第20話 決定事項
アザミの部屋を出たシズを待っていたのは、アザミの父と母の姿であった。
家族が部屋の前にいたことに、シズとアザミは驚く。はっとしたシズは、急いで頭を下げた。
「先日の見合いの席では失礼いたしました。あの時は、断らせていただきましたが……ご子息と」
シズが喋るのを止めたのは、アザミの父である。
「私たちは、息子と君との事を喜んでいるよ。こちらもアザミを一人で異世界に送り出すことに不安に思っていた。君ほどの魔法使いが婚約者として側にいてくれるならば、これほど安心できることはない」
アザミの父は、ほっとしているような表情だった。シズとアザミの婚約を歓迎していることに嘘はないらしい。
「いいえ。私の方が、アザミさんに助けてもらうことが多いでしょう。私は、どうも……心理的には弱い方なので」
シズは、アザミをちらりと見た。
アザミは、ふんと鼻を鳴らす。その様子は自信たっぷりで、先程まで怯えていた様子はない。
「だから、俺がシズの側にいて幸せにしてやるんだ。俺は、シズが元気でいてくれたらそれでいい。それが、俺の幸せだからだ」
アザミの発言に、彼の母が笑い出す。
「この子ったら、自分の義姉と同じようなことを言って。この子の兄も自分に自信がなくて、お嫁さんが「この男を私が幸せにします」と乗り込んできたんですよ」
兄と兄嫁は、お見合い結婚であった。
結婚に積極的だったのは兄嫁の方で、渋るアザミの兄を意気込み一つで捕まえたのだという。今では二人は相思相愛の夫婦であり、アザミの兄は嫁の尻に幸せそうに敷かれているらしい。
「シズさん」
アザミの母は、シズの声をかける。シズは居住まいを正した。
「アザミのことをお願いしますね」
はい、シズは答えた。
「アザミさんと共に、あちらの世界で生きていきたいと思います。ですから、どうぞご安心ください」
アザミの父と母は、涙をぬぐう。
一方で、アザミは「大げさだって……」と言いながらも泣いていた。
これから、アザミたちは異世界に行くのだ。
父や母親とは、もう会えなくなる。
そして、シズと共に生きていくのだ。
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