第15話 強大な魔法


 ユウダチは銃を構えて、目の前の青年を睨んでいた。ユウダチの前に現れたのは、天から降りてきた一団である。


 男ばかりの一団は、あろうことかモンスターから民衆を守るためのフェンスに手を出そうとしていた。


 ユウダチが守ろうとしているのは、魔法使いたちが作り出した特殊なひフェンスだ。触れると電流が流れるようになっており、モンスターを寄せ付けない作りになっていた。


「手を上げろ。そのフェンスは決して壊させない」


 ユウダチは、そのように言う。


 彼らは、間違いなく魔法使いだ。魔法使いではないユウダチでは満足に戦えない可能性があるが、逃げるわけにはいかない。


 この場にアザミやシズがいたら、彼らは絶対に逃げないからだ。己の命に変えてもフェンスを守るであろう。だからこそ、ユウダチも命をかけるのである。


 しかし、天から降りてきた一団はユウダチが銃を見せつけても恐れない。それどころか、首をかしげている。まるで、銃を始めて見たかのようだ。


「もしかして、それって武器か?」


 一番前に立っていた男は言う。


 ユウダチは、眉をひそめた。


「銃を知らない……。やっぱり、お前らは祖の魔法使いと同じように異世界から……」


 ユウダチが言い切る前に、男は両手を挙げた。


 無駄な戦いは望んでいないというメッセージに、ユウダチは虚を突かれた。


 ユウダチは別次元の魔法使いが、この世界を侵略しようとしていると考えていたのだ。ところが、男は自分の後ろにいる人間たちにも両手をあげるように伝えていた。


「あー、俺たちに戦う意思はない。俺たちはモンスターを狩りにきたんだよ」


 ぱちん、男は指を鳴らした。


 その途端に、空から雷鳴が落ちてきた。その雷は、フェンスの向こう側のに潜んでいたモンスターに直撃する。


 男の雷撃を見たユウダチは、目の丸くした。


 現代の魔法使いの末裔たちには、このような力はない。圧倒的な破壊力に、ユウダチは打ちひしがれる事しか出来なかった。


「俺たちは、あんたらの祖と同じ世代の目茶苦茶に強い魔法使いの兵隊だ。俺の名前は、一地。こっちの奴らは、俺の舎弟だ。まぁ、俺達は面倒くさい話し合いには参加せずにモンスターを狩れと言われているだけの兵隊だけどな」


 一地という男たちは、戦闘要員らしい。


 そう言われてみれば、一団は若い年齢の者たちでまとめられている。戦士として油が乗っている年頃だ。


「お前も魔法使いなんだろ?ならば、格の違いって奴が分かるはずだ」


 一地はそう言って、頑丈なフェンスに指をかける。余裕の態度であったが、それも当然だ。


 落雷を落とすほどの魔法使いなどは、ユウダチは聞いたことも見たこともない。これほどの力のある魔法使いならば、傲っても当然であろう。


「さぁ、この邪魔なものを壊してモンスター狩りといこうぜ」


 銃の弾丸が、一地の頬をかすめる。


 ユウダチが、撃ったのである。無論、わざと外した。一地たちに対する警告のためだ。


「もう一度だけ言う。フェンスは壊させない」


 頬から流れる血をぬぐった一地は、にやりと笑った。どこ含みのある笑顔である。


「なるほど、それがここの武器か。この世界は元々は魔法使いがいないから、そういう武器が発達したんだな」


 銃の危険性を知ったにも関わらず、一地はフェンスの側を動かない。魔法使いの一地たちは、銃を危険視していなかった。


 ツヅミではないが、ユウダチは唾を吐きたい気分になった。一地には。確信があるのだ。ユウダチの銃より、自分の魔法の方が早いのだと。


 それでも、ユウダチは逃げ出したりはしない。


 ユウダチにとってウォッチャーとは、魔法使いの末裔の相棒だ。普段の仕事では魔法使いが命をかけているのだから、ウォッチャーの自分だって負けてはいられない。


「一つ訂正してもらう。俺は、魔法は使えない」


 魔法使いの血統ではあるが、ユウダチには使える魔法はない。父と母は使えるが、忌み子たるユウダチには、魔力が遺伝しなかったのだ。


 ユウダチの話を聞いた一地は、肩を落とした。


 さっきまで楽しそうだというのに、今はつまらないとばかりの口を尖らせている。


「そこまで魔法使いの血は薄まったのかよ」


 はぁ、と一地はため息を履く。


「百年なんてあっという間のことだ思ったのに、そうではないんだな。魔法が使えないほどに血が薄まるだなんてありえないだろう」


 ユウダチを見て、一地は再び溜め息をついた。ユウダチの告白に、よっぽど落胆したのであろう。


「まぁ、それでも魔法使いの血統に連なる者だ。俺達の世界には、お前たちのような存在を保護する用意がある」


 一地の言葉の意味が、ユウダチは理解出来なかった。保護だなんて、随分と上からの物言いである。


「モンスターがいなくなったら、この世界には魔法使いの末裔は不要になる。むしろ、個人で攻撃の手段を持っていることから、迫害されるかもしれない」


 人間は、自分とは違うものを忌避する。


 モンスターという脅威がある現状であっても魔法使いを嫌う人間がいるのだ。


 モンスターがいなくなって役割がなくなった魔法使いが、どのような扱いを受けるかはユウダチだって想像が出来る。


「俺たちはモンスターがいなくなった後のことを考えて、この世界の魔法使いの末裔を迎えることにしたんだ」


 任せてくれ、と一地は笑った。


「この世界のモンスターなんて、すぐに倒してやるからさ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る