背中

 昨日、僕がどこに行ってたか……?

 どうしてわざわざそんなことを聞いてくるんだ……?

 質問意図がわからなかったけど、とにかくここは昨日もセシフェリアに伝えた通りに伝えるのが無難だろう。


「セシフェリアさんにお伝えした通り、街に行ってました」

「うん、それはそうだと思うけど……は?」

「その後、ですか?街に着いた直後は、人気の無いところで風に当たっていました」


 前から考えていた、もし街で何をしていたのかと聞かれた時ように用意していた答えを、僕はここで出す────が。


「ルークくん……また、私に嘘吐いちゃうんだね」

「っ!?う、嘘なんて吐いてません!!」


 人気の無いところ、と言っているから目撃情報から裏を取ることはできない。

 だから、僕がこう訴え続ける限り、セシフェリアはどうしたって確実に僕の言葉が嘘だと断定することはできないはずだ。

 だから、ここまで僕の言葉を嘘だと断定するのは、きっと僕がそう断定されることによってボロを出すのを待っているんだ……だけど、その手には乗らない。

 僕は変なボロは出さず、ただただ嘘で無いと訴え続けるだけだ。

 僕が心の中でそう思っていると、セシフェリアは言った。


「この間、ルークくんのこと信じてあげたばっかりなのに、こんなにすぐに裏切られちゃうなんて……悲しいけど、これは帰ったらお仕置きしてあげないといけないね」

「待ってください!僕は、嘘なんて────」

「ルークくんには悪いけど、私はもう確信してるよ」

「っ……?」


 セシフェリアのこの真剣な表情に、真剣な声色……とても嘘を言っているようには思えない。

 じゃあ、本当に僕の言葉が嘘だと確信しているのか……?

 それとも、それすらも僕を動揺させるための嘘……?

 頭の中が混乱で埋め尽くされていると、セシフェリアが言った。


「最近、ルークくんが毎日のように街に行きたいって言ってることに、ちょっと違和感があったんだよね……もちろん、本当にただルークくんが街を好きになってくれたんだったらそれは良いことだけど、もしそうじゃ無いなら……そう思って、私は昨日────ルークくんを街まで運ぶ馬車の御者に、予め、街に着いた直後だけで良いからルークくんの動向を見張ってって頼んだの」

「っ……!?」


 馬車の御者が、僕の動向を見張ってた……!?


「長時間見張ったりしたらルークくんにバレちゃうと思ったから、直後だけっていう条件付けをしたんだけど……その結果を昨日ルークくんが馬車に乗って帰ってきた後で馬車の御者に聞いたら、ルークくんは街に着いて直後、街の外の方に走って行ったっていう話だったんだよね……それも、迷い無く走ってて、すぐに背中が見えなくなるぐらいの速度で」


 昨日は走る速度に制限を設けて居なかったから、もし僕の動向を見張っていたんだとしたら、それはもう本当に見張りやすかっただろう。

 そして、ここまで詳細な話をされれば、僕の嘘がセシフェリアに見透かされていたというのも本当だということになる。


「それでも、私はルークくんのことを信じたかったの……だって、ルークくんは私が一番だってあんなにたくさん伝えてくれたから……ルークくんが私に嘘を吐くはずない、もし昨日街の外に行ってたとしても、それはたまたま咄嗟に街の外に行きたくなっただけなんだって思いたかった……だから私は今日、ルークくんと一緒に街に行って、一つルークくんに確認してみたの」

「……確認、ですか?」

「そう……私は『ルークくん、本当にこの街大好きだよね〜!』って言って、ルークくんの反応を見たの……今日わざわざ街に出たのは、その確認をするためっていうのが大きいかな」


 あの時の、僕の反応……あの時僕は、それを聞いて、僕がエレノアード帝国での生活を楽しむ日なんて来るはずがないと心の中で思った。

 それを表情に出したつもりは無かったけど、セシフェリアが今日の目的のほとんどをあそこだけに絞って注意深く僕の表情や雰囲気を見ていたのだとしたら……


「じゃあ、ルークくんは……あんまり顔には出してなかったけど、少なくともこの街が大好きって感じでは無かったんだよね」

「……」

「これじゃあ、昨日はたまたま気分的に街の外に出たくなった、じゃなくて、今までも私に街に行くって言って、本当は街の外に行ってたのかなって思っちゃうよね……それも、迷いの無い速い速度で……本当だったら、ルークくんは足も速くてすごいねって褒めてあげたいところだけど────ルークくんが私に嘘を吐いてたってわかった以上、そうも言ってられないよね」


 セシフェリアがそう言い終えると同時、馬車はセシフェリア公爵家の屋敷に到着したのか停車した。

 すると、セシフェリアは冷たい目と暗い声色で言う。


「降りよっか、ルークくん……続きは、ベッドの上で話そうね」

「……」


 僕は、そう言うセシフェリアの後ろに静かについていく。

 この状況でセシフェリアへの反論などできるはずもないから、今はこうするしかない……が、まだ一つだけ、僕がセシフェリアに言えることがあるため、それだけは後でしっかりと伝えることにしよう。

 そう思いながら言うことを頭の中でまとめていると、いつも僕とセシフェリアの眠っている寝室に到着したため、二人でその中に入った。

 そして、僕はセシフェリアに促される形で、セシフェリアと一緒にセシフェリアのベッドの上に座る。


「じゃあ、ルークく────」

「すみません、セシフェリアさん、一つだけ良いですか?」

「……うん、何?」


 セシフェリアは、暗い声色でありながらも聞く耳を持ってくれているらしいため、僕は続けて言う。


「セシフェリアさんに黙って街の外に出ていたことは謝ります……でも、昨日は街の外に出て────」


 少し走りたかっただけ、という、苦し紛れかもしれないが訴えることで有効になる可能性のある言葉を伝えようとしたところで、セシフェリアがそれを遮るようにして言った。


「待って、もしそれが街の外に出て何をしてたのかっていう話だったら、ルークくんには悪いけど聞かないよ」

「え……?どうしてですか?」

「仮にルークくんが本当のことを言っても嘘のことを言っても、それは私にはわからないことだからね……今重要なのは、ルークくんが私に黙って街の外に出てたっていうことなの」


 続けて、セシフェリアは言う。


「それに、もし街の外に出てた理由がそれなら仕方ないって思える理由だったとしても、それなら帰ってきた後に、街に行く予定がこういう理由で街の外に出たって私に一言言ってくれれば良かったのに、ルークくんはそうしなかった……それは、例え街の外に出たのがどんな理由だったとしても、やっぱりダメなことだよ」


 っ……今日のセシフェリアはそこまで警戒しなくても良いのかもしれない、なんて考えていたのは間違いだった。

 クレア・セシフェリアという人間は、やはりとても計算高く、一つ一つの行動全てに意味があるんだ……!


「もしルークくんが女と会ってたとかだったら、は決まってたんだけど……今回そこの真偽はわからなくて、あくまでも私に黙って街の外に出てたってことに対するお仕置きだから────うん、決めたよ!」


 冷たい目と暗い声色をやめて明るくそう言うと、セシフェリアは貴族服の上着とその下に着ているブラウスを脱ぎ────上の白の下着を露わにした。

 僕は咄嗟に目を逸らそうとしたけど、そんな僕に対してセシフェリアが言う。


「あ、ちゃんと見ないとダメだよ?ほら、前と違って今度は白……ルークくんは、白の下着と黒の下着、どっちが好きかな?」


 白の下着から、その豊満で形の整った大きな胸を覗かせながら、セシフェリアは頬を赤く染めて楽しそうにそう聞いてきた。


「……わかりません」


 当然、そんなことに答えたくは無いため僕がわからないと答えると、セシフェリアが言った。


「そっか〜!じゃあルークくん、ちょっと私に背中向けてくれるかな?」

「え?は、はい」


 何故背中を向けなければならないのかわからなかったが、セシフェリアの下着姿を見なくても良いのであればそれに越したことは無いため、僕はすぐにセシフェリアに背中を向けた。


「ルークくんは下着姿よりもおっぱいの方が好きなのかもしれないから、いっぱい堪能させてあげるね!」


 そう言った直後────セシフェリアは後ろから僕のことを抱きしめてくると、僕は背中に今まで感じたことが無いほどに大きく、柔らかい二つの感触を感じた。

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