第7話
改めて、阿部の方に注意を向けると……。
彼は体をぶるぶると震わせて、大きく目を見開いていた。
頬の紅潮も先ほどより激しくなっている。もう「頬の紅潮」どころの話ではなく、顔全体が真っ赤になっていた。
「雨上がりの白いタクシー……? 何じゃそりゃ……?」
「うん、子供の頃に聞いた怖い話で……。都市伝説とか怪談の一種かな。いや『都市伝説』って言ったら大袈裟かもしれないけど……」
不思議そうに聞き返す岡田に対して、阿部が説明する。
「……雨が上がったタイミングで発生する怪異でね。外は雨が上がったのに、そのタクシーの中では、また降り出すんだ」
「密閉された車内で雨に降られたら、びしょびしょに濡れるどころか、溜まった水に
岡田がツッコミを入れるが、阿部が言っているのは、そういう意味ではないだろう。
ちょうど小島さんや私たちの状況に類似しているからこそ、阿部はこの話を持ち出したに違いない。ならば「外では上がっているのに、タクシーの中では雨」というのは「本当は晴れているのに、タクシーの中から見たり聞いたりすると、外では降っているように感じられる」という意味のはず。
ツッコミを入れた岡田自身、その点、頭では理解していたようだ。私だけでなく阿部もそう思ったらしく、岡田のツッコミは無視して、話を続けていた。
「あと、その怪談によればタクシーは白色で、でも乗車した客たちは赤とか青とか違う色だと思ってしまう、って……」
「なるほど。それも俺たちの件と合致するな。でも、そんな怪談、俺は聞いたことないぞ。たった今ここで、でっち上げたんじゃないだろうなあ?」
「そんなわけないだろ! だけど……」
岡田の横槍を強く否定してから、阿部は首を縦に振る。
「……うん、ごくごくローカルな怪談だったみたい。中学の友達も知らなかったから、僕の小学校限定だったかも」
「ああ、子供向けの怪談の一種か。『トイレの花子さん』みたいな……。でもその手の有名な怪談と違って、阿部の『雨上がりの白いタクシー』、ちっとも怖くないな」
岡田は笑い飛ばすような口調だが、阿部の態度は変わらなかった。
「いや、怖いのはここからだよ。さっき『乗車した客たちは赤とか青とか違う色だと思ってしまう』って言ったけど……」
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