下着
「セシフェリアさん、さっきは聞きそびれたんですけど、今日は一体何を買いにこの街まで来たんですか?僕のことも連れてきたということは、僕にも関係があるものなんですよね?」
あの赤髪の女性が乱暴されているところを目撃したことによって結局聞けずじまいだったことを、僕は再度街を歩きながら聞く。
「まぁ、今日ルークくんのことを連れてきたのは、セシフェリア公爵家の近くで一番栄えてるこの街を紹介したかったっていうのもあるんだけど……もちろん、買い物の方もルークくんに関係あるよ?ううん、関係あるどころか、今日の買い物次第では私たちの今後も大きく変わってくるかも知れないね」
僕とセシフェリアの今後……?
奴隷契約を結んでいる以上、街に来て買えるようなもので僕たちの関係性が変わるとはとても思えない。
だけど、セシフェリアがこんなことで嘘を吐く理由は無いだろうし、嘘を吐いているようにも見えない。
「……具体的にどんなものを買いに来たのか聞いてもいいですか?」
「それは見てからのお楽しみ!今はまだ言わないけど、到着したらちゃんとじっくり見せてあげるからね!」
見せる……?
……本当に皆目見当も付かないけど、セシフェリアがここまで言うなら大事な買い物であることだけは間違いないんだろう。
僕は今後この国で情報を集めていくためにも今日は重要な日だと判断して、より気を引き締めることにした。
そして、歩くこと十分弱。
「ここだよ〜!」
「な……っ!」
セシフェリアに連れられて入った店内には、様々な色が見受けられた。
赤、青、水色、黄色、白、黒……もしそれが宝石による色だったのなら、どれだけ現状よりも良かっただろう。
だが、現実は────
「今日はここで、ルークくんと一緒に私の新しい下着を買うの!」
最悪だ。
大事なことと言うからこの十分弱の間、色々と頭を捻って考えながら歩いてきたのに、それがこんなことだったなんて……
この国に来て約一週間、色々と気分が悪くなることは何度かあったが、僕は今それらとは違う虚無感のようなものに襲われている。
だけど、一応セシフェリアに確認を取っておくことにした。
「あの……これのどこが僕とセシフェリアさんの今後に大きく関わってくることになるんですか?」
「それは関わってくるよ〜!だって、もし私がルークくんの好みじゃない下着履いてたら、ルークくんとそういうことになった時困るかも知れないでしょ?」
そういうことにはならないから困らない。
「だから、今日ルークくんに好みの下着を選んでもらって、その時に備えるの!できたら自分でルークくんの好みを想像して選びたかったんだけど、それで好みを外しちゃったら元も子も無いからね」
「ということは、今日僕のことを買い物に連れてきたのは、好みの女性用下着を選ばせるため……ということですか?」
「そう!」
明るくそう告げるセシフェリアの言葉に、僕は軽く目眩のようなものを覚える。
だが、そんな僕のことは全く気にしていないのか、セシフェリアは僕の手首を掴むと僕のことをたくさんの下着が置いてある場所の目の前まで連れてくる。
「ルークくんは、あんまり派手じゃ無い普通の下着の方が好き?それとも、ランジェリーの方が好きかな?」
僕には普通の女性用下着も、ランジェリーというものもわからない。
というか、この店内に男性が僕しか居ないからとても居心地が悪い……だけど、ここで逃げたりしたりしたらセシフェリアに後で何をされるかわからないし、ひとまず会話が成立する程度には話しておこう。
「僕は別に、なんでも良いと思います」
会話が成立する程度に、とは言っても、当然僕の下着の好みをセシフェリアに教える気なんて毛頭無い。
「え!?それって、私なら何でも似合うって言ってくれてるの!?」
違う……が、そういうことにしておけば僕が選ぶ必要も無くなるから、そういうことにしておこう。
「はい」
「え〜!嬉しい!」
これで、あとはセシフェリアが勝手に下着を────
「ルークくんがそう言ってくれるなら、私今から色んな下着着て、その下着姿ルークくんに見せてあげるね!」
「え!?」
待て……敵国の女性の下着姿を連続的に幾度となく見せられるなんて、それはそれで危ういというか、その方が良くない……となれば、仕方ない。
「待ってください……確かに何でも似合うと思いますけど、その中でも特にセシフェリアさんに似合いそうな下着を選ばせてください」
「え〜!選んでくれるの!?嬉しい〜!!できれば二、三着ぐらい欲しいけど、大丈夫かな?」
「……わかりました」
セシフェリアの下着姿を連続で見せられることに比べれば、下着を二、三着……できれば少ない方が良いから、二着選ぶだけの方がまだマシだ。
そう思った僕は、上と下がセットになっている女性用下着に目を通す。
「……」
見慣れないものを見ているから少し違和感があるけど、これも任務の一環だ。
……普段の気分の高まっている時はともかくとして、セシフェリアは話していない時や落ち着いている時はかなり大人びた雰囲気をしているため、あまり派手な色は似合わないだろう。
となると、色は白と黒だ……そして、白と黒の下着の中でも似合いそうなものを選ぶなら────
「この二着でお願いします」
選んだ二着の下着を渡すと、セシフェリアは明るい表情で言った。
「白と黒のレースだ〜!へぇ〜?ルークくん、こういう大人びた感じのが好きなんだ〜?」
「……セシフェリアさんに似合うのがそれだと思っただけです」
「そっか〜!私のために選んでくれて、ありがとね!」
……屈辱的な時間だったけど、これでどうにかこの下着店からも離れられそうだ。
となると、次はお金の問題だ……この街には僕にとって有益そうな場所がいくつかあったけど、それらを利用するためにはお金が────
「じゃあ、今から早速この下着姿私用のサイズに替えてから試着するから、ルークくんも見てね!」
「え!?」
もう下着店から意識を次に飛ばしていた僕に対しそんな言葉が投げかけられ、僕は思わず声を上げる。
ぼ、僕も、見る……?
「下着を選んだら、あとは買うだけっていう話じゃなかったんですか?」
「何言ってるの、選んだらちゃんと試着しないと!この下着を着た私の姿に、ルークくんがちゃんと良いって思ってくれるかも確かめないといけないんだから!」
「……」
今すぐにでもこの場を逃げ去りたかったけど、サンドロテイム王国を救うという使命感だけが僕のことをここに立ち止まらせる。
そして、セシフェリアに手首を掴まれると、試着室の前まで連れてこられた。
「それじゃあ、私は試着室でこの下着に着替えるから、ルークくんはそこでいい子にして待っててね!」
「……はい」
かろうじて声を発することができてそう返事をすると、セシフェリアは笑顔で試着室のカーテンを閉めた。
その中から、衣擦れの音が聞こえてくる。
「どうして僕が、こんなことを……」
本当ならすぐにでも情報を集めて帰国したいけど、セシフェリアはふざけているように見えてしっかりと頭も回るからそれが難しい。
僕が本当にどうしたものかと頭を悩ませていると────
「一着目着替えたよ〜!」
という声が聞こえて来ると同時に、目の前の試着室のカーテンが開かれた。
すると────そこには、綺麗な白髪で色白な肌に、貴族服の上からでは見えなかったとても大きな胸に綺麗にできたくびれ、長く細い脚で白の下着を着たセシフェリアの姿があった。
「どうかな?ルークくん」
初めて見る女性の、セシフェリアの下着姿……肉体美や曲線美といった言葉すら足りないと感じるほどの美しさだ。
というか、これは────僕がその姿に思わず目を奪われていると、セシフェリアは僕のことを試着室の中に連れ込み、カーテンを閉めて甘い声で言った。
「ほら、ルークくん、もっと近くで私の体見て良いんだよ?」
「っ……!い、いえ、僕は……」
「顔、赤くなってるよ?本当に可愛いね……前も言ったと思うけど、私結構おっぱい大きいでしょ?ルークくんの好きに触ったり、揉んだりしても良いんだよ?」
「揉っ……!」
こんな整った体で、僕がセシフェリアに似合うと思った下着姿を着てそんなことを言われたら────もう、限界だ!
「僕、外で待ってるので、セシフェリアさんの好きな時に出て来てください!!」
それだけ伝えると、僕は試着室から出てそのまま下着店のドアに向けて走り出す。
「え!?私、まだ黒の下着姿見てもらってな……ううん、それはまた今度、別の場所で見て貰えば良いかな────」
その後、僕の選んだ二着の下着を購入したらしいセシフェリアが下着店から出て来ると、僕たちは馬車に乗ってセシフェリア公爵家の屋敷へ帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます