第14話 成ェ門
△14 成エ門
・赤城の山、大勢の子分がいる。
子分「円蔵兄い、また村の衆が喰いもんを運んできてくれやした」
円蔵「役人にあとをつけられちゃいまいな」
子分「でえじょうぶです。山の入口でよく調べあげておりやす」
円蔵「やくざもんのおれたちが百姓衆に助けられるってーのは奇妙なこった。親分
が百姓衆を大事にしてきたお蔭だ」
・忠治、現れる。
忠治「そうじゃーねえ。おめえたちが素人衆に手を出さなかったからよ。痩せても
枯れても国定一家、渡世人同士の博奕と、役人をかまうのが本業、素人衆に
手を染めさせちゃー任侠道に恥じるからな」
・任侠;任はうけあう、になう。侠は義にいさみ強者をくじき弱者をた
すけること、またその人。ちなみに侠客の客は各地を転々とする人士。
・浅次郎、現れて。
浅次郎「親分、成エ門どんが捕まって」
・マをおいて。
浅次郎「殺されちまったそうです。親分の居所を教えろと責め立てられて。知らね
え、いわねえを通して」
・浅次郎、悔し涙を落とす。
忠治「誰からの話だ」
浅次郎「十手を預かってる勘助おじきの話です。きょう里に下りて、お上の動きを
聞き出したんです、おじきから」
忠治「お華ちゃんはどうしたィ」
浅次郎「それが……」
忠治「生きてるか死んでるか、いってみろ」
浅次郎「大通りの樫(かし)の木の胴っ腹に縛りつけられて、高札(たかふだ)に、国定
忠治が二日の内に出てこなければ女のいのちはない、と」
・高札はコウサツと読むが、庶民はタカフダともいったようだ。
忠治「罪もねえ娘を痛めつけやがって、役人め」
民五郎「親分、これは罠もいいとこですぜ」
忠治「罠であろうと何であろうと、口を割らねえで死んでいった成エ門どんの娘を
助けに行かねえとなりゃー、人情も地におちる」
円蔵「けど親分、それはあまりに無茶だ。今度ばかりは向こうも百人二百人の構え
で待ってますぜ」
・忠治、キッとした顔をになる。
円蔵「そうじゃねえ、助けねえってことじゃねえ。おれたちがゆきまさサー。親分
はここに残っておくんなせー。成エ門どんの骨を拾って、お華ちゃんを無事
に助け出すくれえ、訳はねえ」
民五郎「そうでさあ」
・子分ら、口々に。
子分ら「そうでさー、あっしたちに任してくんなせえ」
子分ら「あっしら、殺されるとこー助けられたり」
子分ら「飢え死に寸前を拾ってもらったり」
子分ら「いのちは疾(と)うになかったんだからな」
子分ら「いのちは有効に使わなきゃーな」
子分ら「合点よ」
・忠治、ちょっと考える。
忠治「ここに残って、おまえらを死ににゆかせてへっちゃらなら、そういうことが
できるくれえなら――二足の草鞋をはいて、もうちっと上手くやったさ。出
来っこねえだろ。おれは行くよ。止めねえでくんな。円蔵、おめえはここを
守ってくれ。浅、文蔵、民五郎に友五郎、才市(さいち)、桐晁(きりちょう)、
一緒にこい」
・子分ら「承知の助」
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