第13話 FIRE後
気のせいだった。
FIREを達成し、自由な時間と経済的な余裕を手に入れた秋生は、長年の夢を次々と実現していった。まずは、かねてから訪れてみたかったカンボジアのアンコールワットへの旅。荘厳な遺跡群を目の当たりにし、歴史の深さと美しさに心を打たれた。その後も、国内外の名所を巡り、これまで味わったことのない贅沢な時間を過ごした。
また、地元で評判の高い料亭にも足を運び、これまでの生活では手の届かなかった美食を堪能した。高級な食材を使った繊細な料理の数々は、秋生の舌と心を満たしてくれた。
しかし、そんな充実した日々も半年が過ぎると、次第に新鮮さを失っていった。最初は新しい体験に胸を躍らせていたものの、やがて「次は何をしようか」という考えに悩まされるようになった。行きたい場所はほとんど訪れ、食べたいものも食べ尽くした。自由な時間はたっぷりとあるが、何をすればいいのか分からなくなっていった。
朝、目が覚めても特に予定はない。テレビをつけても、特に興味を引く番組はない。かつての同僚たちは仕事に励んでおり、平日の昼間に会える友人も少ない。新しい趣味を見つけようとしても、なかなか心を掴むものが見つからない。
次第に、秋生の心には虚無感が広がっていった。経済的には何の不自由もないはずなのに、心は満たされない。日々の生活に張り合いがなく、気力が失われていくのを感じた。これまで仕事という大きな柱があった生活から、それがなくなったことで、自分が何のために生きているのか分からなくなってしまったのだ。
「一体、俺は何をしているんだろう…」
秋生は自問自答を繰り返した。自由を手に入れることが目標だったはずなのに、その自由が今では重荷に感じられる。やることがない時間が増えるほど、心の中の空虚さは増していった。
秋生は再び、自分の生きがいを探す旅に出る必要があると感じ始めた。ただお金や時間があるだけでは、人は満たされない。何か目的や使命感が必要なのだと、秋生は痛感した。
こうして、秋生は新たな目標や生きがいを見つけるための模索を始めることとなった。FIREを達成した後の生活が必ずしも幸福をもたらすわけではないという現実に直面し、彼は再び自分の人生を見つめ直す時を迎えていた。
秋生がFIREを達成し、仕事を辞めてから数ヶ月が経過した。最初の興奮と新しい生活への期待が次第に薄れ、やることがなくなっていく中で、彼は徐々に孤独感を感じ始めていた。やりたいことをやるために飛び出した会社の人たちには、なんとなく顔を合わせづらくなっていた。特に、仕事を辞めた後の生活が思ったほど充実していないことに気づき始めると、以前の同僚たちに自分の今の姿を見せるのが怖くなってきた。
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