして……宿の一室に入ると、僕は両手を拘束されたまま、セシフェリアによってベッドの上に連れ込まれた。
────これから、僕はセシフェリアによって、今までにないほどの屈辱を味わわされることになる。
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