第9話 ミス

ある日、秋生はいつも通り作業ラインの監視をしていた。魚肉ソーセージの製造が順調に進んでいるように見えたが、その日はどこか注意が散漫だった。通常よりも少ない人数での対応や、先日の高橋君との会話や自分の投資についての考えが頭の片隅に残っていて、いつもなら気に留める小さな異常にも気づけないでいた。

ラインの監視モニターに目をやり、機械の稼働状況を確認していると、突然アラームが鳴り響いた。秋生は一瞬何が起きたのか理解できず、次に異常を示す赤いランプが点滅しているのに気づいた。急いで異常個所を確認しに駆け寄ると、原料の供給ラインに問題が発生していた。魚肉のペーストが正常に供給されず、ラインが詰まってしまっていたのだ。

「しまった…」

と秋生は思わず声を漏らし、急いで機械を停止させる。周囲の同僚たちも異常に気づき、対応に駆けつけてきた。ライン全体が停止し、工場内には緊張感が漂った。

秋生はすぐに上司に報告し、トラブル対応に取り掛かったが、ラインの再稼働までに時間がかかってしまった。製造されたばかりの魚肉ソーセージの一部は品質に問題が出る可能性があるため、廃棄処分せざるを得なかった。これは工場にとって大きな損失だった。

トラブルが一段落し、作業ラインが再開されると、秋生は内心で大きな責任を感じていた。すぐに気づいて対応していれば、ここまでの事態にはならなかったはずだ。心の中に悔しさと自己嫌悪が渦巻いていた。

休憩時間に入ると、秋生は上司の呼び出しを受けた。事務所に入ると、厳しい表情の上司が待っていた。

「秋生、お前がラインの監視をしていたはずだろう?どうしてこんな異常に気づけなかったんだ?」

上司の声には怒りと失望が滲んでいた。

秋生は言葉に詰まりながらも、

「申し訳ありません、気づくのが遅れてしまいました…」

と絞り出すように答えた。

「遅れてしまいました、じゃ済まないんだよ!君の役目は、そういう小さな異常にもすぐに気づいて対処することだろう?今日のトラブルでどれだけの損失が出たか分かっているのか?工場全体に迷惑をかけることになったんだぞ!」

上司の言葉は重く、秋生の心に突き刺さった。彼は何も言い返せず、ただ黙って頭を下げるしかなかった。自分がしっかりしていれば防げたミス。それが原因で皆に迷惑をかけてしまったことが、秋生をさらに追い詰めた。

「今日のことは反省して、今後は二度とこんなことがないようにしてくれ。分かったな?」上司はそう言って、秋生に厳しい視線を向けた。

「はい、分かりました。次は必ず気をつけます…」

秋生は力なく答え、事務所を後にした。

工場に戻る途中、秋生は自分の不注意がもたらした結果に胸を締め付けられる思いだった。普段はしっかりと監視しているはずのラインで、どうして今日は気づけなかったのか。知らず知らずのうちにストレスがたまっていたのか。それとも以前の高橋君との会話や投資のことが、無意識のうちに頭を占領していたのかもしれない。

「俺がしっかりしないと…」

秋生は自分に言い聞かせるように、深く息を吐いた。これまで堅実に生きてきたつもりだったが、その堅実さが揺らいでしまった瞬間があったのだ。

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