積極的
「そんなに長い間待ってたわけじゃないので、気にしないでください」
「ルークくんは優しいね〜!それで、そのドアの奥にサンドロテイム王国の奴隷が居るの?」
「そうです……あと、その件で、実はセシフェリアさんに一つお願いしたいことがあるんです」
「その件って、サンドロテイム王国の奴隷のことで、ルークくんが私に……お願い?」
僕は、そのセシフェリアからの問いに頷く。
……ここからだ。
ここからの僕の発言一つ一つが、この部屋の奥に居るサンドロテイム王国の民たちの命を左右する。
今までも絶対に失敗できないという場面は何度かあった。
けど、それらはあくまでも僕が危ない目に遭うからだったり、間接的に僕がサンドロテイム王国を救えなくなるからだった。
でも……今回はそうじゃない。
ここで僕が一つ何か大きく間違えれば、それだけで直接的にサンドロテイム王国の民たちが危険な目に遭うことになる。
────そんなことには、僕が絶対にさせない!
「この中に居るサンドロテイム王国の奴隷の人たちのことを……サンドロテイム王国に帰してあげて欲しいんです」
「え?どうして?」
ここで、もし僕個人がサンドロテイム王国に深い思い入れがあるからということを仄めかして仕舞えば、それだけで僕がサンドロテイム王国の王子だとバレる可能性が高まってしまう。
そんなことになったら、この場でみんなのことを助けることができても、今後サンドロテイム王国を救うことに支障が出る可能性がある。
だからここは、あくまでも客観的な意見として……
「できるだけ、誰にも苦しんでほしくないからです」
「……」
「もちろん、この国に奴隷制度がある以上、どうしても苦しんでしまう人が生まれるというのは、僕もこの国に来てからしばらく経つので受け入れることができました」
本当は受け入れることなんてできていないけど、ここは便宜上そう言っておく。
「ですけど、もし手の届く範囲の人を、苦しまなくても良いようにしてあげれるなら、僕はその可能性を諦めたくないんです……だから、お願いします!」
サンドロテイム王国の王子である僕にとっての自国の民だから、という本当の理由は隠しているけど、それでも嘘は全く言っていない。
そのため、思いもしっかりと込めて伝えると、セシフェリアが言った。
「ん〜、今回頑張ったのはルークくんだし、私としてはルークくんが傍に居てくれるなら他の奴隷なんてどうなっても良いんだけど……」
「っ!でしたら────」
「でも、やっぱりダメかな、そのドアの奥に居るサンドロテイム王国の人たちには、このまま奴隷になってもらうよ」
「っ!?」
悪気なく言うセシフェリアの言葉に驚くと同時に、サンドロテイム王国の民たちを奴隷にするという言葉に思わず殺意を抱いてしまいそうになる。
でも、こんなところでセシフェリアに何かをしてしまったらそれこそこのドアの奥に居るみんなに危害が加わりかねない。
どうにか殺意を抑えると、僕はセシフェリアに聞く。
「……他の奴隷に執着は無いと仰られているのに、どうして僕のお願いを聞いていただけないんですか?」
「さっきも言った通り、私としてはサンドロテイム王国の人たちがどうなろうとどうでも良いから、私としては帰してあげても良いんだけど……そんなことしたら、多少のリスクもあるし、何よりもマーガレットに怒られちゃうかもしれないからね〜」
「マーガレット……ヴァレンフォードさんのこと、ですよね?」
「そうそう、一応サンドロテイム王国の人たちってマーガレットが長い間侵略してようやく手に入れられた成果だから、勝手に帰したりしたら怒られちゃうかも……マーガレットって、怒ると手つけられないんだよね〜」
自覚してないのかもしれないが、怒ると手をつけられないのはセシフェリアも同じだ。
それはそれとしても、そんなただセシフェリアが怒られたくないからというのが大きな理由となって、サンドロテイム王国の民たちをエレノアード帝国の奴隷になんて絶対にさせない!
僕が何か良い手は無いかと頭の中で思案していると、セシフェリアがそんな僕のことを見て小さく口角を上げて言った。
「だから、簡単にまとめてあげると……現状、私にとってサンドロテイム王国の人を国に帰してあげるのは、メリットよりもデメリットの方が大きいんだよね」
……つまり、サンドロテイム王国の民たちを国に帰すことで、セシフェリアにメリットが生まれるようにしないといけない。
でも、そんなこと、どうすれば────
「例えばだけど、ルークくんが私におっぱいさせてくれたりするなら、メリットが増えるよね」
「っ……!」
「もちろん、サンドロテイム王国の奴隷の人たちを帰すってなったら多少のリスク、例えばどうして私がサンドロテイム王国の人たちを帰したのかとか言われちゃうかもしれないから、その辺りのことも考えるとおっぱいさせてくれるだけじゃ足りないよ?すごいので言うと、一緒にお風呂入ってくれるとか────」
お風呂……そうか!
「それなら、一緒にお風呂に入りましょう!」
「……えっ?」
言葉を遮って身を乗り出し、力強く言う僕に驚いた様子のセシフェリア。
そして、続けて困惑した様子で聞いてくる。
「い、良いの?」
「もちろんです!!」
それで、サンドロテイム王国の民たちが助かるなら……!
僕が迷いなく言うと、セシフェリアが頬を赤く染めて言った。
「ルークくんは嫌がるかなって思ってたから、そんなに積極的に言ってくれて嬉しいよ……そういうことなら、サンドロテイム王国の奴隷たちは帰してあげるね?」
「ありがとうございます!セシフェリアさん!」
「……体の洗いっことかも、して良い?」
「奴隷の人たちを帰してくれるなら、どうとでもしてください!」
「っ!そっちの方は約束するよ!じゃあお風呂の件、よろしくね!ルークくん!」
「はい!」
その後、セシフェリアはサンドロテイム王国の人たちを国に帰すための手続きをしてくると言って、とても楽しそうにしながらこの場を去って行った。
僕は、すぐに部屋の中に入って、みんなに伝える。
「みんな!みんなは正式に、国に帰れることになったよ!」
「っ……!本当ですか!?」
「アレク様……!」
「ありがとうございます……!」
「どうなることかと、うぅ……!」
僕は、みんなが喜んでくれている姿を見て、心を温める。
良かった……僕は本当に、みんなを助けることができたんだ!
「じゃあ、みんな……また会おうね」
「はい……!」
「お達者で、アレク様……!」
本当はずっとここに居たかったけど、僕はまだそういうわけにはいかないため部屋を出る。
すると、サンドロテイム王国の人たちを、サンドロテイム王国に帰す手続きを終えたというセシフェリアが戻ってきた。
そして、二人で地下闘技場から出て地上に上がり、エレノアード祭真っ只中の地上に上がってくる。
「ルークくんのこといっぱい労ってあげたいし、今から二人で美味しいものとか食べに行こっか!」
「はい」
先ほどから妙に嬉しそうに、そして楽しそうにしているセシフェリアと同様。
僕も今は気分が晴れやかで特に断る理由もなかったため、その誘いに応じる。
みんなを助けることができて、本当に良かった……
と思っていると。
「っ……」
大量の紙、いわゆるビラというものが突如僕たちの方に飛んできて、その一枚がセシフェリアの顔に当たった。
セシフェリアは、顔に当たった紙を取って、目を通した────直後。
「……」
その紙に向けて冷たい目を向けた。
一体何事かと思った僕がその紙を覗いてみると、そこには見出し部分に大きな文字でこう書かれていた。
『エレノアード祭!地下闘技場トーナメント戦!優勝者!セシフェリア公爵家の奴隷ルーク!奴隷所有権争奪戦開幕!!』
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