第4話

   

「ちょっとトイレ行ってくる」

 と言って岡田が席を立ったのは、始まってまだ十数分の頃だった。

 私のビールのグラスなんて、まだ半分もいていない。岡田や阿部も同様だ。

 とはいえ、部屋全体を見回してみると、飲むのが早い連中は既に追加注文をしていた。二杯目のビールでなく、日本酒とかサワーとかを頼む者も出てきている。


 一際ひときわ賑やかな声が聞こえてくるのは、一年生たちが集まっているあたりのようだ。山下くんの姿も見えるが、タクシーで私たちと一緒だった時のかしこまった態度とは異なり、まるで別人みたいな笑顔を浮かべて、とても楽しそうな様子だった。

 私たちと同じテーブルの反対端にも、かなり騒がしい一団があった。女の子同士で固まっている集団だ。男子が近寄ろうとしないのは、何か女性特有の話題で盛り上がっているのだろうか。

 もしもこれが、いわゆる合コンのたぐいであるならば、女の子同士で集まることは避けて、男女均等に座っていくのだろうが……。私たちのサークルには、その手のイベントに慣れた者なんてほとんどいないし、今日の飲み会だって、あくまでも新歓コンパ。出会い目的のコンパとは違うのだ。こうしてコンパの様子を眺めるだけでも、うちが真面目なサークルだというのがよくわかる……。


 少しアルコールの入った頭で、そんなことを考えていると、岡田が戻ってきた。

「ちょうどトイレの出口で、小島さんと会ってさ。ちょっと話してきたんだけど……」

 小島さんは同学年の女子の一人で、誰にでも親しげに話しかけるタイプだ。おそらく彼女みたいな人こそが「コミュニケーション能力が高い」と称される典型なのだろう。

 そんな小島さんなので、廊下ですれ違えば立ち話くらいするのは当然のはず。それなのに今の岡田は、何やら怪訝そうな表情を浮かべている。

 一体いったい何があったのだろう? しかし私が反応するより早く、阿部が岡田の言葉に食いついていた。

「小島さん……? 小島さんが、どうかしたのか?」

   

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