奴隷オークション
「よし、お前たち奴隷はそこで列を作って待っとけ、奴隷への呼び出しがあったら先頭から順に表に出ろ」
奴隷オークション会場舞台裏へ連れて来られた僕たち奴隷に向けてそう言うと、ここを任されているらしい男性は表舞台へと歩いて行った。
「「「おおおおおおおおお!!」」」
すると、それが奴隷オークションとやらの開始の合図なのか、会場の方からとても大きな歓声が聞こえてきた。
奴隷オークションに来て奴隷を買う余裕があるということは、おそらくこのオークション会場に居るのはほとんどがエレノアード帝国の貴族なんだろうけど……なんて程の低い。
それとも、ここに居る貴族が特別程度が低いだけなのか……どちらにしても、サンドロテイム王国だったらこんなことで盛り上がったりする貴族なんて居ない。
「……」
僕は任務で来ているから精神に対する負荷はあまり無いけど、ここに居る他の奴隷の人たちはそうじゃないんだ。
この中に我が国の……そうじゃなくても、何の害も無い民の人が居ると思うだけで胸が痛い。
本当だったら僕が王族としてこの国に潜入して、いつか必ず皆さんのことを助け出しますと言いたいけど、そんなことをしたら僕の正体がバレてしまうためそんなことはできない。
僕が改めて、このエレノアード帝国に対する敵対心を強めていると────
「一人目の奴隷はこいつです!」
どうやら、先ほどの男性が司会もしているらしくそんな声を上げると、列の先頭に立っていた奴隷の人が表舞台へと出て行った。
すると、オークション会場が歓声で埋まり────
「早速一人目の落札開始!!」
「五千!」
「二万!」
「五万!」
「十万!」
男性の声を合図に、観客たちが落札のために次々と高い額を言っていく。
僕は相変わらずな悪趣味さに対する怒りを、絶対にこのエレノアード帝国を打倒するという強い気持ちに変換する。
「────この奴隷オークションも盛り上がって参りました!続いて、二十人目はこいつだ!!」
やがて、僕が先頭になっていたため、僕は言われた通り表舞台へ出る。
すると、観客たちはより一層大きな歓声を上げた。
「さあさあ!こいつは今回のオークションの中でも大目玉ですよ!金髪赤目の美男子!落札開始!!」
「五万!」
「十万!」
「二十万!」
「五十万!」
「百万!」
「おおっと!本日初の百万を超えました!!」
競争入札という概念をわかりやすく表したように、それからもさらに高い額が出されていく。
僕はこんな場所で楽しそうに声を上げている観客席のエレノアード帝国の人間の方を見る……予想通り、ほとんど全員が貴族服を着ている。
そんな観客席に居る貴族たちを、僕が冷めた視線で見渡していると────一人の見覚えのある人物と目が合った。
────先ほど出会った白髪の女性だ。
少し口角を上げて綺麗な姿勢で座っている……やはり、静かにしていれば公爵の人間だと言われても納得できるな。
「三百万!」
「三百七十万!」
「四百万!」
そんな声が響く中で、白髪の女性は僕に微笑みかけると────手を上げて、この歓声の中でも一際澄み渡る綺麗な声で言った。
「一千万」
その声を聞いた奴隷オークション会場に居る貴族たちは、先ほどまで歓声を上げていた声を鎮まらせると静かになった。
そして、観客席から小さな声が聞こえてくる。
「ひ、一人の奴隷に一千万……?」
「冗談だろ……?」
「あれは……公爵様だ!」
「な、なら、冗談じゃないってことか?」
観客席から小さな声がたくさん聞こえてきたが、司会の男性が大きな声で確認の声を上げる。
「ま……まだ最高値は四百万ですが、一千万でよろしいんで?」
奴隷オークションの常識なんて知らないけど、どうやらかなり異常なことらしく、司会の男性が動揺した様子でそう聞くと白髪の女性は言った。
「うん、いいよ、もしここに一千万出せる人が居るんだったら、私は二千万でも三千万でも出してあげる」
そんな声が放たれた瞬間、会場は完全な静寂に包まれる。
「だ、誰か、一千万を超える額を出すという人は居ますか!?」
司会の人が盛り上げるべくそう大きく声を上げるも、もはや誰も声を上げなかった……貴族なら一千万出せる人間が居てもおかしくはないが、二千万でも三千万でも出せると言われているとなるともはや無駄だと諦めているのだろう。
誰も声を上げないでいると、司会の男性が言った。
「一千万で落札!一千万で落札です!!これは過去この奴隷オークション会場でも最高記録です!!皆さん、盛大な拍手をお願いします!!」
その言葉通り、会場内は盛大な拍手で包まれた。
あの白髪の女性……本当に僕のことを買ったのか。
でも、それならそれで好都合だ……あの白髪の女性の有する情報を何としてでも奪って、このエレノアード帝国の弱点を突く。
その後、僕は誘導された通りに舞台裏から続く廊下を歩かされると、そこには、最初奴隷の名前を書いた札を奴隷の首からぶら下げていた男性が机の前にある椅子に座っており、そして────
「さっきぶりだね〜!ねぇ、私たちがこの奴隷オークションで新記録更新したんだって!二人で新しい記録作っちゃった〜!」
口を開いたらとても公爵の人間とは思えないけど、その雰囲気や一千万を気軽に出せる財力からも間違いなく公爵の人間である白髪の女性が居た。
僕がこの場には似つかわしくない女性の様相に何とも言えない感情になっていると、椅子に座っている男性が机にある紙に手を向けながら言った。
「えぇ、こちらの奴隷契約書に公爵様の名前をサインしてもらえば正式に奴隷契約完了になるから、サインの方お願いしますぜ」
「はいはーい!」
そう言うと、白髪の女性はその契約書にサインする。
「確かに……これでその奴隷は公爵様のものです」
「やった〜!」
大きな声を上げると、僕に近づいて来て聞いてくる。
「君、名前はなんて言うの?」
「……ルークです」
僕がそう答えると、椅子に座っている男性は立ち上がって、そのまま僕に近づいてくると僕の方に腕を伸ばして大きな声で言った。
「おいっ!相手は公爵様だぞ!聞かれたことにはもっとハキハキと────」
その瞬間、白髪の女性が瞬時に僕とその男性の間に割って入ったかと思えば、その男性の首元を強く壁に押し付けた。
そして、素早く鞘から剣を抜くと、その男性の首元に突きつけて、虚な目と冷たい声色で言う。
「この子はもう私のでしょ?だから、もしまたその汚い手で私の許可なくこの子に触ろうとしたら……わかるよね」
「ひっ……!お、お許しくだせぇ、公爵様……!!」
男性が恐怖した表情と声色でそう言うと、白髪の女性はその男性の首元から手を離した。
その後、その男性が地に膝を付いて呼吸を整えているのを見ると、興味を失ったように僕の方を向いて目に光と声に張りを戻して言った。
「じゃあ、ルークくん!今日からよろしくね!」
なるほど……ただの明るい女性かと思ったが、そういうわけじゃない。
むしろその明るさは、絶対的な自らの能力や権力があるからこそ現れているもの……この女性は紛れもなく────公爵だ。
「はい、よろしくお願いします」
この女性相手なら簡単に情報を得られるかもしれないなんて期待も少ししていたけど……これは、もしかしたら相当に骨が折れる相手かもしれないな。
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