好み
「っ……」
僕の紳士服のボタンに手を掛けていた王女は、早速そのボタンを外し始めた。
こんな王女に快感を感じさせられてしまうなんて、そんなことは絶対にあってはいけない!
でも、両手でが背中に回された状態で手錠をされていて、左足は拘束……
右足は王女に跨られたことで封じられてしまったし、仮に動かせたとしても相手が四肢全てを動かせる状態で僕が右足しか自由に動かせないのなら、形成を逆転させるのはかなり難しい。
思考を巡らせるも、この状態ではどうすることもできず、僕は王女によって上に着ている服のボタン全てを外された。
上の服を脱がされたわけではないけど、ボタンが外れたことによって僕の上半身が少し露わになる。
すると、王女はそんな僕の体を見て言った。
「やっぱり、相当鍛錬を積んでいるようね……」
続けて、手のひらで僕の上半身に触れながら言う。
「筋肥大じゃなく、筋力を上げることに重点を置いて鍛えたことによって出来上がった、程良く筋肉の付いている引き締まった体……」
僕の体に触れている手のひらを小さく回しながら、王女は口を開いて言う。
「とても私好みの肉体よ、それに、肉体だけじゃなくてあなたの品性を感じる整った綺麗な顔立ちも、すごく私好み……残念ね、もしあなたが奴隷じゃなく王族だったなら、今すぐにでも私の初夜の相手を務めさせてあげたのに」
「誰が……あなたなんかとそんなことをするぐらいなら、死んだ方がマシだ」
「ふふっ、良いわよ?あなたの反抗心が強ければ強いほど、後で私があなたに与える快楽が、あなたの精神に及ぼす影響も大きくなるもの」
「僕が、こんなことをしてくる相手なんかにされたことで、快楽を感じるわけがない」
「どれだけ感情で否定していたとしても、体は正直なものよ……そして、その快楽を感じた時こそ、あなたは限界を知ることになるわ────そうなって自らの発言が誤りだと気づいて私に謝罪するなら、今後あなたを私の傍に置いてあげても良いわ」
僕の発言が間違いだと認識して、僕がこの王女に謝罪……?
こんな、他国の民どころか、自国の民のことすらどうとも思っていない王女に……?
「ふざけ────」
「さっきも言った通り、あなたの顔や肉体、あと言葉の力強さや雰囲気は嫌いじゃないのわ……今まで、色々と深い思索を巡らせてきたことが発言の節々から見てとれる、理知的さも好みよ」
「……」
「残念なのは、あなたが奴隷であるということと、その強情な性格ね……奴隷であるということは変えることができないけれど、性格なら時間をかけて変えられるわ」
王女は、僕の上半身を手のひらで僕の体の下へなぞるように動かして続ける。
「例えこの一回で完全に変えることはできなかったとしても、それは今後も何度か調教をすれば済む話……今はちょうどあなたの奴隷所有権争奪戦というものもやっているようだし、ちょうど良いわよね」
そう言いながら、手のひらを僕の体の下へ下へとなぞって行くと、やげて王女は僕の紳士服のパンツに手を掛けた。
「このっ……!」
どうにか抵抗しようとするも、両手は動かせず、左足は鎖で繋がれ、右足も跨られていて動かせない以上……どうすることもできない。
「今は私のことが嫌いで、私の手で快楽なんて感じたくないと思っているあなたが、次第に私に快楽を感じさせてほしいと求めてくるようになる、その時が今から楽しみだわ……そう、最初はどれだけ気高い理想があったとしても、人は簡単に折れてしまうものなのだから」
「僕は、こんな方法で、絶対に折れたりなんてしない!」
「そう言っていられるのも今のうちだけよ……あなたはこれから先の未来で、私に屈服するしかなくなるのよ────さぁ、あなたも、己の限界を知りなさい」
王女が、僕の紳士服のパンツを下ろすべく、手に込める力を強める。
もはや、万事休────
「王女様!ご来客です!」
と思った時。
部屋の外からノックが聞こえたと思ったら、その直後にそんな声が聞こえてきた。
王女は一度手に込める力を弱めると、この部屋のドアの方に向かって言う。
「今忙しいわ、後にしなさい」
「そ、それが────」
「そういうわけにもいかないんだよね」
「っ!?」
聞き覚えのある声が聞こえたことに、僕が驚くと同時……
ドアが勢いよく開かれると、そこからセシフェリアが入ってきた。
セレスティーネのことまで撒いて来たのか……!?
「……セシフェリア」
王女が小さく呟くと、セシフェリアは僕たちの方を向いて口を開く。
「ルークくん、堂々と私から逃げたこと、後で────っ!?」
何かを言いかけたセシフェリアだったが、僕たちの方を向いて、驚いたように目を見開くとその目を虚ろにした。
続けて、冷たい声色とただならぬ殺気を発しながら言う。
「王女様……今すぐルークくんから離れて、じゃないと────」
「悪いけれど、それはできないわ……今から、この奴隷のことを調教するところだもの────だから、セシフェリアにはそこで大人しくしていてもらうわ」
王女の言葉を合図として、部屋の外から数十人の武装した兵士たちが入ってくると、その兵士たちはセシフェリアのことを囲んだ。
「わかっていると思うけれど、セシフェリアのことは死なせてはダメよ……拘束、場合によっては気絶させることも許可するけれど、できるだけ無傷で拘束しなさい」
「はっ!」
王女の指示を聞いた兵士たちは一斉に声を上げると、セシフェリアに向けて槍を構えた。
四方八方を塞がれ、四方八方から槍を向けられている。
そんな状況の中、セシフェリアは相変わらず冷たい声色で言い放った。
「……へぇ、こんなので私を大人しくさせられると思ってるんだ」
その言葉に対して、槍を構えている兵士の一人が言う。
「な、何を言っておられる!あなたとて、この数が相手ではどうすることもできぬでしょう!大人しく降伏してください!」
「ルークくんが懸かってるのに、私が降伏なんてするはずないでしょ……あと、王女様の言葉なんて無視して、私のこと殺す気で来た方がいいよ────じゃないと、君たちが死ぬことになるから」
「っ……!や、やれ!!」
その一人の兵士の言葉を合図として、セシフェリアを囲んでいる兵士たちが、セシフェリアに向けて槍で攻撃を加え始める。
「大好きなルークくんが私のことを待ってるの……だから────君たちには、ちょっと痛い目を見てもらうよ」
そう言ったセシフェリアは、無駄の無い動きで全ての攻撃を避けると、時には腰を低くして、時には宙を舞いながら兵士たちに斬撃を加えて次々に兵士たちを斬り伏せて行く。
……セシフェリアが剣に覚えがあるのは今までもわかっていたことだけど、これほどだったとは。
僕がその光景を眺めながらそんなことを思っていると────やがて、セシフェリアは無傷で全ての兵士たちを斬り伏せた。
そして、僕と王女の居るベッドまで走ってくる。
「……」
セシフェリアのことを警戒したのか、王女は一度ベッドから距離を取った……けど。
セシフェリアの狙いは最初から王女ではなく────
「ルークくん!!」
目に光を戻して僕の名前を叫ぶと、そのまま僕の居るベッドまで走って来て、僕のことを力強く抱きしめてきた。
……今この瞬間だけは、セシフェリアが僕のことを純粋に心配し、僕の安全を心から安堵してくれているのが伝わってくる。
その、セシフェリアから伝わってくるものに……僕は、またもクレア・セシフェリアという人間のことがわからなくなりそうだった。
と思っていたのも束の間────僕はこの後で、セシフェリアによって今までに無いほどの屈辱を与えられることになるのだった。
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