お迎え
「っ……!」
ここで言われた通りにセシフェリアの方に行くのか、それともレイラに僕の主人となってもらうべく行動するためにセシフェリアから逃げるか。
レイラが僕の主人となってくれたら理想的だというのはさっき話した通り。
だけど、もしセシフェリアから逃げた上でセシフェリアに捕まってしまったら、その時こそ何をされてしまうかわからないというのもさっき考えた通りだ。
今後のことを考え理想に賭けるか、それとも今後のことを考えるからこそ、ここで無闇にリスクを取ることは避けるべきなのか。
僕がどちらにすべきか未だに判断を悩んでいると、レイラがセシフェリアの剣を押し返しながら言った。
「ルーク様のことは、絶対に渡しません!」
「……渡さない?」
相変わらず冷たい声で聞き返したセシフェリアは、一度レイラと剣を交えるのをやめると素早く別の角度からレイラに向けて剣を振り下ろした。
レイラがどうにかそれを受け止めると、セシフェリアは言った。
「私のルーク君だから、ステレイラちゃんにどうこうする権利はないよ」
「それは違います!今のルーク様は、誰のものでもありません!」
力強く言うと、レイラはセシフェリアの剣を押し返し、今度は軽く弾き返すことに成功した。
そして、弾き返したことによって生まれたセシフェリアの隙を突く形で、セシフェリアに剣による素早い追撃を行う。
セシフェリアがそれを軽く難なく受け止めると同時に、レイラは大きな声で言った。
「皆さん!ルーク様のことを、ポイントアルファへ連れて行ってください!」
「はっ!」
レイラの言葉を聞いた教会の人たちは、僕に近付いてくると、僕のことを抱え上げてきた。
「え!?ちょっと待────」
突然のことに驚いて思わず声を上げた僕に対し、セシフェリアと剣を交えているレイラが口を開いて言う。
「大丈夫です、ルーク様!今はその方々について行かれてください!私も後で合流します!」
「だから、私がそんなこと許すわけないよね」
レイラと剣を交えるのをやめて僕たちの方に近づいてこようとしたセシフェリア────だったけど。
そんなセシフェリアのことを、レイラはセ剣を交えることで動きを止めて言う。
「さぁ!早く行ってください!」
レイラの言葉を聞いた教会の人たちは、後ろから聞こえてくるセシフェリアとレイラの剣を交える音を背に僕を抱えて走り出した。
「っ!聖女様!」
咄嗟に声を上げるも、その姿は遠ざかっていくばかり。
……セシフェリアとレイラ。
レイラは、僕と出会った時から知性だけでなく武の力も蓄えていったと言っていた。
要は、レイラが剣の鍛錬を始めたのはここ数年のことだということだ。
さっき少し動きを見ただけだけど、ここ数年の鍛錬であそこまでの動きができるのはとてもすごい。
剣の才能があると言ってもいいほど。
「だけど……っ」
────セシフェリアの動きは、洗練されていた。
才能で言えばレイラだって絶対に負けていないけど、あれは幼少の頃から剣の鍛錬を積んできていた動きだ。
今後僕がレイラに剣を教えていけば同じぐらいにまで引き上げることはできると思うけど、おそらく今のレイラではまだセシフェリアに勝つことはできない。
そして、今のセシフェリアなら、レイラに対してどんなことをしてしまったって不思議はない。
そう考えたら……とてもじゃないけど、このままレイラのことを置いていくことなんてできない!
と考えていた時。
僕のことを抱えている教会の人のうちの一人の女性が、僕に向けて言った。
「聖女様のことをご心配されているのなら、その必要は無いですよ」
「……え?」
必要は、無い……?
「それは、どうしてですか?」
「聖女様の目的はあくまでも時間稼ぎであり、ある程度の時間を稼ぐことができれば教会内に入られる予定だからです」
教会内……それだけ、教会内はこのエレノアード帝国において安全で、文化として根強いということか。
でも、だからと言って、剣を交えている以上絶対に危険が無いわけじゃない。
だから、レイラを助けに行きたい気持ちでいっぱい……だけど。
それは、レイラの僕を助けようとしてくれた覚悟をも否定することになる……なら。
「わかりました……なら、僕のことをそのまま所定の場所まで連れて行ってもらっても良いですか?」
「元より、そのつもりです」
「……」
レイラが無事だということを信じて────レイラが僕の主人になるという、理想に賭けてみることにしよう。
もしこれで失敗して僕がセシフェリアに捕まってしまうようなことがあったら、それこそ僕の貞操だって奪われてしまうかもしれない。
だけど……僕は絶対に捕まらない。
レイラや、サンドロテイム王国のためにも、この理想を勝ち取ってみせる!
そう心に決めた僕は、そのままレイラの願い通りに教会の人たちと一緒に行動を共にした。
それから数分後。
「────ポイントアルファに到着しました」
ということで、僕は地に降ろされると、辺りを見渡す。
路地を通ってきたから一体どんな場所に連れて行かれるのかと思っていたけど……
周りにはそれぞれ店などの建物などがあるだけで、僕たちが居る場所には何も無かった。
「あの……ここは?」
「路地裏奥にある空き地空間です」
「空き地空間……」
「はい、建物が無い分、もしこの場所が見破られてしまえば逃げることは困難」
ですが、と続けて。
「尾行でもされていない限り、この場所を見つけることはほとんど不可能となります」
なるほど……レイラが時間稼ぎをしているからセシフェリアに備考されている可能性は絶対に無い。
つまり、この場所は現状ほとんど安全な場所ということだ。
「この後はどうするんですか?」
「聖女様から頂いたお話では、所定の時間に聖女様がこちらに合流なされるということになっています……そして、もし合流が無ければ、折りを見て我々の方から教会へ戻るということになっています」
「……わかりました」
実によく組み立てられている計画だ。
僕の奴隷所有権争奪戦の開始を告げる紙をレイラが見つけてから、まだそんなに時間は経っていないと思うけど……
流石はレイラといったところだろうか。
これなら、本当にあのセシフェリアを上手く出し抜けるかもしれない。
僕がそう思っていると────
「奴隷制度の撤廃を〜!!」
「不当な奴隷制度に終焉を〜!!」
街の方から、そんな声が聞こえてきた。
……奴隷制度の撤廃、か。
そういえば、セレスティーネは今どうしているんだろう。
去年は違法な奴隷取引とかを見つけて摘発していたという話だったけど、今年も同じことをしているんだろうか。
もしそうなら、後で時間ができた時にでも僕も少し協力したいな。
「あの……奴隷制度について、どう思いますか?」
レイラの指揮下にある人たちと言っても、仮にもエレノアード帝国の人たちであるこの人たちが、奴隷制度についてどう思っているのか気になった僕がそう聞いた────直後。
「制度という、人のためにあるべきものを、人を人として扱わないために利用している、歴史上最も愚かな制度だと思います」
「っ!?」
目の前の教会の人たちじゃない、どこからか力強い声が聞こえてきたかと思えば────僕は、突然誰かに後ろから抱きしめられた。
「お迎えに上がりました、ルーク様……共に、この国を変革致しましょう」
声のした後ろを振り向くと、そこに居たのは。
ピンク色の髪をした、優しい表情をした女性────セレスティーネだった。
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