第14話 友人
そんな中で、今も変わらず秋生と遊んでくれるのは、高校時代の同級生である「鵜飼航」だけだった。鵜飼は昔からの友人で、あの頃と変わらず、物欲に満ち溢れた生活を送っている。特に、アイドルへの情熱は衰えるどころかますます燃え上がっており、毎月のように新しいグッズや限定版CD、写真集を次々と購入している。その情熱と物欲には、秋生も時折呆れるほどだったが、同時に羨ましくも感じた。
「航、お前は本当に変わらないな」
と、秋生は鵜飼と一緒にいるとき、よくそう言って笑った。鵜飼はいつもニコニコしながら
「俺はこれが生きがいだからさ」
と返してくる。彼は仕事の合間に推しアイドルの情報をチェックし、休日にはイベントやライブに参加して、その情熱を存分に発揮していた。秋生とは違い、鵜飼は自分の好きなことを一貫して追い続け、それが彼の生活に確かな充実感をもたらしているのだ。
秋生は時々、鵜飼と一緒にアイドルのライブに誘われたり、グッズを見せられたりすることもあった。最初は彼の趣味に興味がなかったが、鵜飼の情熱に触れるたびに、うらやましい気持ちが大きくなっていった。それでも、秋生は自分が心から熱中できるものをまだ見つけられずにいた。
「お前さ、FIRE達成して好きなことやってるはずなのに、なんでそんなに寂しそうなんだよ?」
ある日、鵜飼はふとそんなことを口にした。
秋生は一瞬、返答に困った。確かに自由な時間は手に入れたが、心のどこかで満たされない部分が残っている。鵜飼のように、自分を夢中にさせる何かが見つからないことに苛立ちを感じていた。
「分からないんだよ、自分でも。やりたいことをやろうとしてるのに、なんだかどれも本気で楽しめてない気がしてさ…」
秋生は正直な気持ちを吐露した。
「まあ、そんな時もあるさ。無理に見つけようとしなくても、そのうちまた何かにハマる時が来るんじゃないか?」
鵜飼は軽い調子で言いながら、携帯電話で新しいアイドルグッズの情報をチェックしていた。
秋生は鵜飼のその姿を見て、少しだけ気が楽になった。彼のように、無理せず自分の好きなことを続けることが大事なのかもしれない。今はまだ、はっきりとした答えは見つかっていないが、鵜飼の存在が秋生にとって心の支えになっていることは確かだった。
秋生は自由を手に入れたものの、次第にその自由が重荷に感じられるようになっていた。やりたいことを一通り試してみた後、何もかもが空虚に思えてきた。以前のように充実感を感じられなくなり、時間を持て余す日々が続いた。そのうち、秋生は再びお酒に手を伸ばすようになった。
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