第6話 後輩SHOCK

夜に秋生はいつもの工場勤務を終えた後、高橋君と約束した鳥貴族へと向かっていた。工場から少し離れた場所にあるこのチェーン居酒屋は、安価で気軽に飲めるため、従業員たちにも人気の場所だ。高橋君との約束を果たすために、秋生は早めに到着し、店内の奥まった席に座った。少し後に高橋君が現れ、軽く会釈をしながら席についた。

「お疲れさまです」

と高橋君は少し緊張した表情でビールを頼み、秋生もそれに倣う。二人がビールで乾杯を交わし、最初の一口を飲み干した後、しばらくは仕事の話や軽い雑談が続いた。しかし、秋生は高橋君が何かを言いたそうにしているのを感じていた。

「秋生さん…実は、今日の話なんですけど…」

と、やがて高橋君が切り出した。彼は目を伏せながら、深呼吸を一つして続けた。

「仕事を…やめようかと考えているんです。」

秋生は少し驚きつつも、表情に出さずに話を聞いた。やはりそのことか、と内心では思っていたが、どうしてそう思うに至ったのかを知るために、あえて黙って高橋君の話を待った。

「最近、どうしてもやりがいを感じられなくなってしまって…。工場の仕事は確かに安定してるし、皆さんも良くしてくれてるんですけど、なんというか…このまま続けていても自分の将来が見えないというか…。本当はもっと他にやりたいことがあるんじゃないかって思うようになったんです。」

高橋君は言葉を探しながら、少しずつ心の内を打ち明けていった。その様子から、彼がかなり真剣に悩んでいることが伝わってきた。秋生は真摯に彼の話を聞き、時折頷きながら、言葉を選んで返事をしようとしていた。

「そうか…仕事ってのは、時にはそう感じることもあるよな。確かに、やりたいことが見つからないときは、どこに向かっているのか分からなくなるものだ。でも、一度辞めると次に進むのも大変だぞ。特に、何か明確なプランがないと…」

秋生がこう言いかけたところで、高橋君が少し躊躇しながらも、意を決したように言葉を続けた。

「それが…実は、今言ったこと以外にもう一つ話があって…。誰にも言わないでほしいんですが、実は…ビットコインで、結構儲かってしまいまして。」

その言葉を聞いた瞬間、秋生は思わず目を見開いた。高橋君がビットコインで利益を出している?彼の頭の中で、その情報が一瞬整理できずに混乱が広がった。普段、工場での仕事に集中しているように見える高橋君が、まさか仮想通貨に投資していたとは夢にも思わなかったからだ。

「…ビットコインで利益を?」

秋生はその言葉を繰り返し、驚きを隠せなかった。

「はい、実は2年前くらいから少しずつ投資を始めて…最近、かなりの利益が出たんです。それで、自分のこれからの人生についていろいろ考えるようになって…。仕事を続ける意味があるのかどうか、正直迷ってます。」

高橋君は少し照れくさそうに言いながら、しかし真剣な目で秋生を見つめた。彼は、本気でこれからの人生をどうするべきかを考え、工場勤務と投資の間で葛藤しているのだ。

秋生は驚きを隠しきれなかったが、高橋君の話を真剣に受け止めた。工場で堅実に働くことが自分の人生の軸になっている秋生にとって、この種の話は全くの未知の領域だったが、若い後輩が自分なりの道を切り開こうとしていることに対して、どこか尊敬の念も抱いていた。

「そうか…お前、そんなこと考えてたんだな。確かに、大きな利益が出ているなら、将来の選択肢が広がるのも分かる。だが、焦る必要はない。じっくりと自分の気持ちと向き合って、後悔しない決断をすることが大事だぞ。」

秋生は冷静にアドバイスをしながらも、内心では若い世代の新しい生き方に驚かされていた。二人の間に流れる微妙な緊張感と共に、秋生は高橋君の今後の選択がどんなものであれ、彼を支えていきたいと思っていた。

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