第16話 お華

          △16 お華


     ・忠治はお華を連れて村はずれまで来る。

忠治「ここから先は一人で行ってくれ。おれは赤城の山だ」

お華「あたしも」

忠治「ならねえ」

お華「なんなくても一緒に」

忠治「そりゃー親不孝ってもんだ。母親を見捨てて行くなんざ」

お華「違う。そうじゃない。親不孝じゃない」

     ・お華、そういってしゃがみこむ。自分の思いがうまく伝えられないの

      に苦しむ。

お華「親分を利用して悪いけど、親分と一緒におっかさんを助けたいの。そうすれ

   ば」

     ・「そうすれば」のあとに、お華は何をいいたかったのか。

忠治「おれが行きゃー事態を一層悪くする。役人もおっかさんまではしょっぴきゃ

   ーしねえ」

     ・少しのマ。

忠治「臥しているおっかさんを連れて静かな所で暮らすんだ。おっかさんを大事に

   な。成エ門どんのことは忘れねえよ」

お華「うちへ戻ればまた役人に捕まって、忠治さんはどこだって責められる。忠治

   さんをおびきよせるために、あたしはまた利用される。おっかさんはうちで

   働く人たちがきっと何とかしてる。大丈夫よ、うちの人たちがきっと」

忠治「だからサ、遠くからうちん中をさぐって、あぶねえーと思ったら誰かにかく

   まってもらえ。成エ門さんの娘だ、邪険にゃーするめえ」

お華「忠治さん……」

忠治「振り向くんじゃねえ。行け」

     ・そういって忠治、お華の両肩をつかんでくるりとまわし、背中をドン

      と突く。

     ・お華、よろよろと行く。

     ・忠治は一目散に赤城の山へ。

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