第18話 不器用な口付け


「つっ……」


 技巧も何も無い勢いだけの口づけだ。シズは自分の歯で唇を切りそうになったし、アザミだって同じであろう。


 けれども、想いだけは伝わった。


 アザミは自分の意思でシズはを選び、求婚をしたのだ。一生を共にする夫婦になりたいのだと言った。


 シズは、その判断は軽率であると思った。結婚を決めるということは、アザミにはあまりに早すぎる。


 そして、こんなにも選択肢がない中での相手探しはいけない。近しい人が魅力的に見えるのは、視野の狭さ故だ。シズは、アザミにもっと広いものを見てほしかった。


「夫婦になりたいというのならば……。私は、これ以上のことをしなければなりません。あなたは、それを楽しめますか?」


 シズの言葉の意味が、アザミには理解できないようだった。


 やはり、子供だ。


 先のことを考えられてはいない。


「楽しむ。キス以上のことでって……」


 アザミの顔が、かっと赤くなった。


 シズの予想通り、アザミはソレを想像していなかった様子である。


 やはり、アザミは幼い。


 シズは、アザミの唇を奪う。


 アザミからの口付けとは全く違う。じっくりと口の中を舐るように舌で侵食して、まるで捕食しているかのような口付けだった。


 相手の呼吸すら奪うような口付けは、アザミには早すぎた。けれども、見放されることを恐れて背伸びまでしてシズについてくる。


 やがて、長すぎる口付けが終わる。


 シズは、ペロリと自分の唇を舐める。目の前には、息も絶え絶えなアザミがいた。


「生活の一つですから、楽しめるようにならなくては……」


 アザミは、その場に座り込む。


 シズは、アザミをおいて去ろうとした。これで結婚をしたいと軽々しくは言わないはずだと思ったのだ。


「ちょっと待て!」


 アザミは、シズの背中に向かって叫んだ。


 シズは、まだまだあきらめる気はないらしい。いや、それよりも強く感じるのは焦りだ。


 アザミは、シズが誰かに取られるかもしれないと焦っているのだ。


 誰が欲しがるというのだろうか。


 シズは、己を弱い人間のだと思っている。ツヅミの問題さえも一人で解決できない弱者である、と。


「こんなの序の口なんだろ!もっとすごいことをやろうぜ」


 アザミは、明らかに無理していた。


 顔色が悪いし、声も不自然に揺れている。


「もっとすごいこと、なんて言っている時点で子供ですよ」


 そのままシズは去ろうとした。


 けれども、アザミはシズの背中に抱きつく。


「お願いだ。いかないでくれ……。置いていかないでくれよ」


 アザミの言葉に、シズはため息をつく。


 アザミが見ているものは、やはり今だけだ。結婚というのは、未来の誓い。アザミには、それを教えなければならない。


「あなたの部屋は、どこですか?」


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