第22話 ツヅミの怒り



 モンスターがいなくなったせいもあって、ウォッチャーたちも身の振り方を考える必要が出てきた。


 ウォッチャーは国に雇われているのだが、全員が今までのようには国に召し抱えられるということはないであろう。すでに何人かは辞表をだして、自らの第二の人生をスタートさせていた。


 ある者は個人店を開いて商売を始めたり、ある者は実家を手伝うという選択をした。あるいは、銃の腕を活かせる軍人を目指す者も多かった。


 国のために魔法使いの末裔と共に戦ってきたのが、ウォッチャーである。愛国心が強い者は多かったのだ。


 ツヅミも行きつけの酒場で酒を飲みながら、自分の身の振りを考えていた。商売を始めようにもノウハウがない。だからと言って、命を賭けて戦う軍人はうんざりだ。


 なんにせよ、今よりも楽な仕事などないだろう。


 今まではシズの後について行って、危険なこともシズがやってくれた。さらに、給料以上の金だって揺すれば簡単に手に入った。


「あいつめ……異世界に逃げやがって」


 魔法使いの末裔ではないツヅミは、シズに付いて行くことは出来ない。


 そのことに対して、ツヅミは苛立っていた。


 だが、今までシズから巻き上げた金などを追及されないだけ良しとした。シズが異世界に行ってしまえば、今までのことは曖昧になるだろう。


 自分の罪は消え去る。


「そうだ。異世界に行くなら、あいつが持っている今の金はいらなくなるよな」


 ならば、もらってやった方が親切というものだろう。


 シズがどれぐらい貯めているかは知らないが、無駄遣いをするような性格でないことは知っている。少ない金額ながらもため込んでいるはずだ。


「しばらくは、その金で糊口をしのいで……。それからのことは、後から考えるか」


 ツヅミはこれからのことを決めて、家に一度は帰ることにした。歩きながら引っ越しも考えないといけないな、とツヅミは考える。


 ツヅミが住んでいるのは、広いアパートだ。シズに無心する分の金がなくなれば、自分一人の給料では家賃が払えなくなる。


 不便になるが、別の場所に引っ越さなければならない。


 そんなことを考えながらツヅミが歩いていれば、自分の部屋に何人もの人間が出入りして荷物を運び出している様子が見えた。


「おい、何をやっているんだよ!」


 ツヅミは、酔いなどえは一気に覚めた。


 運び出されたのは家具から始まり、酒の瓶まである。部屋にあったもの全てを持っていくつもりであるらしい。


「ツヅミ、お前の全財産を差し押さえさせてもらう」


 仁王立ちで書類を見せつけてきたのは、ユウダチであった。生意気なウォッチャーから、ツヅミは書類を奪い取る。


 書類には、上司のサインが書かれていた。


 これまでツヅミがウォッチャーの立場を利用して、シズに経済的な虐待をしていたという報告書だ。そして、その罰として財産の没収をするという罪状が書かれていた。


「財産の差し押さえってどういうことだ!」


 全財産の差し押さえは、悪質な犯罪者や詐欺師に対して適応される罰の一つだ。


 財産の差し押さえは、それぐらいに特殊で厳重な罰だった。ツツジの罪ならば、普通ならば財産の没収はあり得ない。


「魔法使いの末裔に対する扱いの酷さ。それに、今までシズに大金を無心していた罰だ」


 ユウダチは、そう言った。


 この罪状は、実の所は時流に流されて決められた処罰であった。


 今は、異世界の魔法使いがいる。


 彼らに対して、末裔と普通の人間を自分たちは公平に扱っていたと国はアピールをしたかったのである。


 つまり、ここでツヅミを軽い罪で許してしまえば、異世界の魔法使いの怒りを買うと政府は思ったのだ。


 異世界からやってきた魔法使いたちは、それぞれ差こそあれども末裔たちを溺愛している。彼らが一部の人間から差別されていたとなれば、魔法使いとの関係が悪化しかねないと国は恐れたのであった。


「今まで命がけで戦ってきた末裔に寄生してきた罰だ」


 ユウダチの言葉に、ツヅミはかっと頭に血が上った。ツヅミの脳裏によみがえったのは、幼い頃にシズを見たときの感情だった。


 同じ人間の形をしているのに、魔法という不思議な力を使う者たち。


 怖かった。


 いつか魔法が、自分たちに向けられかもしれないと思った。


 だから、始末しなければならないと思ったのだ。


 それが、皆のためになるのだと真剣に想っていた。


「気持ち悪いんだよ。あいつらが!!」


 それは、ツヅミが子供の頃から積み重ねていった価値観であった。


「モンスターと同じ世界から来て、変な力を使って……。あんたらだって、魔法使いの末裔たちを自分と同じだなんて思ったこともないだろうに」


 ツツジの言葉に、ユウダチは冷たい表情になっていた。


「末裔たちは、誰のためのモンスターを倒していたと思っているんだ。魔法を使えない普通の人間のためだろ!」


 少なくともアザミは、そのために強くなろうとしていた。その姿勢をユウダチは、アザミが年下であっても尊敬している。


 そして、アザミのような魔法使いの末裔が多いことも知っていた。彼らは、無力な人間のために強くなろうと努力している気高い人々だ。


 だからこそ、ツヅミを許せないのだ。


「差し押さえされた財産は、一部を除いてはシズに渡るようになっている。あいつは、すぐにでも異世界に渡る予定だけども……豪遊されないように祈っていろよ」


 ツヅミは、歯を食いしばった。


 今まではシズのものは、ツヅミのものであった。だというのに、最後の最後で全てのものがシズのものになる。ツヅミには、こんなことは許せない。


「あの野郎……覚えていろよ」


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