第15話 勘助

          △15 勘助


     ・忠治、子分たちと山を下りる。

     ・村里の往還、お華が縛りつけられている樫の木の近くで、物陰から様

      子を探る忠治たち、小声で。

文蔵「見張りが三人しかいねえ。出てこいとばかりの罠だ」

友五郎「どうせ向こうの家(うち)に役人がどさっとひそんでる。音を立てねえで三人

   をやりてえな」

才市「おれが通りがかりの風をして、一人に煙草の火を借りる。脇へ誘って静かに

   落とす」

友五郎「おれが真ん中の野郎の首を絞める。浅、おめえ得手の槍でもう一人をやれ」

浅次郎「声はきっちりは消せねえ。仕方なく出る」

才市「槍でつかれりゃー声が出る。仕方がねえ。いちばん最後にやりな。最後なら

   声を出されても」

友五郎「親分は桐晁を連れて、娘さんを助けてやっておくんなさい。あとはおれた

   ちにかまわず一心に逃げていただいて。山で会うことにいたしやしょう」

忠治「分かった。そうさしてもらうぜ」

     ・才市、通行人の風をして役人の声をかけ、端へ行って煙草の火を借り

      る。役人、火打ち石で火をきる。そのとき才市の左手が相手の口を封

      じ、ドスが心の臓をつらぬく。役人の頭が才市の肩にかかって寝たよ

      うな恰好になる。

     ・間髪をいれず、友五郎が一人の役人の首を布でしめる。

     ・浅次郎が残りの一人に向かって槍をつく。が、一発で仕留められず、

      でっかい悲鳴があがる。

     ・忠治と桐晁、お華を助ける。

お華「親分さん」

忠治「何もいうな」

お華「おとっさんが」

忠治「それも聞いた。骨は拾ってやる」

     ・ひそんでいた捕り方役人たち出てきて、チャンチャンバラバラ。

お華「おっかさんも倒れてしまって、わたしもう生きる甲斐が」

忠治「だから生きるんだお華ちゃん。生きてもらわにゃ助けに来た甲斐がねえ」

お華「忠治さん」

     ・そこへ浅次郎のおじ十手持ちの勘助が現れて。

勘助「浅次郎、出てくるなとあれほどいったのが分からなかったかバカやろう。こ

   うなりゃー四の五のいうひまはねえ。甥っ子を縄にかけるとは因果なことヨ」

浅次郎「おじき、後ろへ下がっててくれ」

勘助「バカやろう。おれが先頭切っているから、ほかの連中が前へ出てこねえんだ」

浅次郎「えっ、じゃー、おじき」

     ・勘助の十手と浅次郎の長脇差しとがからんで、二人の顔が近づく。

     ・勘助、小声で。

勘助「浅、おれを切れ。そうすりゃー一瞬捕り方がひるむ。その隙(すき)に忠治親分

   と共に逃げるんだ。おれは忠治親分には義理がある。十手は向けられねえ」

浅次郎「そんな-。おれに切れってか。ちいせえ頃から面倒みてくれた勘助おじさ

   んを切れってか」

勘助「そのくれえできねえで何が渡世人だ。一丁めえはまだ早え」

浅次郎「渡世人だからできねえんだ。国定一家だからできねえんだ」

勘助「ぐずぐずしてると、ほかの捕り方が気づくぞ」

     ・二人が絡み合っているところへ他の捕り方が加勢に現れる。

     ・浅次郎、烈しく戦う。

     ・浅次郎を狙う鉄砲が火をふく。

     ・弾は浅次郎ではなく、勘助の背中を射ぬく。

浅次郎「おじきーーー」

勘助「早く、早く行け」

浅次郎「こんなってあるかい。こんなことって」

     ・国定一家の子分も何人かやられる。

     ・国定一家、その場を引きあげる。

     ・捕り方、赤城山へ向かって追う。

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