証明
「ルークくん!今日は一日中一緒だよ〜!楽しみだね〜!」
街に向かう馬車の中、僕の隣に座ってきているセシフェリアは、僕のことを見ながら楽しそうにそう言った。
僕としては、セシフェリアと出かけることに楽しみなんていうものを見出すことはまず不可能だと思っているけど、ここで否定して機嫌を損ねるわけにもいかないため、思ってもいない相槌を打っておくことにした。
「……はい」
「今からレストランに行って、レストランに行ったあとはお店とか覗いたりして、ルークくんに似合いそうなものとかあったら買ってあげて、夜になったら……ね」
セシフェリアは何か意味を含ませるようにそう言った。
「ルークくん、今えっちなこと考えたでしょ?」
「考えてません」
「本当は?」
「考えてません」
「下着姿の私のおっぱいまでは考えたでしょ?」
「考えてません」
「本当に?」
「本当です」
「……へぇ?まぁ、そんなこと聞いておいて、私は考えたっていうか……こうしてルークくんと肩が触れ合うほど近付いてる今も、考えてるけどね」
そう言うと、セシフェリアは僕に身を寄せてきた。
僕は、相変わらず意味のわからないことを言うセシフェリアに対して反応してしまったら負けだという精神でその馬車の時間を耐え抜くと、やがて馬車が街に到着した。
そのため、僕とセシフェリアは馬車から降りる。
「ルークくんが大好きな街到着〜!ルークくん、本当にこの街大好きだよね〜!ルークくんがこの国での生活を楽しんでくれてるなら、私は何よりだよ〜!」
僕が、エレノアード帝国での生活を楽しむ……?
……そんな日は来ないし、来ていいはずがない。
この街だって僕がエレノアード帝国を打倒するための情報集めのための街だという認識だし、昨日に関してはこの街にすら来ていない。
「……」
今までは情報やそもそもの力が無くて何もできなかったけど、今は違う。
このエレノアード帝国の弱点、勢力図、そしてお金や教会という大きな力を手に入れた。
今日はセシフェリアと一日過ごすと事前に言われていたから何も動けていないけど、これからは僕がセシフェリアを、そしてエレノアード帝国を────
「ルークくん?今何考えてたの?」
「っ……」
僕が心の中でそう意気込もうとしていると、セシフェリアがそう聞いてきた。
相変わらず鋭いなと思いながらも、これに関しては直感や雰囲気といったものから出た質問だと思われるため、僕は適当に答える。
「今日の夕食のことを考えてました」
「もう〜!ルークくんは気が早いね〜!今からお昼ご飯食べ────」
そう言いかけたセシフェリアは、何かに気が付いたように目を見開いた。
「……」
もしかして、僕が何を考えていたのかバレてしまったのか……?
いや、そんなはずはない……僕が頭の中で考えていたことを、僕の表情や雰囲気からだけで当てるなんてことはできないはずだ。
だが、セシフェリアなら……?
僕がそんなことを考えて頭を回していると、セシフェリアは頬を赤く染めて、僕にだけ聞こえる声で言った。
「もう、ルークくん……どんなこと考えてたのかと思えば、やっぱりえっちなこと考えてたんだ?私のことを夕食なんて……大胆なんだから……!」
そう言うと、セシフェリアは楽しそうな表情で僕にウインクをしてきた。
「でも、ルークくんがそう言ってくれるなら、今夜はたっぷり────」
「お腹が空いたので、早いところ昼食を食べに行きましょう」
セシフェリアの言葉を遮ってそう伝えると、僕は馬車に背を向けて歩き出す。
「あ!ま、待って!今日行くところは決めてるから!!」
大きな声でそう言うと、セシフェリアは僕の後を追って僕の隣を歩き始めた。
……一日という長い時間を過ごすということで、今日はかなり警戒していたけど、今に至るまでの言動から考えても、今日のセシフェリアはそこまで警戒しなくても良いのかもしれない。
僕がもはや呆れ混じりにそんなことを考えながらも、セシフェリアと一緒に歩を進めていると────
「今日は、ここでお昼するよ〜!」
そう言ってセシフェリアが足を止めた場所の目の前にあったのは、以前セシフェリアに紹介してもらった、そして以前僕が肥満体型の男から情報を得ようとした貴族御用達のレストランだった。
「前紹介してあげたけど、連れてきてあげれて無かったな〜って思って!ルークくんは来たこと無いと思うけど、貴族御用達っていうだけあってすごく美味しいから、ルークくんの感想聞きたいな〜」
「わかりました」
もし、この中に以前出会った肥満体型の男が居たら、僕が前にもこのレストランに来ているということがセシフェリアにバレてしまう可能性がある。
だけど、そんな可能性はほとんど無く、ここでこのレストランを断ることのほうが意味が生まれてしまうだろう。
そのため、僕はこのレストランに入ることを受け入れて、セシフェリアと一緒に店内に入った。
「あの二人席空いてるから、あそこで食べよっか」
「はい」
その席を見るついでに、僕は店内を見渡す。
……どうやら、以前ここで話して教会に連れて行かれていたあの肥満体型の男は、今は居ないようだ。
逆に居た方が確率としては驚くべきことだが、そのことに安堵すると、僕とセシフェリアは一緒に席に着く。
「ルークくん、どれがいい?」
「僕は……これにします」
「じゃあ、私もそれにするね〜!」
メニュー表を見て二人で同じ料理を注文し終えると、そのタイミングで周りから僕たちに向けて視線と話題が注がれているのが聞こえてきた。
「おい、あれ……」
「公爵家のセシフェリア様だ……!」
「なんと麗しい……しかし、あの殿方は?」
「そういえば、公爵様は一千万ゴールドで男の奴隷をご購入されたと聞いたような……」
「まぁ、じゃあもしかしてあの方が……?」
「とても奴隷とは思えない、容姿と品性の整った殿方ですね……」
そんな声が錯綜していると────セシフェリアは、とても目を冷たくしていた。
噂話をされて居ることが気に入らないというのは理解できるけど、別に悪口を言われているわけではないのにどうしてそんな目をしているんだろうか。
僕がそんなことを思っている間に、二人分の料理が届くと────セシフェリアは、目の前にあるソテーを僕の口元に差し出してきて言った。
「ルークくん、あ〜ん」
「……え?」
「あ〜ん」
突然そう言われて困惑した僕だったけど、すぐに落ち着いて言う。
「前も言いましたけど、そんなこと、それもこんな人前でなんてできま────」
「私のルークくんを視界に映してる女たちに、ルークくんが私のだって証明するためだよ……だから、早く口開けて」
セシフェリアは、感情などなくただただ落ち着いた声色でそう言い放った。
「……」
何かしら感情があるのならともかく、逆に感情無く行われるのであれば、ここは反抗などせず素直に受け入れた方が良いと考えた僕は、口を開いてそれを受け入れた。
そして、それを何度か繰り返していると、周りは少し驚きの声を上げてから、すぐに僕たちの方を向くのをやめて各々話を再開した。
すると、セシフェリアは明るい声色で言う。
「これで、ルークくんが私のだってことが証明できたね!じゃあ、改めて一緒にお料理食べよっか、ルークくん!」
「……はい」
僕は、本当に掴みどころなんていうものが全くないセシフェリアに対して少し動揺のようなものを抱きながらもそう返事をすると、その後はいつも通りなセシフェリアと一緒に、何事もなく料理を食べ終え、僕たちはレストランを出る。
「美味しかったね〜!」
「はい、美味しかったです」
前はちゃんと食べることができなかったけど、改めてしっかりと料理に集中して食べると、貴族御用達というだけあって確かに良い料理だった。
「でも、他の女がルークくんに見惚れてたりしたのは不愉快だったな〜」
「見惚れてる……なんてことは、無かったと思いますよ」
「絶対見惚れてたよ!……はぁ、この調子だと他のお店に行っても似たような感じになっちゃいそうだし、何か特別な予定があるわけでもないから、今日の残りはルークくんと屋敷で二人きりの時間を楽しむって感じになるかな〜」
その後、僕たちは、セシフェリアの提案によって馬車に乗ると、本当に今からセシフェリア公爵家の屋敷に帰ることになった。
……意外と呆気なかったが、屋敷にさえ帰ってしまえば予想外のトラブルが起きるようなことは無いだろうから、今日の残りは安心して────
「そうだ、ルークくん……馬車に乗って思い出したんだけど、一つ聞きたいことがあったから、聞いてもいいかな?」
「……はい、なんですか?」
突然の問いに少し困惑しながらも、今動揺する理由は無いためあくまでも冷静にそう聞き返すと、セシフェリアが暗い声色で聞いてきた。
「ルークくん────昨日、どこ行ってたの?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます