第10話 さらにミス

秋生の生活は、コロナ禍で大きく変わった。工場の仕事以外では外出がほとんどできず、週末は自宅で過ごすことが増えた。最初はテレビやYouTube、読書で時間を潰していたが、次第にその生活に飽きが来て、週末にお酒を飲む習慣がついてしまった。孤独感やストレスが募る中で、お酒は彼にとって唯一の楽しみのようになっていた。

ある金曜日の夜、秋生はいつものように缶ビールを開け、ゆっくりと飲み始めた。次第にアルコールが体に回り、気分が高揚していく。彼は普段からチェックしていたインデックス投資や株式市場の情報を携帯電話で眺めながら、ふと目に留まったのはテスラの株価だった。ここ数ヶ月で急騰しているというニュースは耳にしていたが、酒に酔った勢いで、それまでの慎重な自分を忘れてしまった。

「ここで一発、人生を変えるような投資をしてみるか…」

秋生はふと、そんな衝動に駆られ、携帯電話の画面を操作し始めた。普段ならありえない行動だが、その夜は何かに突き動かされるように、彼は手持ちの貯蓄を確認し、そのほとんどをテスラ株に投資することを決めてしまった。

「1,000万円…これでいけるか…」

彼は酔った頭でそう考えながら、証券アプリで購入手続きを進めた。画面上で株の購入が完了した瞬間、彼は一瞬の興奮を感じたが、その後すぐにまた酔いに任せて眠りについてしまった。

翌朝、秋生が目を覚ましたとき、頭は鈍い痛みに包まれていた。二日酔いの重さに耐えながら、昨夜の記憶が少しずつ蘇ってきた。彼は携帯電話を手に取り、証券アプリを開く。そこで目にしたのは、信じられないような事実だった。

「まさか…本当にやってしまったのか…」

秋生は目を疑ったが、画面には間違いなくテスラ株を1,000万円分購入した履歴が表示されていた。心臓がドクドクと音を立て、手が震え始めた。

「なんてことを…」

彼は自分の無謀な行動に対する後悔の念に苛まれた。これまで堅実に積み上げてきた貯蓄を、たった一晩の酔いと衝動でほぼ全て投じてしまったのだ。秋生は冷や汗をかきながら、頭を抱えた。これまでの自分の努力と慎重な生活を一瞬で無にしてしまったように感じ、胸が締め付けられるような思いに襲われた。

「どうしよう…どうすればいいんだ…」

彼はパニックになりそうな気持ちを必死で抑えようとしたが、心は乱れたままだった。株価が上がるか下がるかも分からない不確実な状況に、秋生はこれまで感じたことのない不安と恐怖に襲われた。

「もしこれで失敗したら…」

その考えが頭をよぎるたびに、秋生は自分を責め続けた。堅実な生き方を信条としてきた自分が、こんな愚かなことをしてしまったとは信じられなかった。

結局、その日は何も手につかず、ただひたすらテスラの株価を追い続ける一日となった。これからどうするべきか、秋生は自問自答を繰り返しながらも、時間だけが無情に過ぎていった。

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