第30話 結ばれる二人



「シズ、落ち着いたか?」


 アザミは、部屋の端っこで体育座りをしているシズの顔を覗き込んだ。


 シズは死にそうな顔色をしていた。根が真面目なシズは、未だに昨日の自分の行為を受け入れられないでいた。


「婚約中だったんだし、別にいいだろう。ほら、やったものは仕方ないだ」


 アザミは意外なほど素直に、昨夜ことを受け入れていた。初めてが終われば結婚するという異世界の風習までも納得している。一方で、受け入れられないのはシズの方だ。


「……あなたには、色々なものを見てほしかった」


 シズにとって、アザミとの婚約は彼を庇護するものだった。自分の元で、好きなことを学び、沢山の経験をして、ゆっくりと大人になって欲しかったというのに。


「あのな……。シズは、俺のことを子供だと思いすぎだ」


 アザミは、たしかにシズより年下だ。経験不足で、知識不足。大人になるには、色々なものがたりない。


「でも、最初にシズを選んだのは俺だ」


 綺麗な人だと思った。


 欲しい、と思った。


「俺の人生に、お前が欲しいと思ったんだ」


 シズは、顔を上げた。


 そこには、笑っているアザミがいた。


 日光に照らされるアザミは生き生きとしていて、とても眩しかった。


「シズ。恥ずかしいから、一回しか言わないぞ」


 アザミは深呼吸をした。


「俺は、結婚したい。シズは、どうなんだよ?」


 シズはのろのろと動き出し、アザミの頬に触れる。まだ子供のまろい輪郭を残したアザミの頬は、触れると柔らかくて触り心地がいい。


「私は、あなたを独り占めしたくない……。そんな資格はないんです」


 気弱なシズに、アザミは首を横にふる。


「資格はあるよ。俺は、お前を選んだ。その瞬間から、お前は俺を独り占めする権利を得たんだ」


 アザミは、シズに顔を近づける。


 キスされる、とシズは思った。


 あやゆることが頭を過ったが、一瞬にして消え去った。目の前にあるアザミのことで、頭がいっぱいになったのだ。


 この瞬間のことしか考えられなくなったシズは、大人しく口付けを受ける。


 怖かったのだ。


 劣った自分がアザミという原石を独り占めして、彼の光が鈍くなるのが怖かった。自分がアザミの足かせになることが怖かった。


 その全てが幼少期からの虐めに端を発していると分かっていたが、なにも出来なかった。


 それを払拭してくれたのは、アザミだった。


「俺と結婚しろ」


 シズは笑ってしまった。


 恥ずかしいから一回だけと言いつつ、シズは二回も「結婚しろ」と言っている。


「はい……」


 シズは微笑んで、アザミを抱きしめた。


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