第11話 泥さらい

          △11 泥さらい


     ・連日連夜おこなわれる博奕。

     ・例幣使を脅かしたことで八州廻りが忠治一家の動向に目を光らせてい

      る。だが兇暴な忠治には簡単に手を出せない。

     ・賭博で稼いだカネをつぎこんで磯沼浚渫(しゅんせつ)がはじまる。

     ・浚渫がはじまって喜ぶ人々の姿。

     ・忠治と成エ門、沼のへりで腰かけている。

     ・成エ門の娘お華(はな)が泥だらけの姿の父親を見つけて。

お華「おとっさんも、きょうは来るだろうと思って、昼めし持ってきたわ」

成エ門「おれは要らねえ。済ましてきた。昼めし持ってきたんなら、こちらの方へ

   やんねえ」

お華「昼めしたってイモのふかしたのよ。知らない方に…」

忠治「あっしも済ましてきた。気遣い無用でんす」

     ・忠治、お華の土方(どかた)支度を見て。

忠治「成エ門どん、娘さんを泥さらいの土方に出しているんですかい」

成エ門「ロクなことはできやしませんが、こんなときです、うちの者がやらなけれ

   ば他人(ひと)さまにゃ頼めませんからね」

忠治「さすがに、ほかの名主たァ違う。てえしたもんだ」

成エ門「なに当たり前のことでして」

     ・と忠治に答えて、娘に向かって。

成エ門「おめえもちったァ泥さらいの助っ人ができるようになったか」

お華「威張れたほどではないけれど」

     ・と父親に答えて。

お華「おとっさん、こちらの方)は」

成エ門「忠治親分だ。あいさつしな。沼さらいができるのもこの方のおかげだ」

お華「親分て、泥さらいの親分ってこと?」

成エ門「こら、泥さらいの親分とは何事だ」

忠治「いやいや世の中の泥さらいみてえなことをしているんだから、いい得て妙っ

   てやつですな。おっとどっこい、こっちが泥だった。悪党のおれが生意気に

   なっちゃいかん」

     ・忠治、そういって呵々大笑する。

     ・この光景を遠くから眺める八州廻りとその手下(てか)ら。

八州「あれが忠治か」

手下「左様で」

八州「関所破りに人殺し。ご法度の賭場をひらき、昼ひなかに畏れ多くも天下の往

   還を歩きゃーがる。そのうえ、お上の仕事である沼の浚渫(しゅんせつ)。悪党

   の分際で太いやつめ。生意気にもほどがあるナ」

手下「すぐに引っくくりますか」

八州「浅知恵よ。子分どもがどこに隠れているか分かるまい。百姓どもも忠治の味

   方だっていうじゃないか。そんなことも考えず踏みこめるか」

手下「畏れ入りやした」

八州「わきにいるのは誰だ」

手下「名主の成エ門で。探ったところ、何でも成エ門のほうから忠治に頼み込んだ

   ということで」

八州「なぬー、名主がやくざもんに頼みこむのか。どいつもこいつもお上を愚弄し

   ておる。すぐにしょっぴけ」

     ・手下は、すぐには踏みこめないといったばかりの八州が、「すぐに」

      といったので途惑う。

手下「エッ!?」

     ・八州も自分のいったことに策がなかったと察し。

八州「待て。どうせなら沼ざらいが終わってからのほうがいいだろ。忠治をひっつ

   かまえるのに成エ門は泳がせておこう」

手下「どぶ沼で泳がせるとは、さすがに八州のお役人さまはおっしゃることが違い

   ます」

      ・と、手下がゴマをするが、八州廻りは憤然と。

八州「つまらんことに感心するでない」

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