第24話 家族との別れ
アザミは、家族に呼び出された。
異世界に行くアザミは、家族から離れて暮らすことになる。他の魔法使いの末裔の前では毅然としていたが、学生であるアザミは寂しさを感じていた。
普段ならば食事を囲むためのテーブルに、独立した兄夫婦を含んだ家族全員が並ぶ。兄夫婦は普段は別の場所に住んでいるので、家族が全てそろったのは久しぶりのことであった。
「アザミ。最初に言うが、お前を異世界にやるという選択をしたことを謝る」
父が頭を下げたので、アザミは戸惑った。
「待ってくれよ。異世界に行くのは、俺の選択でもあるんだ。だって、義姉さんと兄さんを送る訳にはいかなかったんだし」
アザミは、兄嫁の腹を見た。
少し膨らみ始めた腹部には、新しい命が宿っている。いくら異世界の移動が安全だと言われても、どんなことがお産の触りになるかは分からない。
だからこそ、アザミは自分から異世界に行くと決めたのだ。
「それに、異世界にはシズも行ってくれるって。俺、あの人のこと好きだし。あの人だって、同情でも俺と婚約してくれたし」
自分の部屋にシズを連れ込んで何をしていたのかは、アザミは家族に話していない。けれども、シズが同情から自分と婚約してくれたことは話していた。
シズの庇護を得ることで、自分は異世界でも大丈夫だと家族に示したかったのだ。
「シズ君には、大真面目に頭を下げられた。少し気が弱そうな人だったが、礼儀正しく青年だった。なにより、彼は約束を反故にするような人間ではないだろう」
父がシズのことを評価してくれたので、アザミは少し嬉しくなった。
「シズは凄い奴なんだ。魔法も上手いし、なにより皆に優しい。俺は、あの人を選んだんだ。シズの隣に一生いるから。そこで、笑っているから——」
心配しないで欲しい、とアザミは父に伝えた。
「それに、こっちも大変になるんだろ。俺がいなくなっても頑張ってくれよ。義姉さんだって、出産が近づいているし」
アザミは、兄嫁の腹を見た。
妊婦には無理をさせられない。それが兄夫婦を差し置いて、アザミが異世界に渡る事になった理由である。
「アザミ」
父が、息子の名を呼んだ。
「今は、きっと私たち魔法使いの末裔にとっての転換の時代だ。だからこそ、お前は早く大人になって周囲を引っ張っていかなければと思っているかもしれない。けれども、シズさんはお前に大人になることを強要しない人だ。あの人に甘えなさい。そして、自分でいなさい」
父の言葉に、アザミは泣きそうになった。
けれども、ぐっとこらえて笑顔を作る。
「ありがとうな、父さん」
名家の当主であるが、父は自分たち息子に厳しく接したことはない。ただし、仕事に対しては違った。
常に緊張感を持って挑み、その後ろ姿を息子たちに見せていた。アザミは、父のようになりたいとずっと思っていた。
「アザミ……。お友達がきているわよ」
母が呼んだのは、イズミであった。
寂しそうな顔をしたイズミは、足跡もたてずにアザミに近付いて頭を叩いた。
「このおバカ!勝手に異世界なんて遠くに行くことを決めるなんて。なんで、私に相談しなかったの!」
イズミは、今度はアザミの頬を引っ張る。
後ろめたいアザミは、イズミの攻撃を反省しながら受けていた。イズミの手には、力が入っていない。
ことの重大性は、イズミも分かっている。だから、イズミは必要以上のことは言わなかった。最後の挨拶を出来たことを喜んでいた。
「ごめんなひゃい……」
頬を抓られたまま喋るので、おかしな発音になっていた。
「……幸せにならなかったら、次はボディプローを決めるからね」
イズミは、アザミから手を離す。
「今まで大変だった分だけ、あなたは幸せになりなさい。私は、いつでも応援しているんだから」
イズミは、軽い力でアザミの胸を叩く。
これからのアザミは、イズミの手の届かない所に行く。それは、もうくつがえられないことだ。
——それでも。
アザミは友人の姿を見て、一瞬だけではあるが異世界に行くことを後悔してしまった。
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