間話 カラオケボックス
2024/09/03 22:11更新
一話投稿し忘れたため、本エピソードを間話に変更。
残りのエピソードは追って公開します。
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少し強引に提案してみて、結果的にネネ先輩が折れてくれたおかげで。
僕らは三条~四条間の商店街を巡れることとなった。
クリスタさんによれば、ネネ先輩は結構なおしゃれさんということなので、僕らは古着屋の多い通りをチョイス。
初めはあまり乗り気そうではなかった(というか帰りたそうだった)ネネ先輩も、実際に街を巡れば、元気を取り戻してくれたようだ。
「革ジャン屋なんてあるものなのね! 昔の流行をなぞれるって、とっても新鮮だわ!」
とは、背中に青龍が描かれた黒字の革ジャンを試着させてもらった、ネネ先輩の言葉である。彼女の愛嬌と少しの暴力性を知っているせいで、余計に似合って見えてしまったのは内緒だ。
とは言え、流石に即決で購入できるような値段はしていなかったわけなんだけど……僕もいくらか用意してきたおかげで、彼女に一着プレゼントすることができたのだ。
その時の彼女の喜びようといったら、なかなか筆舌に尽くしがたいものではあったのだけれど、そんな光景を見せられては、一抹の不安も付きまとうもので。
つまり僕は、疑っていたのだ。
彼女が無理をして、僕に元気な姿を見せようとしてくれているのではないかと。
「見て、いぶりがっこおにぎりですって! どんな味がするのかしら!」
傍から見る限り、彼女は本気で楽しんでくれてくれているように見える。だからこそ心配なのは、そのメッキのような取り繕いが、僕と別れた瞬間に剥がれてしまうのではないかということだった。
出店のように構えるおにぎり屋の、丁度後ろにあったそれに助けを求めたのは、そうした理由もあったのかもしれない。
「先輩。もしよかったら、今からカラオケ行きませんか」
つまり、どこか落ち着ける場所で疲れさせてしまえば、彼女の本心が聞けるのではないかと。
我ながら、やり口が回りくどくて厭になる。
◇◆◇◆◇
「オービタルダイブ! オービタルダイブ!」
まあそんなわけで、僕らは昼フリータイムに飛び入り参加しながら、カラオケ店三回の個室に進むことができたのだけれど。
「オービタルダイブ! オービタルダイブ!」
僕がジンジャーエールの泡立ちやすさに悪戦苦闘しつつ、ドリンクバーからの復路を遂げたところで、ネネ先輩がそんな歌詞を熱唱していた。
事態を把握すべくテレビ画面を見てみたら、いかにもセル画タッチなアニメ映像が流されている。
「オービタルダイブ! オービタルダイブ!」
要するに、ネネ先輩が一曲目に選んだのは、とあるロボットアニメのオープニング曲みたいだな……。
「オービタルダイブ! オービタルダイブ!」
そんなことを考えていたらカメラが下からグイっと上がってタイトルロゴがデェーンと写し出された。
なるほど。どうやらこの曲は「月衛守護神オービタルダイバー」というらしい。地球の衛星である月に続いて、
「満天を多いつくーしたー! おびたただしい数のーてきーィ!」
保護艦隊直営モールで鍛えられていなかったらこのわざとらしい味は受け付けなかったかもしれないが、残念ながら僕は現エージェントだからな。このくらいなんてことはない。
「何を突っ立ってるん
なんてわかりやすい歌い口なんだ。
正直ロボットアニメは全く見たことがないんだけど、ド迫力の巨大ロボが縦横無尽に飛び回る様を魅せられるだけで、スーパーなロボットだということが嫌でも理解できてしまう。
「地球がどうなってもいいのーかーいー!?」
『Get ready! Orbital dive!!』
すごいぞ! カラオケ画面に灰字で写し出された歌詞が、圧倒的な高音でスピーカーから響いた!
一瞬悩んでしまったけれど、全く合いの手を入れる必要がなさそうだ!
「オービタルダイブ! オービタルダイブ! 月の上から奇襲かけろ!」
すごいぞ! とても名前で三回も守るって言ったやつが言っちゃいけないセリフが聞こえた!
「オービタルダイブ! オービタルダイブ! 侵略者の脳天を割れ!」
すごいぞ! すごい物騒!
「オービタルダイブ! オービタルダイブ! 彼らの故郷(ほし)へ送り返せ!」
あ、一応命までは取らないでくれるんだ。優しいね。
「オービタルダイブ! オービタルダイブ! オービタルダイブ! オービタルダイブ!」
サビが終わりに近づいたところで、自然にネネ先輩の方へ目線を送ってしまう。彼女はあくまでモニターに集中しているが、僕の目を見ると照れくさそうに音程を外してしまった。
少しだけ歌う首元が項垂れて、そのまま左右にブンと振られる。そうすると、彼女の灰髪から煌めく汗が飛んだのが見えた。
その光景が、僕にはどうにも幻想的に見えてしまって。
まるで、星の出始めた夕空のように薄暗いカラオケボックスが、妙に明るく見えてしまったのだ。
「空の彼方にそびぃーえたー!」
まあ、オービタルダイバーはそんな僕を置いて、二番に突入し始めたんだけどね。というか今更だけどこれ、歌詞の7割くらいはオービタルダイブで作られてるんじゃないだろうか。改めてすごい歌だな。
まあでも、いつまでもジンジャーエールを持って固まっているのもなんだしね。せっかくなら僕も、リズムに合わせた足踏みと手拍子で、最大限彼女を楽しませようじゃないか。
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