第2話 工場の日常
秋生は自転車を駐輪場に停め、工場の入口へと向かう。時刻は午前7時前。工場の周りはまだ少し静かだが、入口に近づくにつれて機械の稼働音や従業員たちの声が微かに耳に入ってくる。彼は入室用のカードをスキャンし、工場敷地内へと足を踏み入れる。
まずは更衣室に向かい、作業着に着替える。白い作業着にヘアネット、そしてマスクを着用し、手洗いと消毒を済ませた後、ラインに向かう。
工場内は冷たく整然としている。高い天井の下、広いスペースには大きな機械やベルトコンベアが配置されている。ここは魚肉ソーセージの製造ラインだ。
彼の担当するエリアは、原料の魚肉が処理されるセクションだ。冷凍の魚肉が大きな容器に入れられ、巨大なミキサーで混ぜられる工程を見守るのが彼の仕事の一つだ。
秋生は機械の設定を確認し、温度や混合時間を細かくチェックする。少しのズレでも品質に影響が出るため、慎重に行わなければならない。彼はモニターに表示されるデータを見ながら、機械が正常に動作しているかを確認する。何年もこの仕事を続けているため、どこかに異常があればすぐに気づく自信がある。
混合が終わると、次は魚肉のペーストがチューブに詰められる工程に移る。秋生は機械が正確に作動しているか、目視で確認しながら作業を進める。ライン上を流れてくるチューブがスムーズに動き、どのチューブも均一な形状であることが求められる。機械が少しでも不調をきたせば、すぐに修正を加えるのが秋生の役目だ。
ソーセージの形に成型されたチューブは、その後、高温での蒸し工程へと進む。秋生は蒸し器の温度を適切に設定し、蒸し時間を正確に計る。蒸し時間が長すぎると風味が損なわれ、短すぎると食感が悪くなるため、この工程も細心の注意が必要だ。秋生は何度もデータを確認しながら、ソーセージが理想的な状態に仕上がるよう気を配る。
作業の合間に、彼は製品のサンプルを取り出し、品質検査を行う。色、香り、触感、そして味を確認し、規定の基準を満たしているかを判断する。この瞬間、秋生は自分の仕事の成果を直接感じることができる。それが彼にとって大きなやりがいとなっている。
休憩時間になると、秋生は同僚たちと簡単な会話を交わしながら、一息つく。彼らも同じく堅実な生活を送り、工場での日々の仕事に誇りを持っている。彼にとって、この職場はただの働く場所ではなく、自分の人生を支える大切な拠点なのだ。
午後になると、また同じルーチンが繰り返される。工場の作業は一見単調かもしれないが、秋生にとっては、これが日常の大切な一部であり、何よりも確実な仕事をすることが彼の信条である。ソーセージが次々と製造され、出荷準備が整う頃、秋生は今日も一日、確実に役割を果たしたという満足感を胸に抱いている。
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